第46話

 ディアの活躍により、ハインから馬を奪う事に成功したザフィーア達。

 だが、ディアはハインの馬を倒すことと引き換えに負傷。前線から撤退をした。

 残す相手、ハインと白兵戦による戦闘を始めるザフィーアとルービィ。

 しかしながら、持ち前の金属性魔法と腕輪による操りといった魔法で、意外にも善戦するハインに対し、決定打を与えるに至らない状況であった。

 そんな中、ザフィーアはルービィに対し、改めて火炎砲を放つよう、依頼をするのであった。

 ――――レビ平原・前線

「もっかいやればいいのね?」

「ああ、頼む」

 もう一度、ハインに向かって火炎砲を放てばよいのか確認をするルービィに、ザフィーアはそのように返す。

 ザフィーアの返答を聞くと、ルービィは火炎砲を放つため、左腰付近で両手を合わせ、魔力を溜めた。

 そして魔力が溜まると、左腰付近に構えていた両手をハインの居る方向へ突き出し、直線状の火炎放射をハインに向かって放った。

 ザフィーアの依頼通りハインに向かって放たれた火炎砲。

 だが、

「来い!」

 という叫び声と共に左腕を掲げ、左手首の腕輪を光らせる。

 腕輪の光に応えるように、数名の人族と魔族がハインの前に立つ。そして前と同様、ルービィの放った火炎砲を受け止めたのであった。

 ルービィの火炎砲を受けた者達は、その場で燃え上がり、炎が大きく立ち上がる。

「フン。同じ手とは、策のない」

 燃え上がる炎を見つめながら、ハインはそう呟く。

 すると、

「それは貴様だろう」

 ハインの左側より突然、声が聞こえた。

 突然聞こえた声に、ハインは声のする方を向く。

 すると、ハインが視線を向けた先には腰を低くし、自身に接近をしてきたザフィーアの姿があった。

 ハインに接近してきたザフィーアは、構えた刀に魔力を込め、ハインに向け一閃。突然の死角からの攻撃に、何の対処も取れなかったハイン。ザフィーアの一閃は腕輪を掲げるハインの左腕を切断した。

「あ……が……」

 氷の魔剣技による切断のため、切断面は凍結しており、切り落とされた左手共々出血こそなかったものの、切断による激痛で左腕を押さえながら地面に膝をつくハイン。

 そして、ザフィーアに腕輪をはめた左手を切り落とされたことで、腕輪は魔力供給を失い光を消していく。腕輪の光を失ったことで、ラファエルのテンプテーションによって自我を失った者達は、ハインに従うことはなく、ただ呆然と、その場に立ち尽くすだけとなった。

 だが、腕を失った激痛でそのことに気がつかないハイン。地面に膝をつけ、失った左腕を押さえながら蹲っていると、またしてもハインの上空に影ができる。

 影の正体は、先と同様、ルービィによるものであった。ルービィは、今度は右足に炎を纏い、天高く足を上げ、跳び上がる。だが、痛みに苦しみ、蹲っているハインは、そのことに気がつかなかった。

 無防備な状態のハインに向かい、上空から接近するルービィ。そのままハインのところまで降りてくると、それと同時に高く上げた足を勢いよく振り下ろし、ハインの脳天目がけ炎を纏ったかかと落としをしたのであった。

 脳天に勢いよくかかと落としを受けるハイン。攻撃を受けると、ハインの三白眼の目から金色の瞳が消え、白目をむく。そしてハインは白目をむいたまま、地面にうつ伏せになり、意識を失うのであった。

