第47話

 ――――廃墟ナフタリ

 ハインの頭部と胴体から噴き出していた青い血が収まる。

 おびただしい量の青い血が、ナフタリの地面を青く染め上げた。

 ザフィーアは刀についた血を振り払い、刀を鞘に収める。

 そして、ザフィーア、ルービィ、ディアの三者は言葉を発することなく、暫くその場で立っていた。

 すると突然、

「クスクス、クスクス」

 という笑い声が聞こえてきた。

 ザフィーア達は無言のまま、辺りを見渡す。だが、声の主と思われるような者の姿は見当たらなかった。

 姿の見えない笑い声に、眉をひそめるザフィーア。ルービィとディアも無言のまま、軽く首を傾げた。

 すると、またしても

「クスクス、クスクス」

 と、先ほどの笑い声とは別の声が聞こえてきた。

 そして今度は、笑い声に続けて

「やられちゃったのね、ハイン」

 と、明確な言葉が聞こえてきた。

「銀のロッドの娘も誘い出せないままなんて……」

 続いて、先ほどとは別の声が聞こえてきた。

「所詮は塵ね。ま、期待はしていなかったけどね」

 今度は先とはまた違う、一番最初に聞こえた笑い声と同じ声が聞こえてきた。

「何者だ!?」

 ディアは辺りを見渡しながら、声の主に問いかける。

 すると、空から3体の女性が姿を現した。姿を現した3体の女性は、身体が羽毛で覆われており、肘より先が鳥の翼のような形状を、膝より下が鳥の足のような形状をしていることから、この3体がクリーチャーであるということをザフィーア達は察した。

