「隣の幼馴染が好きすぎる - 令和版、毎度おさわがせします」

託麻 鹿

隣の幼馴染が好きすぎる - 令和版、毎度おさわがせします

登場人物紹介


【相沢 みずき(あいざわ みずき)】

高校二年生。天真爛漫で、恋愛にもオープンな考えを持つおませな少女。隣に住む幼馴染の良太をからかうのが日課で、積極的なスキンシップを仕掛ける。


【藤崎 良太(ふじさき りょうた)】

中学三年生。真面目で恋愛に関しても奥手。みずきのイタズラに毎回翻弄されるが、まんざらでもない。みずきに対して密かに好意を抱いているが、素直になれない。


――――――――――――――――


 夏の夕暮れ。薄桃色に染まる空を背に、一人の少女がマンションのベランダの手すりを軽々と乗り越えた。


 みずき──高校二年生。天真爛漫で、恋愛にもオープンな考えを持つおませな少女。隣の部屋に住む幼馴染の良太をからかうのが日課で、今夜もまた、彼の部屋へと忍び込んできた。


「やっほー、良太♪」


 軽快な声が窓の向こうから響く。


「ちょっ、おまっ、またベランダから来たのかよ!」


 驚いた様子の良太が振り向く。中学三年生の彼は、真面目で恋愛に関しても奥手。みずきの無遠慮なスキンシップに毎回翻弄される日々を送っていた。


「だって、玄関から入ったらおばさんに『晩ごはん食べてく?』って聞かれるし。それに、ベランダからの方がスリルあって楽しいじゃん♪」


 にやりと笑うみずきに、良太はため息をつく。


「頼むから普通にしてくれよ……。何かあったら危ないだろ」


「はいはい、心配性だなぁ。じゃ、遊びに来た記念に……」


 みずきがくるりと回る。ひらりと翻るスカートの裾に、良太は思わず視線を逸らした。


「あれ?どうしたの、赤くなってない?」


「な、なってない!」


「ふーん、じゃあ見てみよっか♪」


「やめろー!」


 今日もまた、二人のやり取りが始まる。


 そんな他愛もない時間が、彼らの日常だった。


――――――――――――――――


【勉強会】


 翌日の放課後、良太は部屋で宿題をしていた。そこへ、ベランダから軽やかな足音が響く。


「良太ー、今日も遊びに来たよ♪」


「おい、またかよ……。頼むからドア使えって」


 呆れた様子の良太とは対照的に、みずきは無邪気な笑顔を浮かべながら部屋に入ってくる。


「はいはい、そんなことより勉強しよっか! せっかくお姉さんが手取り足取り教えてあげるってのに♪」


「……またかよ」


 みずきは良太の隣に座り、教科書を広げた。しかし、どうにも距離が近い。


「ちょ、ちょっと近すぎないか?」


「気にしない気にしない♪ ほら、この問題解いてみて?」


 みずきはわざと良太の腕に自分の肩を軽く触れさせながら、ノートを指差す。良太は顔を赤らめながら必死に問題を解こうとするが、みずきのいたずらな視線が気になって集中できない。


