ドッグタワー

三人の目の前には、歪な形の塔があった。

いや、もう塔と呼んでいいのかどうかすら怪しい。何しろ、ただ底面積が一軒家位ありそうな箱が連なっているというだけで、窓が普通に空いたりはめ殺し窓だったり鉄格子だったりそもそも存在しなかったり、上の階への移動手段がロープだったりはしごだったり手動エレベーターだったり階段だったり、それのついている場所が部屋の中だったり外だったり。大砲っぽいのがあるかと思えばただぶら下がっているだけ、常に勢いよくブラブラしている紐に吊り下げられた斧は侵入できそうなドアとは反対側に設置され、建材同士をくっつけるネジの代わりに剣だの槍だの。形状だけならキャットタワーを彷彿とさせるのだが、細部を見ると小学低学年の作品かなにかを魔法で巨大化したものだと言われても納得ができるぐらいだ。要するに出来がものすごく悪い施設ってことだ。

「……なんだこりゃ、こんなもん作ったやつの頭は大丈夫なのか?」

「確かに、カールにそこまで言わせるとはなかなかですね。」

「うん、地味に俺をディスんのやめてくんない?」

「それよりあれ……血かな?」

エミーの指さした先を見ると、扉にべったりと赤い何かが付着していた?

「ちょっとまって。見てくる。」

「あっ、気をつけてね!」

いつでも戦えるよう剣を握りながらほふく前進で扉まで進むルイ。

「……(ペロリ)……ケチャップじゃん。」

ルイの一言に二人はずっこける。

「べ、ベタベタのボケをかますにしてもタイミングってものがあるでしょうに!」

「まあいいや。先行こうぜ。」

そんなわけで扉へとたどり着いた三人。例のごとく斧のトラップは取り付ける場所が間違っているせいでまともな動作すらできていない。

「結局あれは何だったんでしょうね……。」

「実はこの扉は罠でしたっていうネタなら知人のやってたドッキリハウスで見たことがあるけと。」

それをガン無視して先に入るルイ。中には何もなかった。

「安全だったぞ。」

「……いや、ますます意味がわかんねえよ!」

「ここの壁、隠し扉になってる。おそらく裏口のセキュリティなんだと思うぞ。」

「そんで正面玄関のセキュリティーはなしか。いよいよアホだな。」

そんな具合で無事(そもそも何事もないんですが)一階を突破した三人。部屋の中に取り付けてあった階段を使って二階に上がると、そこには数体の“ソルジャードッグ”がいた。

「なんだと!お前ら、どうやって一階の罠を回避した?」

「うっわ、びっくりした!」

「そ、その程度のことも予測できなかったんですか?まったくこれだから野蛮人は……」

「黙れ阿呆共。」

ルイはその一言と共に、襲いかかってきた“ソルジャードッグ”をずたずたに切り刻む!

「相手が何を言おうと、襲いかかってきてるならまずは切るべきだ。」

一方的かつ一瞬の攻撃の後残ったのは、サイコロステーキレベルまで切り刻まれた哀れな犬たち。

「うわ、酷いにも程があるよお前。」

「知らん。それよりも今度は外付けのはしごみたいだな。」

三階に上がる三人。

三階には特に何もなかった……いや、部屋の中の階段とドアがセットで並んでいる。

「……これ、どっちかが正解とかあったりすんのか?」

「ないとは思いますけど……とりあえずドア開けてみましょう。」

ドアが不快な音を出しながら開く。この建物は全体的に歪んでいるようだ。

ドアの先に伸びるようにつけられていた橋のような板の先端には、槍を持った“ソルジャードッグ”が一匹だけいた。

「見張り、ですかね?」

「まあいい、念の為始末しておこう。」

そう言うと同時、ルイが居合い切りを披露する!ちなみに本来、居合い切りというのは片手剣で放つ技ではない。

斬りつけられ、よろめいた“ソルジャードッグ”は、そのまま地面に落っこちていった。

「そんな!ジャーキー、助けてくれ!」

そのまま彼は頭から落下する。地面に激突したが、まだ生きているのか、痙攣している。

(ジャーキー?誰だ?いやそもそも人名か?)

「チッ、思いの外しぶといな。ま、いいや。『召雷サモニング・サンダー』。」

ルイが指を振った瞬間、晴れているはずの空から何本もの雷が“ソルジャードッグ”に向かって降り注ぐ!“ソルジャードッグ”は黒焦げになった。

そのあとは特筆すべき出来事もなく、三人は塔を登り終え、最上階にあったお宝(?)をいただいて塔を後にした。強いて言うなら、万年運動音痴のエミーが外付けのロープで上に登るさいに落っこちかけたことぐらいで、まあそれもたまたま下の窓から顔を出してしまったカールの首がねじまがるぐらいですんだ。いや、重傷なんだが。

「いててて、俺が何したって言うんだよ……。」

「私のお尻に顔をくっつけました!」

「原因てめえだろ!なあ、ルイ、こいつ今からでもあの塔の最上階から叩き落としてきていいか?」

「やめろ。労力の無駄遣いだ。ほんとにやり返したいなら、死ぬギリギリの高さに精神がまいるまで吊し上げるほうが効率がいいし、あとでそいつを利用できる確率が上がるぞ。」

(聞くんじゃなかった……。)


今日の戦利品

金色の骨(塔の最上階の宝箱から入手) 金メッキが貼られて何故かリボンまでついている謎の骨。サイズと形的に多分人間の大腿骨。使い道が思いつかない。

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