 空から現れたクリーチャー達は、そのまま廃墟の壁上へと足を止める。

 すると、足を止めたクリーチャー達の姿を見たザフィーアは、その瞬間、

「貴様、足を退けろ!」

 と、声を荒げ、それと同時に臙脂色の髪と羽毛を持つクリーチャーに向かい、右手から氷塊を放った。

 臙脂色の髪のクリーチャーは、自身に向けられた氷塊をすぐさま飛び立ち間一髪で回避。そして、そのまま空に留まったまま、

「突然攻撃するなんて……。意外と乱暴ね」

 と、ザフィーアに言葉をかける。

 だが、ザフィーアはそんな言葉に反応する事はなく、ただ、臙脂色の髪のクリーチャーを睨みつける。

 そんなザフィーアの様子に。臙脂色の髪のクリーチャーは首を傾げながらも、先ほど自身が足を止めた場所を改めて見下ろす。そして、何かを察したかのように、

「あら、ごめんなさいね」

 と、クスリと笑いながら謝ると、先ほどまで自身が足を止めた、ボサボサの長髪白髪の中年男性の生首とは別の場所へと足を止めた。

 ザフィーアは怒りを押さえるかのように、フーッ、と息をつく。そして、感情を押し殺すかのように、

「貴様達、何者だ?」

 と、3体のクリーチャー達に尋ねた。

 ザフィーアの問いかけに、

「私はアエロ」

 と、臙脂色の髪のクリーチャーが答える。

 続けて、縹色の髪のクリーチャーが、

「私はオキュペテ」

 と答える。

 最後に、山吹色の髪のクリーチャーが、

「私はケライノー」

 と答えた。

 そして続けて、ケライノーと名乗った山吹色の髪のクリーチャーが

「我ら3体、妖帝ラファエル様の従者」

 と、答えた。

「ラファエルの従者!?」

 ケライノーの言葉に、驚いた反応を見せるディア。

 一方でルービィは、

「トリトンやポセイドンみたいな奴ってこと?」

 と、驚く様子はなく、純粋に疑問を投げつけた。

「トリトン、ポセイドン……。ああ、ガブリエルの」

 アエロと名乗った臙脂色の髪のクリーチャーは、少し考え、思い出したかのようにそう答える。

「まぁ、立ち位置的にはそうかしら?」

 オキュペテと名乗った縹色の髪のクリーチャーは、アエロの言葉に続けて、そう答えた。

「まぁ、あくまで立ち位置的には、だけどね」

 ケライノーと名乗った山吹色の髪のクリーチャーは、オキュペテの言葉に続き、そう言った。

「つまり、幹部級のクリーチャー、というわけだな」

 3体の答えに対しそう言うザフィーア。そして同時に、腰の刀に手をかけ、臨戦態勢に入る。

 そんなザフィーアを見たアエロが

「あら? 戦う気?」

 と、クスリと笑いながらザフィーアにそう言う。

 続けてオキュペテが

「でも私たち、用があるのは銀のロッドの娘なの」

 と、軽くあしらうようにそう言う。

「今日はご挨拶に来ただけ。だからこれで帰るわね」

 今度はケライノーが、ザフィーアにそう言った。

「もし、私たちと戦いたいのであれば、銀のロッドの娘も一緒に来てね」

 オキュペテは、空に飛び上がると、ザフィーア達にそう言った。

「尤も、地上の貴方たちが、私たちに会いに来れれば、だけどね」

 最後にアエロがそう言うと、3体のクリーチャー達はそのまま飛び去っていったのであった。

 ザフィーア達はそんな3体の様子を、ただ黙って見つめていた。

 3体の姿が見えなくなり、少しの沈黙の後、ディアが

「一度、ディナの都に戻りましょう」

 と、ザフィーアとルービィに声をかけた。

 両者は黙って首を縦に振ると、ナフタリを後にし、ディナの都へと向かったのであった。


 ――――ディナの屋敷・客間

「まぁ、これでハインの件については一段落ついたのだが……」

 ディナの都に戻り、屋敷の客間に集まった一同に、ザフィーアが事の顛末を説明する。

「ラファエルの従者、かぁ」

「ガブリエルみたいにそーいうクリーチャーがいるんだね」

 ザフィーアの指示によりディナの都に残っていたエスメラルダとアルディア。事の顛末をザフィーアから聞くと、エスメラルダとアルディアは口々にそう言った。

「とりあえず、先ずは裏通りの事件はこれで解決しました。ご協力、感謝いたします」

 ディアはそう言うと、アルディア達に向かい、頭を下げる。そして、頭を上げると、ザフィーアの方へ近寄り、

「タンザ殿の件、誠に残念です。何と言葉をおかけすればよいか……」

 と、小声で声をかけた。

「お心遣い、ありがとうございます。私は……大丈夫です」

 ザフィーアはディアにそう言うと、軽く一礼をした。

「しかし、次は天空宮かぁ」

 エスメラルダはそういうと、座っているソファの背もたれにもたれかかる。

「天空宮ってどういう場所なの?」

 天空宮というワードをこの場で初めて聞いたアルディアは、一同に天空宮について尋ねる。

「天空宮は、東の大陸の外海側山脈、北部の山頂に位置する宮です。位置としては、アシェル村が一番近いでしょうか」