「ねぇ、もしかして緊張してる?」


「してない!」


「ふーん……じゃあ、もうちょっと寄ってもいい?」


「ダメ!!」


 みずきの楽しそうな笑い声が、部屋に響き渡った。


――――――――――――――――


【夜の相談】


 夜、ベランダ越しに涼しい風が吹き抜ける。


「良太、まだ起きてる?」


「……なんだよ、こんな時間に」


 窓を開けると、みずきが柵に腰掛けて星を眺めていた。


「ちょっと悩み事があってさ。聞いてくれる?」


「悩み事?お前が?」


「うん、まあね。実はさ……」


 みずきは声をひそめ、少し伏し目がちに言った。


「私、最近ちょっと悩んでてさ……好きな人がいるんだけど、どうしたらその人に振り向いてもらえるのかなって……」


「は?好きな人?」


 良太は驚いてみずきを見つめる。


「そ、そういうの、俺に聞くなよ……」


「でも、良太って真面目で、そういうの考えたりしそうじゃん?」


 みずきはじっと良太の顔を覗き込むようにして、にやりと笑った。


「もしかして、焦ってる?」


「べ、別に……」


「ふふっ、うそだよ♪ からかっただけ!」


「……はぁ?」


「いや〜、良太の反応が可愛くて、つい♪」


 みずきはいたずらっぽく笑い、ベランダの柵からひょいと降りた。


「じゃ、おやすみ♪」


 軽やかに手を振りながら部屋に戻るみずきを見送りながら、良太は深いため息をついた。


「マジで勘弁してくれよ……」


――――――――――――――――


【バスタオルの誘惑】


 その日の夜、部屋でくつろいでいた良太は、突然のノック音に顔を上げた。


「良太、ちょっといい?」


 窓の向こうには、湯気が立ち込めるようなバス上がりの姿のみずきがいた。


「私の部屋のエアコン壊れちゃったみたいでさ。ちょっとだけ涼ませてもらっていい?」


「は?エアコン?」


 良太は疑いの目を向けたが、みずきはバスタオル一枚のまま部屋にするりと入り込んできた。


「ちょっと待て!そんな格好で来るなよ!」


「え?だって暑いんだもん。それとも、私のこと意識しちゃう?」


「そ、そんなわけないだろ!」


 みずきはクスクスと笑いながら、ベッドの上に座り込んだ。


「ふぅ〜、やっぱりこっちの部屋の方が快適♪」


 すると、みずきのバスタオルがはだけて落ちた。


 焦った良太は目を閉じたが、みずきは水着を着ていた。


「わぁー、引っ掛かった、焦ったでしょ♪」


 と言いながら、みずきは満足げに部屋を出て行った。


 果たして、みずきのエアコンは本当に壊れているのか……?