「やった……」

 跳躍からのかかと落とし、そこから着地し態勢を整えたルービィが、気を失い地面に倒れているハインを見て、そう呟く。

 ザフィーアも刀を鞘に仕舞うと、

「とりあえず、ここでの戦いはこれで終わりだが……」

 と言い、ハインの方を見た。

 するとそこへ、

「ザフィーア殿、ルービィ殿、やりましたな!」

 と、後方からディアが、両者の下へとやって来た。

 ディアはまだ完全に回復している様子ではなさそうで、ハインにやられた右肩を押さえていた。

 そんなディアの様子を見たザフィーアは、

「ディア殿。お怪我は大丈夫ですか?」

 とディアに声をかける。

 自身を心配するザフィーアに、ディアは

「いや、この程度、大した怪我ではありません。……それよりも、この後のことを」

 と言うと、ハインの方へ目を向けた。

「そうですね。こいつには、聞かねばならぬ事があります」

 ディアの言葉に、ザフィーアはそう返した。

 ザフィーアの言葉に、ディアは

「でしたら、この先にナフタリという廃墟があります。そちらへ移動して、ハインに尋問しましょう」

 と提案した。

 そして更に、

「ハインに操られていた者達のこともあります。兵達にそちらの対処を任せ、ナフタリへは我々だけでどうでしょうか」

 とザフィーアに尋ねた。

「そうですね。それでいきましょう」

 ザフィーアはディアにそのように返答をする。

 ザフィーアの返答を聞くと、ディアは、

「わかりました。では早速、兵達に操られていた者達の対応を指揮していきます」

 と言うと、再び後方へと去って行ったのであった。


「ねぇザフィ。この腕輪どうする?」

 ディアが後方へと去った後、ルービィは切り落とされたハインの左手を指差し、ザフィーアに尋ねる。

「このまま放っておいて、また悪用されてもまずいな」

 ザフィーアはそう言うと、刀を抜刀し、落ちたハインの左手のところへと向かう。

 そして、ハインの左手につけてある腕輪に刀を突き刺すと、刀に魔力を込めた。

 ザフィーアが刀に魔力を込めると、刀身を通じて腕輪はどんどんと凍り付きはじめる。そして、凍り付いた腕輪は更に送られる氷の魔法を受けると、今度はひびが入りはじめ、ボロボロと崩れ始めた。こうして、ザフィーアの魔法によって崩れ始めた腕輪はそのまま砕け、粉々になったのであった。

「これで一安心だろう」

 ザフィーアはそういうと、再び刀を鞘に仕舞う。

 そして、

「では、ディア殿が来るのを待つとしよう」

 そう言うと、ルービィと共にディアが戻ってくるのをその場で待つのであった。


 ――――廃墟ナフタリ

 ルービィのかかと落としを受け、気を失っていたハイン。

 ハインは意識を取り戻すと、レビ平原とは異なる景色が広がっていた。

 辺りを見渡すと、見慣れた廃墟が目に入る。その景色から、今、廃墟ナフタリに居るということを理解した。

 そして今度は自身の身体に目を移す。両足首と右手首には、マナの力を遮断する力がある真鍮製の枷がつけられていた。つけられた真鍮の枷により、魔法による抵抗も出来ない状態であった。

