死のエンカウント

洞窟を出た三人は、ひとまず鬱蒼とした森林から脱出することにした。

「つっても、どこにいきゃいいんだか一ミリもわかんねえけどな。」

「とりあえず、適当に周りを探索してみますか。」

読者の皆様が間違った知識を覚えないようにここで言わせてもらいますが、森林で遭難した場合、「周りをうろつく」というのはやってはいけない行動です。皆様がもし森林で遭難したなら、その場で休憩を取って気持ちを落ち着かせ、安全なルートを探しましょう。

「そんじゃ、三人別れてみるか。ルイ、悪いけど坂の方行ける?」

「わかった。」

「そんじゃ、エミーはそっちな。」

「わかりました。」

そうして三人に別れて……数分後。

「きゃあぁ!?」

突然、森の中に悲鳴が響き渡った!

声を聞いたルイとカールが慌てて彼女のいる場所に向かった。ただし、カールはどこかで道を間違えたのか、迷子になるという非常にカッコ悪い状況に陥っていたが。

「あ!ルイさん!助けてぇ!」

尻餅をついて杖も放りだしてしまっていた彼女の前には、二足歩行で、剣と盾を装備した犬が立っていた。彼女を斬りつけようと、剣を振り上げる。

「やめろ!」

ルイの怒声と共に、ルイが投げたナイフが犬の頭に突き刺さった!

断末魔をあげたりする暇もなく即死した犬は、剣を振り上げたときの慣性で後方に倒れ込んだ。

「ふう……助かりました。」

「……」

「この魔物の名前……“ソルジャードッグ”って言いましたっけ。これはいよいよ魔物の世界に入り込んだって説が……」

「よっしゃぁ!俺様が来たからにはもう……」

今になってようやくカールが到着したようだ。視線が二人と倒れ込んでいる犬とをいったりきたり、未だに状況を理解できていないらしい。

「あれ?結局なんだったの?」

「魔物が出たんですよ。まああなたがちんたらしてる間にルイさんが片付けちゃいましたけど。」

「あー、そういうことか。」

そんなことを言っている間に、死体の臭いに惹かれたのかさっきと同じような犬が更に現れた。今度は二十体近くいる。

「げえ?まだいやがるよ。鬱陶しいなぁ。」

「ここは私に任せてください!『閃光ライト』!」

エミーの杖の先から出現した黄色い弾が、周囲に凄まじい量の光を撒き散らす!

光に驚いた魔物たちは悲鳴を上げて逃げ去った。

「よし!これでサクッと逃げられたでしょ。」

「まあ、逃げたやつは殺せないけどな。」

「それは……あれ?ルイさんは?」

さっきまですぐそばにいたはずのルイは、忽然と姿を消していた。

「さあな。さっきウズウズしてたし、トイレにでも行ってんじゃねえの?」

だが、彼はそんな軽い用事で動いてはいなかった。

彼は、エミーの放った『閃光魔法ライト』に驚いて逃げていった魔物たちに追いつき、二十体全てを殺し尽くしていたのだ。


「ルイさん、どこいってたんですか?」

「ああ、水欲しかったから、ちょっと近くの川にね。」

「へー。このチビが水属性の魔法上手に使えたら良かったのにな。」

「人には得手不得手ってのがあるんですよ!」

そんな口論をしつつ、道中で現れた魔物数体を屠りながら三人は進んでいた。

水が必要だという言葉は嘘ではない。魔物を殺戮し終わった後に返り血にまみれた自分の服を洗おうとしたのだから。

余談だが、この世界にもレベルという概念が存在する。ただし、一般的なゲームの類で出てくる「レベル」とは基準が異なり、この世界での「レベル」は「平均的な人間に比べて何倍強いか」で決まる。ちなみに今の三人のレベルは、ルイが5、カールとエミーが3である。

「それで、結局どっちに向かうんですか?」

「そうだな、カール、いけるか?」

「任せとけって。」

カールが近くの木に向かって走り出す。その勢いで木に登り、そのまま大ジャンプをかました!その高さ地上から約十数メートル。

が、着地のことは考えていなかったらしい。そのまま頭から地面に落ちる。

「いって〜!痛みで動けねえよ〜。」

「ルイさん、この馬鹿おいてさっさと行きましょう。」

「どこに行くかで今こうなったんじゃなかったっけ?」

「いててて……あっちの方向にたくさんの家っぽいののとあとでっかい城みたいなのがあったぜ。」

「よし、行ってみるか。」


そんなわけでカールの指さした方向に向かって数分後、開けた場所に出た。

「何だこれ?」

「見た感じ……街道ですね」

「街道?魔物が街作ってるとでもいうのか?」

「ありえない話でもありませんよ?」

二人がこの場所についての口論をかわしている間、ルイはじっと街道の先を見つめていた。

「ん?どうしたんだ、ルイ。」

「……来る!」

その時、向こう側から更に大きい魔物の群れがやってきた。先程戦った魔物たち に加えて、新しい魔物も二種類いた。一匹はゴリラのような見た目で、両手にグローブを 装備している。もう一匹は猿をすこし小さくして、弓矢をもたせたような魔物だ。

「まじかよ……なんで“ボクサーゴリラ”と“アーチャーモンキー”が同時で出てくるんだよ。」

カールが忌々しげに呻く。

「体力特化の“ボクサーゴリラ”と遠距離攻撃の“アーチャーモンキー”……少し厄介な 組み合わせですね。」

「それは戦い方が悪いからだ。」

ルイが冷え切った声でそう言うや否や、魔物たちの群れに突撃していった。魔物たちが武器を構え、飛びかかってきた。

「『物理反射結界フィシス・リフレクション・バリア』。」

ルイの頭上に青色の光をまとった、透明な壁が出現した!重そうな“ボクサーゴリラ” の体が弾き飛ばされる。

「『爆弾ボム』。」

彼の手のひらの上に黄色い光の弾が出現した。彼はそれをさっきから後方でずっと弓を放っている“アーチャーモンキー”に投げつけた。“アーチャーモンキー”たちが慌てて散らばったが、時すでに遅し。モンスターたちの真ん中で閃光と轟音が生じ、魔物たちを吹き飛ばした!それも、何匹いたのかもわからなくなるぐらいバラバラの肉片にしながら。

なんとか生き残ったのか、“ソルジャードッグ”の一匹が、地面に転がっているペンダントを拾おうとした。“ソルジャードッグ”の指がそのペンダントに達した瞬間、ルイの靴がペンダントを彼の指ごと踏み潰し、頭にナイフを刺した。

「このナイフ古いからなぁ」

彼はそうつぶやくと、“ソルジャードッグ”の腰につけてある剣を奪い取った。 その次の瞬間には、彼は華麗という他ない剣さばきで、残っていた魔物たちを無差別に切 り裂いていった!

このような虐殺劇を何度も繰り返しながら、一行は森の出口を目指して進んでいった。

その時彼らを見ていた黒い影の存在に、彼らは気づいていなかった。

今回の戦利品

兵士の剣(戦闘時の戦利品) 攻撃力:6 一般的な兵士の剣。軽くて扱いやすく、耐久力が高い。→ルイが装備

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