 良太は内心疑いながらも、またしても彼女のペースに巻き込まれていくのだった。



――――――――――――――――


【ゲームといたずら】


 休日の午後、良太の部屋にはゲームの効果音が響いていた。


「ほらほら、良太、遅いよ!」


「待てよ!いま集中してるんだから!」


 みずきと並んで座り、二人でゲームをしていた。だが、みずきはプレイに集中するどころか、妙に動きが多い。


 ふと、彼女のスカートの奥がちらっと見えた気がして、良太は反射的に視線を逸らした。


「ん?どうしたの?」


「な、なんでもない!」


 みずきは口元を緩め、わざと足を組み替える。


「ねえ、もしかして、見た?」


「み、見てない!」


「ふーん……じゃあ、これならどう?」


 みずきはいたずらっぽい笑みを浮かべ、スカートの裾をつまんでひらっとめくった。


「うわっ!やめろ!」


 良太は慌てて顔を背けたが、みずきは楽しそうに笑っている。


「残念、見せパンだよ♪」


 そう言って、満足げに笑いながら立ち上がると、みずきは部屋を後にした。


「まじかよ……」


 残された良太は、頭を抱えながらため息をついた。



【見つかった秘密】


 ある日、良太の部屋を物色していたみずきが、本棚の隅から一冊の雑誌を引っ張り出した。


「ん?なにこれ……あっ!」


 ページをめくった瞬間、アイドルの水着写真が目に飛び込んできた。


「やっぱり良太も、こういうの見るんだ?男だもんねぇ〜」


「ち、違う!それはただの資料というか……!」


 焦る良太に、みずきはじっと目を細める。


「へぇ〜、じゃあ今度見たくなったら私に言って?私のを見せてあげるから♪」


「な、なに言ってんだよ!!」


 良太の顔が真っ赤になるのを見て、みずきはくすくすと笑った。


「嘘だよ〜ん♪ そんな簡単に見せるわけないじゃん!」


 そう言いながら、雑誌を手に持ったまま、みずきは良太の部屋を出て行った。


「おい!返せよ!それ、気に入ってたのに……!」


 良太は頭を抱え、深いため息をついた。


――――――――――――――――


【春の散歩道】


 桜が咲き誇る春の午後。穏やかな風に舞う花びらが、街をほんのりと淡い色に染めていた。


「ねえ、良太。たまには一緒に散歩しよ?」


「えっ、なんで?」


「だって桜が綺麗じゃん♪ せっかくの春だし、のんびり歩こうよ」


 みずきに腕を引っ張られ、仕方なく近所の公園まで歩くことに。


「うわ、桜のトンネルみたいだな……」


「ねー、綺麗でしょ?」


 みずきは嬉しそうに桜並木を見上げる。その横顔がなんとなく大人っぽく見えて、良太は少しドキッとした。


「ほら、これ!」


 突然、みずきが桜の花びらを拾い、良太の頭にのせる。


「おまえ、何してんだよ!」


「似合うかなーって思って♪」


「バカか……!」


 その夜──。


「ねえ、今日の桜、どうだった?」


「……まあ、悪くなかった」


「ふふっ、良太、ちょっとはロマンチックになったね♪」


「うるさい!」


 みずきは満足そうに笑いながら、またベランダを越えて帰っていった。


「……ほんと、マジで勘弁してくれよ……」


 桜の香りがまだ少しだけ、部屋の中に残っていた。


――――――――――――――――


【遊園地のお化け屋敷】


 夏休み、友達数人と一緒に遊園地へ遊びに行った良太とみずき。


「ねえ、良太、お化け屋敷行こうよ!」


「お前、そんなの好きだったっけ?」


「怖くないもん。でも一緒に行ってくれるよね?」


 そんなわけで、二人はペアになり、お化け屋敷の中へ。


 しかし、途中で突如現れた幽霊の人形に、みずきが「きゃっ!」と良太の腕にしがみついた。


「うわっ、お前、大丈夫か?」


「……うん、ちょっとびっくりしただけ」


 結局、みずきはずっと良太の腕を離さないまま、出口まで歩いた。


 その夜──。


「ねえ、今日の私の反応、どうだった?」


「……何のことだよ」


「本当に怖がってたと思う?」


「え?」


 ベランダから良太の部屋にやってきたみずきは、ニヤリと笑っていた。


「うそ……だったのか?」


「うん♪ だって、良太に抱きつくチャンスだったから♪」


「……おまえなぁ!」


 結局、みずきの手のひらで転がされ続ける良太だった。


――――――――――――――――


【雨の日の訪問】


 夕方、突然の雨が降り始めた。


「うわぁ、最悪……」


 ベランダの向こうから聞こえてきた声に、良太が顔を上げると、そこにはずぶ濡れになったみずきが立っていた。


「……おまえ、なんで濡れてんだよ」


「急に降ってきたんだもん。傘持ってなかったし……ちょっとタオル貸して?」


「ったく、ほら」


 良太はタオルを投げ渡すと、みずきは受け取って髪を拭き始める。しかし、Tシャツが体に張り付いていて妙に視線のやり場に困る。


「ねぇ、良太?なんか目が泳いでる?」


「べ、別に!」


 みずきはニヤリと笑い、タオルを肩にかけながら近づく。


「そんなに気になるなら、見てもいいよ?」


「なっ、何言ってんだよ!」


「ふふっ、冗談♪ ほら、服乾くまでここにいさせてね♪」


 結局、みずきはそのまま良太の部屋でくつろぎ始めた。


「おまえ、絶対わざとだろ……」


 良太はまたしても頭を抱えたのだった。


――――――――――――――――


【花火大会の夜】


 夜風が少し涼しくなり始めた夏の終わり。部屋でのんびりしていた良太は、ベランダ越しに聞こえてきた声に顔を上げた。