「アシェルに!?」

 ディアの説明を聞くと、アルディアは驚いたようにそう言う。

 そして、同じくエスメラルダもディアの説明を聞くと、

「(最寄りなのに1年前まで無事だったんだな、アシェル村。って思ったけど、アルが居るし黙っておこう……)」

 と、心の中でそう思ったのであった。

「そう、最寄りはアシェル村です。ただ、問題は天空宮は地上から行く術がない、という点です」

「『ガド山道』からも難しい?」

 天空宮について説明をしているディアに対し、ザフィーアはそう尋ねる。

「ガド山道を進めば確かに山頂付近まで行けますが……。ただ、天空宮を視認こそできるものの、近寄ることは」

「成る程」

 ザフィーアはそういうと、腕を組み、目をつぶった。

「折角ハインの件を解決したと思ったら、今度は天空宮の問題かぁ~」

 エスメラルダはそう言うと、溜め息をつく。

「地上から行けないってなると、海底城の時みたいに何か特別な方法が必要って事?」

 アルディアが一同に尋ねるかのように、そう言う。

「そうだな。何らかの方法がないか、探す必要がありそうだな」

 アルディアの言葉に、ザフィーアがそう返した。

 すると、

「それでしたら、この屋敷内の書庫を案内しましょう。もしかしたら、天空宮へ行くための方法も見つかるかもしれません」

 とディアが一同に提案をした。

「書庫か~。何か見つかるかもだね」

 ディアの提案にエスメラルダはそう反応する。

 一方、ザフィーアは、

「……折角ですが、私は今回はやめておきます」

 と、答えた。

 いつもであればこのような提案があった際、エスメラルダ同様、積極的に動きそうなザフィーア。今回に限りこのような反応をしたことに、一同は少し違和感を覚える。

 だが、ザフィーアは続けて、

「私は一度、ルベンに戻ろうと思います」

 と、言葉にした。

 そのザフィーアの言葉を聞き、ディアは全てを悟った。そして、

「……わかりました。ザフィーア殿、お気をつけて」

 と、ザフィーアに言葉をかけた。

「ディア殿、申し訳ありません」

 ザフィーアはディアにそう言うと、頭を下げる。

 そして、頭を上げると、今度はアルディア達の方を見ると、

「悪いが、お前達はここで天空宮の行き方について調べておいてくれ」

 と言った。

「ルベンにはザフィさんだけで帰るの?」

 アルディアはザフィーアに尋ねる。

「ああ、すまない」

 ザフィーアはアルディアにそう返した。

「何か事情があるんでしょ? わかったよ、僕たちだけで調べるよ」

 エスメラルダは何かあると察し、ザフィーアにそう言った。

 ザフィーアは、

「すまない。何かわかれば、ミニオンで連絡を取ろう」

 と言った。

 こうしてこの日は解散。翌日、ザフィーアのみ、港町ルベンに向かって出発したのであった。


 ――――港町ルベン

 ザフィーアがディナの都から旅立ち数日が経過した日。

 ザフィーアはルベンに足を踏み入れた。

 その背中には大きな葛籠を背負い、そのまま自宅へと真っ直ぐと向かう。

 そして、ザフィーアは自宅に辿り着いた。


 ――――ザフィーアの家

「ただいま」

 ザフィーアはそう言うと、家にあがる。

「おかえり。ってアレ、アンタだけなの?」

 ザフィーアの声を聞き、奥から顔を出したマリン。マリンはザフィーアの姿しかない事に気づき、ザフィーアにそう尋ねる。

「ミニオンで連絡しただろう……。今回は私だけだ」

「ふーん。ま、いいや、上がりなさいよ」

 ザフィーアの言葉にそう返すマリン。

 そしてザフィーアとマリンはそのまま奥に上がった。


「で、ディナの都ではどうだったの?」

 部屋に上がると、マリンは早速ディナの都での出来事をザフィーアに尋ねた。

 ザフィーアはディナの都での出来事の顛末を、細かくマリンに語った。そして、その中で、義父タンザの事も、マリンに伝えたのであった。

 タンザの事を聞くと、俯き、黙ってしまうマリン。両者に暫くの間、沈黙が続いた。

 そして、暫くすると、マリンが沈黙を破るかのように、

「あ、そうだ。そういえば氷室の魔石に魔力を入れなきゃ」

 というと、立ち上がり、そそくさと奥へと姿を消そうとした。

 そんなマリンを見て、ザフィーアは、

「マリン。今は私と、お前しかいない」

 と、声をかける。

 ザフィーアがそう言うと、マリンは今度はその場で立ち止まる。

 そして、少し立ち止まった後、今度は俯いたままザフィーアの下へと駆け寄ると、

「うわあぁぁぁぁん! 親父が、親父が死んじゃったよぉ!!」

 と、ザフィーアの胸の中で、大きな声で泣きじゃくるのであった。

 ザフィーアはそんなマリンを、何も言わず、ただ、抱きしめるのであった。

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