第6章:暴風の中で
灰色の雲が垂れ込める海上で、カルタゴ艦隊は戦闘態勢を整えていた。
新型艦「フェニクス」を含む艦隊が、静かに戦列を組んでいく。崇平は甲板上から、水平線上に浮かぶローマ艦隊を見つめていた。
「風向きが変わりつつあります」
崇平は艦隊司令官に報告した。これまでの訓練で培った新戦術が、まさに活きる状況だった。
「各艦に指示を」
司令官の命令で、信号旗が次々と掲げられる。新型艦を中心とした機動部隊が、風を利用して陣形を変化させていく。
そのとき、アドルバルが駆け寄ってきた。
「ハンノ! ローマ艦隊が動き出した!」
水平線上で、敵艦の帆が一斉に展開される。開戦の時が迫っていた。
最初の衝突は、予想以上に激しかった。ローマ軍の五段櫂船が、圧倒的な質量で襲いかかってくる。
「回避!」
崇平の指示で、「フェニクス」は見事な旋回を見せた。新しい舵システムが、その真価を発揮する。
しかし、戦況は徐々に厳しさを増していった。ローマ軍の数的優位は明らかだった。そして、彼らの戦術も、以前とは違っていた。
「第三部隊が突破された!」
悲鳴のような報告が届く。見れば、アドルバルの乗る艦船が、ローマ軍に包囲されようとしていた。
「援護に向かえ!」
「フェニクス」は全速で移動を開始した。しかし、その直前、アドルバルの乗る船は、ローマ軍の衝角に直撃された。
「アドルバル!」
崩れ落ちる船体。水煙の中に消えていく友の姿。
その光景は、崇平の脳裏に焼き付いた。戦場の残酷な現実が、すべての理想を打ち砕いていく。
それでも戦いは続いた。「フェニクス」は新戦術を駆使して戦果を上げた。しかし、艦隊全体としては、徐々に後退を強いられていった。
夕暮れ時、ようやく戦闘は終結した。カルタゴ艦隊は、何とか主力を温存して撤退することができた。しかし、失われた者も多かった。
港に戻った「フェニクス」の甲板で、崇平は膝を抱えていた。
「ハンノ……」
エリッサの声だった。彼女は兄の訃報を聞いて、港まで駆けつけていたのだ。
「申し訳ない。私が……私が……」
言葉が詰まる。エリッサは黙って崇平の傍らに座った。
「兄は、誇りを持って戦ったはず」
その声は震えていたが、強い意志が感じられた。
「私たちにできることは、前を向いて進むことだけ」
その言葉に、崇平は深く考え込んだ。技術の進歩は、必ずしも平和をもたらさない。しかし、だからこそ、知恵を正しく伝えていくことが重要なのではないか。
その夜、崇平は新たな決意を固めた。カルタゴの技術を後世に伝えること。それは、単なる記録以上の意味を持つはずだ。人類の叡智として、正しく継承されなければならない。
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