「良太~、ちょっと窓開けて!」


 窓を開けると、そこには浴衣姿のみずきが立っていた。


「今日の花火大会、ベランダから一緒に見よう♪」


 涼しげな青色の浴衣に、髪をまとめたみずきの姿は、いつものイタズラ好きな雰囲気とは違い、どこか大人っぽく見えた。


「……なんでまたベランダから来るんだよ。普通に誘えばいいだろ」


「いいじゃん、こういうのが雰囲気あって楽しいんだから♪ ほら、もうすぐ始まるよ」


 二人は並んでベランダに座り込み、夜空を見上げた。


 しばらくすると、大きな花火が夜空に打ち上がり、鮮やかな光が広がる。


「うわぁ、きれい……」


 みずきが感嘆の声を漏らす。


 横目でちらりと見ると、浴衣の袖を軽く握るみずきの指先が揺れていた。いつもと違う静かな雰囲気に、良太も少し戸惑いを感じる。


「なぁ、いつもみたいに騒がないのか?」


「うーん……たまには、こういう静かな時間もいいかなって」


 珍しくしおらしい様子のみずきを見て、良太は何か言おうとしたが、ちょうどその時、ドーン! と大きな音とともに、ひときわ大きな花火が打ち上がった。


「わっ!」


 驚いた拍子に、みずきの肩が軽く良太にもたれかかる。


「お、おい……!」


「……ごめん、ちょっとびっくりしちゃった」


 みずきは小さく笑いながら、すぐに体を離す。


「でも、ちょっとだけドキドキした?」


「……うるさい」


 良太がそっぽを向くと、みずきは満足そうにくすくすと笑った。


「じゃ、またね。今日はこれでおしまい」


 そう言うと、みずきはひらりとベランダを越えて、自分の部屋へと戻っていった。


 夜風が静かに吹く中、良太は大きなため息をついた。


「……本当に、マジで勘弁してくれよ」


 けれど、その顔はほんの少しだけ赤くなっていた。


――――――――――――――――


【文化祭の準備】


 ある日の放課後、良太は学校の文化祭準備に追われていた。


 ここは中高一貫の共学校で、中学と高校の生徒が同じ敷地内で生活している。文化祭も合同開催で、高校生のクラス企画だけでなく、中学のブースもある。


「ねえねえ、良太、私たちのクラスの出し物も見に来てね!」


 みずきが隣にやってきて、にやりと笑う。


「お前のクラス、なんだっけ?」


「メイド喫茶だよ♪ なんと、私もメイド服着るんだよね〜」


「は?お前が?」


 良太は驚いたが、みずきは自信満々にポーズを取る。


「どう?似合いそう?」


「……まあ、いいんじゃないか」


「ふふっ、期待しててね♪ あ、そうだ!リハーサルするから、ちょっと手伝って!」


「は?何を?」


 みずきはおもむろにメイドエプロンを取り出し、良太の首に掛ける。


「はい、ご主人様!って言って♪」


「……無理」


「えー、ノリ悪いなぁ! じゃあ、本番楽しみにしててね♪」


 そう言いながら、みずきは良太の前で軽く回って、スカートの裾をふわりと揺らした。


「絶対、見に来てよね!」


 その笑顔を見ながら、良太はまたしても彼女のペースに巻き込まれるのを感じていた。


――――――――――――――――


【文化祭当日】


 文化祭の日、校内は賑やかに活気づいていた。


 中高一貫校であるため、文化祭も中学と高校合同で開催されている。良太も友人たちと一緒に、校内を回りながらイベントを楽しんでいた。


「なあ、良太。お前の幼馴染のクラス、メイド喫茶やってるらしいぞ!」


「うん、まあ……」


「せっかくだし行ってみようぜ!」


 そんな流れで、良太たちは高校生のエリアへと足を運んだ。すると、そこには可愛らしいメイド服を着たみずきがいた。


「いらっしゃいませ、ご主人様♪」


 慣れた口調でお辞儀をするみずきに、良太は思わず目をそらした。


「おぉ、あの一番かわいい子、お前の彼女か?」


「なっ、ちがっ……!」


 友人の言葉に、良太は慌てて否定した。しかし、みずきの耳にはしっかり届いていたらしい。


 その瞬間、みずきの口元が楽しげに歪んだ。


――――――――――――――――


【文化祭の夜】


 文化祭が無事に終わり、学校の中庭では打ち上げの準備が進んでいた。


「いやー、疲れたね!」


 メイド喫茶で張り切って接客をしていたみずきは、満足そうに伸びをする。


「お前、全然疲れてないだろ」


「えへへ、楽しかったもん♪ そういえば、良太、昼間友達と来てたよね?」


「うん、まあ……」


「で、その友達が『あの可愛い子、お前の彼女?』って言ってたの、聞こえたよ♪」


「うっ……」


 良太は気まずそうに目をそらした。


「で、どうなの?」


「……なんだよ、それ」


「ふふ、じゃあ夜の打ち上げ、ちょっと付き合ってよ。二人で抜け出してさ」


 みずきは良太の腕を引っ張ると、人混みを避けて校舎裏へと歩き出す。


「ここなら静かに話せるでしょ?」


「……なんか、妙に落ち着かないんだけど」


「そんなに緊張しなくていいじゃん♪ ほら、文化祭の思い出話でもしよ?」


 しばらく二人で並んで話していると、校庭の方から花火が打ち上げられた。


「わっ、綺麗……」


 みずきがふと良太に寄り添う。


「ねえ、やっぱりさ……私、良太の彼女ってことにしちゃおうかな?」


「は?」


「うそうそ♪ そんな簡単に認めるわけないじゃん!」


 いたずらっぽく笑いながら、みずきは良太の肩を軽く叩いた。


「でも、もし良太が本気でそう言ってくれるなら……その時は考えてあげる」


 そう言い残して、みずきは軽やかに駆け出していく。


 残された良太は、夜空の花火を見上げながら、みずきの言葉の意味をじっくりと考えるのだった。


