Episode.7 未来ノイジー

 あの孤児院の手伝いから4日後。世々良木せせらぎ研究けんきゅう青春祭あおはるさいまで1週間という事もあり、3・4時間目はクラス内での話し合いが行われていた。


 所謂、我がクラスからの学園祭実行委員の任命と演し物の決定の場である。


 ちなみに実行委員に関しては俺は絶対にやる気は無い…俺は自分の能力の低さを理解しているからだ。


 迷惑を掛ける可能性が高いのに、態々責任を被る仕事をするのはゴメンである。


「あーし、実行委員とか初めてだけど全力で頑張る!迷惑かけるかも知れないけど…サポートしてくれると嬉しいです!よろしくお願いします!」


 ちなみに学園祭実行委員は日向さんと、同じクラスの女子で田村さんという方がする事になった。


 田村さんとは話した事は無いけど、元気で活発な印象だ。


「日向ちゃんって、こういう祭り事とか好きそうだよな。実際、立候補してるし…」


「どうかな?…詳しくは知らないけど、好きそうな気はするかな?…」


 本当にそうなのか?…俺は日向さんの事は何も知らない。


 …というか、どんな相手に対しても俺は知ろうとしなかった。いつだって相手に尋ねるのは、興味がある訳じゃなく話を繋ぐ為だ。


 私、もう死んでるんだ…──聖咲の孤児院のお手伝いの日の別れ際に日向さんが言ったは、いったいどうゆう意味だったんだろうか?


 今だに、彼女のあの似合わない暗い表情が頭から離れない。


「…というか残り1週間以内で学園祭の演し物を決めてから準備って遅いんじゃないか?」


「そうか?うちの学校は去年もこの時期に決めてたな。その少し前から生徒会は色々準備するけどな」


「そういや修、生徒会の方は何してるんだ?」


「ああ、他校と連携を取って会議をしたり、学校付近の出店場所の許可や書類関係だな。何せ、俺達だけの学園祭じゃなくて世々良木全土の合同のお祭りだからな」


「大規模な祭りだし、そりゃ生徒会も大変そうだな」


「お前、他人事だなぁ…実行委員に選ばれて俺の苦しみを少しでも知れば良かったのにさ」


「こういう皆んなを引っ張るのは向いてないな。適材適所だろ、こういうのは責任感とかリーダーシップのある奴が適任だろ。俺の無能でもう一人に迷惑掛けたくないし…」


「お前、考え方が卑屈過ぎんだろ…」


 卑屈と言われ様と、実際に俺の素は捻くれてる方だからな…少しだけだが、聖咲じゃないが猫を被っている自覚がある。


 ただ、修や聖咲に対しては何だか少しだけ自分を出せている気がする。修は良く話すし、聖咲は後輩だから気をあまり遣わないで良いってのもあるのかも知れないが…


「…そういや、日向ちゃんで思い出したんだけど…お前って日向ちゃんみたいに、あまり誰かと話してるの見ないよな?」


「ん?…そうか?割と話してると思うけど、お前とか日向さんとも…」 後は聖咲とかな。


「いや、話してるところっていうか…望ってあんまり自分から誰かに話かけないだろ?」


「…まぁ、言われてみれば…自分からは話さないかもな」


 確かに思えば、今のところ話したと言っても、授業の一環や体育のペア体操で誰かと必要があるから話してただけで…特段、仲良くなれた人間は修や日向さんくらいかも知れない。


「お前さ、用事が無いと話しかけちゃダメとか思ってないか?俺達は友達なんだから遠慮なく話しかけて良いんだぜ」


 理由が無くても話かけて良い…か、確かに俺は相手に話しかける理由がなければ自分から声を掛けない。それは別に友人に遠慮してるとかではなく…


「はいはい、皆さん静かにしてね。それではこれから学園祭の演し物について決めたいと思います」


 修と無駄話をしていると、学園祭実行委員の田村さんが教壇で会議の進行を始める。


 様々な意見が飛び交っている。たこ焼き屋、メイド喫茶、お化け屋敷…他にも色んな意見が黒板に書き足されて…──最終的に候補に上がったのは、たこ焼き屋とメイド喫茶、焼きそば屋、そしてクレープ屋が残ったのだが…


