Episode.6 聖咲シスター/水葵ゴースト 〔続〕

 今日は日曜日…そう、聖咲から頼まれた孤児院の手伝いの日である。そのアサガオ孤児院は住宅街付近、徒歩12分圏内で行ける。


「あっ、望くん…こっちこっち〜!」


 教会の前には既に日向さんが到着していた…あれ、早くないか?俺だって約束より早く来たけどさ。


 …というか日向さんの家が何処にあるかは知らないけど、今だって約束の時間である9時30分より10分も早い。


「おはよう、日向さん早かったね。もしかして結構前から来てた?」


「ううん、10分くらい前だから…今来たところだよ」


 いや、20分前は今来たところには入らない。もしかして日向さん、孤児院のお手伝いを楽しみにしてた?…


 どんな事でも楽しみそうだもんなこの人。正直に言うと、俺は少し面倒臭かったりする。


「あれ?…早かったですね、先輩っ…──あっ、初めまして一年の聖咲夢愛です。今日、お休みなのに態々来て頂いてありがとうございます」


 そこに聖咲もやって来たが…日向さんをも見るや少し固まってから自己紹介を始めた。


 あれだ…初めて出会った時の修道女シスタースマイル…さてはコイツ、日向さんがいるからって猫…いや、修道服を被ってるな?


「大丈夫、大丈夫!わたっ…あーし、めっちゃ楽しみにしてたし!望くんが言ってた後輩ちゃんだよね?あーしは水葵日向!よろしくね!」


 また一人称を間違えてる…もう自然と『私』に戻せば良いだろうに…


 いや、でも日向さんって転校デビューでクラスでも人気者だし、今更『あーし』を辞めるのは無理か。逆に不自然になるし…


 ただ、あれだけボロを出してる日向さんの事だ…割と周りの皆んなも気付いてそうだけどな、日向さんが言う程ギャルじゃないって。


「取り敢えず、少し早いですけど施設内を案内しますね」


「うん、ありがとう!夢愛ちゃん、今日はよろしくね!」


「は、はい…こちらこそ、よろしくお願いします」


 シスター姿の聖咲は少し戸惑った後に、俺達の前を歩いて行く…というか、修道女シスターモードの聖咲を狼狽うろたえさせるとは流石の陽キャだ日向さん…


 そんな日向さんに目をやると、明らかにウキウキした姿が視界に入る…子供好きなのかな?


「ねぇねぇ、望くん!私、シスターさんって初めて見たよ!可愛いね!」


 そんな風に同意を求められてドキッとする…距離が凄く近い。


 前から思っていたが、日向さんは距離感が普通にバグっている。今も耳に彼女の息が当たってるし…


「あぁ、まぁ確か…──」


 俺はそう言いかけて、その言葉を呑み込んだ。


 日向さんの距離感の方に注意がいってしまっていたが…もし、このまま「可愛い」などと発言すれば…それは即ち、聖咲夢愛を可愛いと言ったの同義になる。


 そうなれば後日、目の前の修道服を被った悪魔に弄り倒される未来は見えている。


「…確かに、は!可愛いよな」


 俺は敢えて修道服を強調して言った。それに対して何も触れて来ない聖咲…普段なら「先輩、女の子の前で変な性癖告白しないで下さいよ〜。マジでキモいです…」とか言ってきそうま。