――――――――――――――――


【冬の日の出来事】


 寒さが増してきたある日、良太の部屋の窓が静かに開いた。


「良太ー、入るよ♪」


「またかよ……寒いんだから窓開けるなって」


「だって玄関から入るの面倒だし。……ねぇ、今日寒くない?」


 みずきは自分の手を擦り合わせながら、良太のベッドに無造作に座り込んだ。


「……だから部屋に入ってくるなって」


「いいじゃん、ちょっとぐらい。ほら、寒いしさ、こっち寄って」


「は?何言ってんだよ!」


「だって、あんたの部屋、こたつないんだもん。あったかいものがほしいな〜♪」


 みずきはニヤリと笑いながら、良太の肩にもたれかかった。


「ちょ、ちょっと!近すぎるって!」


「えー?別にいいじゃん♪ 幼馴染なんだしさ」


 みずきの体温が直に伝わってきて、良太はますます混乱する。


「……もう好きにしろよ」


「ふふっ、素直でよろしい♪」


 しばらくそのまま沈黙が続いた後、みずきがふいに口を開いた。


「ねえ、もしさ、私が本当に彼女になったらどうする?」


「はぁ!? またその話かよ!」


「うそうそ♪ でも、ちょっと気になっただけ♪」


 みずきはくすくすと笑いながら、ベッドから立ち上がった。


「それじゃ、またね♪」


 そう言い残して、彼女は部屋を出ていった。


「……マジで勘弁してくれ……」


 布団に倒れ込む良太の心臓は、しばらくの間、落ち着かなかった。



――――――――――――――――


【初詣と晴れ着】


 新年を迎えた元旦の昼、良太はみずきと一緒に神社へ初詣に出かけた。


「お待たせ~!」


 振り向いた良太の目に飛び込んできたのは、華やかな晴れ着姿のみずきだった。髪を上げ、いつもと違う雰囲気のみずきに、思わず言葉を失う。


「……え、なんか、すごいな」


「えへへ、そう? ちょっと大人っぽく見える?」


 照れくさそうに笑うみずきに、良太は「まぁ、普段よりは」と小さく呟いた。


「何その微妙な反応!」


「いや、別に……」


 参拝を済ませ、おみくじを引いたり屋台を回ったりして、二人は楽しい時間を過ごした。


 そしてその夜──。


「ねえ、今日の私、どうだった?」


 窓からひょっこりと顔を出したみずきが、ベランダ越しに話しかけてくる。


「どうって?」


「晴れ着姿、可愛かった?」


「……まあ、普通」


「またそれ!? もっと素直に可愛いって言いなさいよ!」


「……うるさい!」


「ふふっ、やっぱり良太って照れ屋だね~♪」


 満足そうに笑うみずきに、良太は深いため息をついた。


 今年もまた、彼女のペースに振り回される一年になりそうだった。


――――――――――――――――


【良太の卒業式の夜】


 春の夜、桜が舞う中で、良太の卒業式の日が終わった。


 その夜、いつものようにみずきがベランダからやってきた。


「良太、卒業おめでとう」


 しかし、いつもと違って、みずきの表情はどこか真剣だった。


「実はね……今日、この日をずっと待ってたんだ」


「え?」


「今までずっと、良太のことからかってたでしょ? でもね、本当は……あれ、全部、良太のことが好きだからだったの」


「……!」


「他の子と仲良くされるの、嫌だった。でも、素直になれなくて。だから、いつも先にちょっかいかけてたんだ」


 みずきは小さく息を吐いて、良太をじっと見つめる。


「そして決めてたの。良太が卒業したら、ちゃんと伝えようって」


 桜の花びらが、静かに舞う。


「私、良太のことが好き。だから……私と付き合って」


 良太は戸惑いながらも、静かに口を開いた。


「……オレも、みずきのことがずっと好きだった。みずきにからかわれるのも、なんだかんだで楽しかったし……」


「じゃあ……」


「……でも、本当にオレでいいのか?」


 みずきは微笑んだ。


「良太じゃなきゃダメなの」


「良太じゃなきゃダメなの」


 そう言いながら、みずきはそっと良太に寄り添った。


 そして、その夜を境に、二人の関係は大きく変わった。


 だけど──。


「みずき、お前さ……彼女になったなら、ベランダから来るのやめろよ」


「えー? だってこのスリルが楽しいんじゃん♪」


「はぁ……もう、勝手にしろ」


 結局、みずきのベランダ訪問は変わらず、むしろ大胆になっていくのであった。


――――――――――――――――


【エピローグ】


 二人は正式に付き合い始めた。


 しかし、みずきの行動が変わることはなかった。それどころか、ますます大胆になった気がする。


「おはよ、良太♪ 今日はね、ちょっとだけ刺激的な格好で来ちゃった♪」


「おい、スカート短すぎだろ」


「お前な……マジでやめろって……」


 そんなやり取りが、毎朝の習慣になりつつあった。


 からかわれながらも、どこか楽しんでしまっている自分に気づく良太。


「はぁ……もう、どうにでもなれ……」


 桜の花びらが舞うベランダで、良太は小さくため息をついた。


 でもきっと、これが自分たちらしい日常なのだろう。


 少しずつ、でも確かに変わっていく関係の中で、二人の物語は続いていく。


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「隣の幼馴染が好きすぎる - 令和版、毎度おさわがせします」 託麻 鹿 @Takuma_Shika

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