 どうしてもメイド喫茶がやりたかった男子共と修が結託して「もう全部、メイド喫茶でやれば良いと思います!」みたいな意見を出した事で、うちのクラスの演し物はキメラメニューメイド喫茶に決まった。


 メイド喫茶に決まった瞬間に野郎共がガッツポーズで雄叫びを上げていたが、この阿呆共と仲間扱いされたくなくて寝たふりをしていた。


 その後は、残りの時間を材料やメイド服を誰が持ち寄るかみたいなものをクラスで相談した。案外、話は早く纏まり、生徒会への申請準備は整った。


「後は、俺が会長に持って行くよ」と生徒会所属の修が言ってくれたので、昼休みが始まって直ぐに生徒会への申請はできた。後は会長の了承次第だ。


「あっ…あれは、不忍先輩だな」


 昼休み、修はそのまま生徒会役員と食事を摂るらしいので…俺は珍しく食堂に行こうと近くを通りかかったのだが、そこで不忍先輩を見掛けた。


 最初は気にせず食堂に向かおうと思ったが…頭の中で修が言っていた事が頭の中に浮かんだ。


「まぁ、でも…理由が無くても話かけるくらいなら良いのかもな…」


 俺はゆっくりと歩いて不忍先輩の方へと向かう。何やらキョロキョロと辺りを見渡しているが…ああ、菓子パン戦争に乗り遅れたのか。


 不忍先輩は惣菜パン争奪戦が起きている人混みから少し離れた場所で茅の外だ。うちの学校の購買はパンを商品棚から入手してからレジに向かうシステムだから早く向かわないと押し負けるし、勝負の土俵にも上がれない。


「どうしたんですか?不忍先輩」


「うわぁっ!…何だ後輩、お前かよ。何の用だ、いったい…」


「すみません、驚かせちゃって。何かソワソワしてたみたいだから、どうしたのかな?…と」


「アタシは別に驚いてないし、ソワソワなんてしてないよ」


 いや、明らかに同様してるだろ。そんな不忍先輩が見詰める先は中央の惣菜パンのコーナーでも右の弁当のコーナーでもなく、菓子パンが置かれてる左側のエリア…甘いパンがご所望か。


「…で、不忍先輩は何が食べたいんですか?」


「は?別に今はお腹なんて減って…」


「俺が買って来ますから、早く言わないと売り切れますよ」


「いや、でもアタシ……えっと、メロンパン…チョコチップのクリームが挟んであるやつ…」


 不忍先輩は顔を真っ赤にしながら数量限定のクリーム&チョコチップメロンパンをチョイスした。


 正直、この人混みでは数量限定の人気品は売り切れてる可能性が高いが…──俺は人混みの縫い目を割く様に通り抜けて行く。


 ちなみにこれは、ルール違反でもマナー違反でも無い。ここは戦いの場、購買の店員がそれを認めているので…購買には『戦場』という貼り紙が大きく掲げられ、ご丁寧に『暴力禁止』『強奪禁止』など禁止事項まで書かれている。