「(いよいよ俺も、最期か……)」

 自身の状況より、ハインは自身の最期を理解するのであった。

「目が覚めたようだな」

 ハインの前方より、男性の声が聞こえる。

 ハインは声のする方を向くと、そこにはザフィーア、ルービィ、そしてディアが立っていた。

「何だ、てめぇらか」

 座った状態で枷をつけられているハインは、立っている三者を見上げながらそう言う。

 自身を見上げ、そう言うハインに、ディアは、

「貴公に聞くことがある」

 と言う。

 ディアの言葉に、ハインは何も言わずただ睨みつける。

 ディアはそんなハインの様子を見つめながら、話を続けた。

「紫犬の月10日、ディナの都、裏通りにて、殺害された魔族の女性が発見された事件があった。犯人は、貴公だな?」

「ハッ! その通りだ」

 ディアの問いかけに、にやりと笑みを浮かべそう答えるハイン。

 そして続けて、

「人族の雄に尻尾を振るような、魔族の風上にもおけぬような女だ。死んで当然。寧ろ俺が有効活用してやったんだ。感謝してもらいたいものだな」

 と、ディアに答えたのであった。

 ハインからの回答を聞いたディアは、

「そうか。……よくわかった」

 と、一言答え、後ろに下がった。

 ディアが後ろに下がると、今度はザフィーアが前に出て、

「私からも尋ねたいことがある」

 と、ハインに言う。

「港町ルベンにて、タンザという男性を連れ去っただろう? ……どこに居る」

「さぁ? その辺に"飾って"あるかもな。探してみたらどうだ?」

 ザフィーアの問いかけに、鼻でフンッと笑いながらそう答えるハイン。

 ハインの答えを聞くと、ザフィーアは辺りを見渡し始める。辺りを見渡すと、廃墟の崩れた壁上には、至る所に生首が置かれていることに気づく。

 そんな廃墟の様子を、険しい表情を浮かべながら、ゆっくりと辺りを確認する。そして、とある首の前に顔を向けると、ザフィーアはそのまま、動きを止めた。

「ハハハ! お目当てのものが見つかったようだな! よかったな!」

 動きを止めたザフィーアの様子を見たハインは、笑いながらそう言う。

 だが、ザフィーアはそんなハインの言葉に耳を傾けることはなく、ただ一点、ボサボサの白髪の長髪の中年男性の生首を見つめていたのであった。

「……あたしからもいいかな?」

 ザフィーアの様子を見て笑っているハインに、今度はルービィが声をかける。

 ルービィはしゃがみ、ハインと目線を合わせると、

「あんたさ、何で四柱帝の部下になんかなったの?」

 と尋ねた。

「部下? ハッ! 俺は俺の目的の為に四柱帝を利用しただけだ」

「目的?」

 ハインの答えに首を傾げるルービィ。

「俺の目的は、今の腑抜けた魔王に代わり、魔族の王になり魔族の時代をつくること」

「魔族の時代?」

「貴様も魔族なら感じているだろう? 今の時代の魔族の扱いを。人魔戦争に敗れて以来、我ら魔族は日陰者だ。この状況を打破するには、人族の時代を終わらせ、魔族の時代をつくるしかない! だから、丁度良く現れた四柱帝を利用したまでだ」

「う~ん……」

 ハインの主張を聞き、空を見上げながら唸るルービィ。

 そして、再びハインの方を見ると、

「悪いけどさ、あたしは元々独り身だったんだよね。だから魔族が日陰者だとか、魔族の時代をつくるとか、そんな事言われても理解できないんだよね」

 と答えた。

 ルービィの答えを聞くと、ハインは舌打ちをしながら、

「所詮は外れ魔族か」

 と捨て台詞を吐いたのであった。

 ハインの捨て台詞を聞いたルービィは、何も言わず立ち上がり、後ろへと下がったのであった。

 ルービィが後ろに下がると、

「私、いや、ディナの政に携わる身としては、聞きたいことは聞けました。彼の今回の一連の行動とここでの答えより、彼の処遇は既に決まっております。……お二方、後はよろしいでしょうか?」

 と、ディアがザフィーアとルービィに尋ねた。

「あたしはいいよ~」

 ルービィはディアにそう答える。

「私も、構わない……」

 ザフィーアは、変わらず中年男性の生首の方を向いたまま、ディアにそう答えた。

「そうですか。では、彼の処遇についてですが」

「それは、私がやろう」

 ディアがハインの処遇について話をしようとすると、ザフィーアはディアの言葉に被せるようにそう言った。

 そして、鞘から刀を抜くと、両手で刀を構え、ゆっくりとハインの方を振り向いた。

 ハインの方に振り向いたザフィーアは、表情こそ感情を露わにするものではなく真顔のままであったが、瞳は開いたまま、誰が見てもわかる程の殺気をハインに向けて放っていた。

 そんなザフィーアの様子を見たディアは、殺気に気圧され、思わず表情を強張らせる。そしてルービィもまた、初めて見るザフィーアの様子から、ディア同様表情を強張らせた。

 だが、そんな両者の様子にザフィーアは気に留める事もなく、刀を構えたままゆっくりとハインに近付く。そしてハインの下へやって来ると、

「最期に、言い残すことはないか?」

 とハインに尋ねた。

 ハインはニヤリと笑うと、

「妖帝ラファエルの居城を、教えてやる」

 と言う。

「ラファエルの居城?」

 ハインの言葉に反応し、そう返すルービィ。

「ああ、ラファエルの居城だ」

 ハインはニヤリと笑ったまま、ルービィにそう返す。

 そして続けて、ハインはザフィーア達にラファエルの居城について語るのであった。

「ラファエルの居城は、『天空宮てんくうぐう』だ!」

「天空宮!?」

 ハインが語ったラファエルの居城を聞き、ディアは思わずそう言葉にする。

「ハハハ、いい反応だ。その顔が見れただけでもいい冥土の土産になりそうだ。せいぜい絶望しろ。ハハハハハハ!」

 ディアの反応を見たハインはそう言うと、高笑いをする。

 だが、ザフィーアはそんなハインの様子に気に留める様子もなく、両手に持った刀を高く掲げる。そして、掲げた刀の刀身を、勢いよく振り下ろした。

 ザフィーアの刀はハインの頭部と胴体を切断。ハインの頭部はそのまま地面に転がった。

 頭部と胴体の切断部からは、おびただしい量の青い血が噴き出す。ザフィーアの魔剣技による斬撃であれば、レビ平原の際、ハインの腕を切断した際のように切断部が凍結するものだが、今回は純粋に魔力で刀身を研ぎ澄ませただけの斬撃。そのため、切断面が凍結することはなかった。

 切断面から勢いよく青い血を噴き出したハインの胴体は、血を噴き出しながらゆっくりと、力なく前のめりに倒れた。

 そして、頭部はというと、不敵に笑った表情のまま、硬直していた。

 ザフィーア達はそんなハインの様子を、何も言わず、ただずっと見つめていたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る