 そのまま人混みを潜り抜け、最前線に…クリーム&チョコチップメロンパンは何とか一つだけ残っていて無事にそれを回収した。


「はい、不忍先輩…これで良かったですか?」


「あ、ああ…ありがとう」


 そのまま不忍先輩はレジに向かい、購入してから直ぐに戻って来た。そして、心做しか申し訳無さそう…


「いや、後輩…本当にありがとう。ちょっと甘いものの気分でさ…」


 不器用ながら感謝を伝えてくる先輩、見た目悪ぶってるのに可愛いな…


 多分、この人これで良い人だから割り込んで他の人が目的の品が手に入らなくなるのが申し訳無かったんだろうな。


「…というか、お前は何も買わなくて良かったの?」


「俺は食堂に行く予定だったんですけど、ここで不忍先輩が明らかに困り果てていたので…」


「困り果ててたわけでは…かも知れないな。うん、助かったし、食堂で何か奢るよ」


「いや、別に大丈夫です。俺が好きでやった事なので」


 …というか、どんだけメロンパン好きなんだよって思うんだけど、そのくらいで購買パンより高い食券を奢るってさ。


「そ、そう…でもこの仮は返さないとアタシが納得できないから、何かの形で返させてほしい」


「分かりました、じゃあ今度の学園祭は期待してます」


「こ、後輩!?…それって一緒に回ろうって事?」


「えっ…いや、そう意味では…あるかも?」


 自分でも驚きだ、何言ってんだ俺…おい、女の子を祭りに誘うとか好意があると勘違いされても可笑しくないんじゃ…もしかして俺って浮かれてる?


 自分では、そんなつもりはなかった。でも、もしかして自分は1週間後に行われる学園祭に思いを馳せてしまっている?…えっ、この俺が?


「わ、分かった!そん時に何か奢るから…それで良いよな?」


「えっ、あっはい…よろしくお願いします」


 先程のメロンパンの時より同様している先輩、照れ隠しなのかそっぽ向いた後に、先輩は逃げる様にその場を後にした。


 一方、俺の方も顔が熱くなってるのを感じたが、今更後には引けない…これって、もしかしてデート?


 そういやアニメで、女の子と二人で出かけるのはデートだとか言っていた…つまり、俺は学校の先輩をデートに誘った!?…転校して来てから飛ばし過ぎだろ俺。


 …でも本当に自分でも戸惑っている。デートの件もそうだが、何より自分が学園祭に浮かれている事にだ。


 前の学校や中学でも文化祭は当然あったが、俺がそれに対して特別楽しみにしていた記憶は無い。そもそも祭り自体にあまり興味が湧かなかった。


 当時から苦手意識があった母親に妹と連れ回された記憶、文化祭も友人は基本的に俺より他の友人を優先する。


 …正直、俺が友人と思っていただけなんじゃないかとも思う。


 そんなある時、事件が起きた…噂は瞬く間に広がり学校中から俺は軽蔑の眼差しを向けられた。


 結果、母親や妹にも迷惑を掛けて…友人は一人残らず離れていった。


 それ以来だろうか、自分から他人と話そうと思う事は減った。一定の距離感で仲良くしておけば失っても傷付かないで済むから…


 そう、認めたくないが、俺が理由無く自ら他人に話しかけないのは失う事が怖いからだ


 情を持ってしまえば、手放せなくなる…悩まなけれバならなくなる。人間関係は近過ぎず遠過ぎずが基本なんだ、面倒臭いの嫌いだ。


 …なのに俺は、自ら話しかけたんだ。自分の中で何でこんな変化起きたのかは何となく気付いている。でも、まだ認めたくない自分がいる。


 俺は未来に期待しない…未来を信じない。行先も分からないし、光すら見えないお先真っ暗…自分がいる未来が見えてくれない。


 やりたい事も目標も無い…自分は未来を諦観している。俺は未来なんて不安で、何かを望んじゃいない。


 それなのに俺は、一歩踏み出そうとしたんだ…何かを望もうとした。もしかして、俺はここでなら変われるかも知れない…


 に考えてしまうくらいには俺は浮かれていた。でも、まだ俺は未来なんて信用しない…浮かれ過ぎれば足元を救われるのが人生なんだ。自分をそうやって律する。


 そうやって生きてきたのだから、何も持たなければ…何も失わないし、心が傷付く事も無い。そういう距離感が大事なのだ。


 そんな事を考えながら俺は食券を買ってから、食堂のおばちゃんから受け取ったハヤシライスを手に席に座ったのだった。


 Episode.7《END》

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