 …だが、今のコイツは修道女シスターモードだから勧誘くらいしかしないだろう。でも、逆に後が怖いぞ…


「だよね〜!私も着てみたいな〜!」


「入信してくれれば、いつでも着れますよ。あっ、このまま歩いて教会の裏がアサガオ孤児院になっていますので」


 言った傍から自然ナチュラルに宗教勧誘して来るな、この後輩…


 それより、今二人共って言わなかった!?俺も入ったら着せられるの?ますます入りたく無くなった。


「到着しました、此処が我等がアサガオ孤児院です」


 そこは…また世々良木とは違った意味で日本離れした場所だった。


 目の前には孤児院の綺麗な建物があり、遊具等がある広い敷地をピンク色の朝顔と緑の蔦が絡んだ白いフェンスが囲っている。まるで別空間であった。


 そのまま孤児院の中に案内されると、窓から見える部屋の中では子供達が走り回ったり積み木やパズルで遊んでいる。


 それを世話する本職だろうシスターさんや窓から不思議そうにこちらに注目をしてくる子供達も居た。


 そんな中、横に居る日向さんはガチガチに緊張していた…本当にこの人、人前苦手なんだな。まぁ、いざとなったらギャルモードで何とかなりそうだけど…


「はい、皆んな!今日、皆んなと遊んでくれる日向お姉ちゃんとゾンビお兄ちゃんです」


「水葵日向だよ、よろしくね!皆んな!」


 誰のゾンビだ…という言葉ツッコミを呑み込んで、俺は視線を子供達に向けた。


 子供達は義手や義足を付けていたりする子供が殆んどで、中には車椅子の子供も居た。


「未来望だ、よろしくな皆んな」


「大丈夫だよ、皆んな、こう見えても望お兄ちゃんは優しい人ですから」


 別にそんなフォローは求めてはない…が、まさかの後輩からの評価は少し嬉しい。だけど、俺ってそんなに目付き悪いか?


 そして自己紹介も終わり、日向さんは子供達に大人気…子供達の一人が「鬼ごっこしたいっ!」と言った事で孤児院の庭で鬼ごっこが開始された。勿論、俺も参加させられた訳だが…


「はぁ…はぁ…クソっ、子供達の体力あり過ぎだろ。もう俺、歳だわ…」


「何を寝惚けた事言ってるんですか先輩。だらしないですね、先輩って運動音痴ですか?」


「うるせぇ…お前も参加しろよ。何を呑気にサンドイッチを食べてるんだよ…!」


「仕方ないじゃないですか、朝ご飯食べてないんですから」


 そんな事をほざく聖咲は、子供達を優しい目で見守っている。


 こんな事を言うと失礼たが、バイトって言ってたから、親の手伝やお金の為に仕方なくやってるんだと思ってた。


「彼奴等の事、大切に思ってるんだな…」


「急に何ですか先輩、気持ち悪いです」


「おい、人がせっかく生意気な後輩相手に優しく接して上げてるってのに…」


 俺が距離を空けてベンチの隣に座ると、俺の方を聖咲がじっと見てくる。


 …えっ、何だ?…隣に座られるの嫌だったか?……だったら立ち上がろうかな、っと考えていたら聖咲が口を開いた。


「先輩、ここの子供達にびっくりしましたか?」


「えっ、何で?…あぁ、義手とか義足の話か」


「はい、ここに居る子供達は皆んな事故や病気の後遺症や手術なんかで身体が不自由なんですよ」


「だから、なのか?…シスターのバイトをやってるのって」


「前も言いましたが、昔からお父さんに手伝いをさせられてただけですし、昔はお小遣いも欲しかったからでしたけど…今は、この子達が幸せに生きられるお手伝いをしたいなって…」


 へぇ、そんな事を考えてたのか…生意気な後輩ではあるけど、まさかの一面を知って驚いた。


「お前、凄いなぁ…」


「えっ、どうしたんですか〜?私に惚れちゃいました?」


「そうじゃないけどさ、誰かの幸せの手伝いがしたいって言ったけど、そう思える聖咲は凄いなぁ…って」


「何か、そんな真面目に返されると照れますね。てか、先輩ってお人好しって良く言われません?」


「前にも言われたな、それ…そんなじゃないけどな」


「でも、私の我儘を聞いてくれたじゃないですか」


「まぁ、暇だったしな…」


 いや、違う…俺にはそれしないからしてるだけだ。


 見て見ぬふりをすれば、俺がここに生きる意味が無くなる気がする…存在理由が分からなくなるから…全部、自分の為なんだ。


「あ〜!お兄ちゃんがサボってるぅ〜!」


「お兄ちゃんはズルだから次の鬼ね!」


 鬼ごっこに夢中だった子供達がどうやら俺の不在に気付いたらしい。めちゃくちゃ集まって来てる…仕方ない、戻るとするか。


「じゃあ、俺は戻るけど…聖咲も早く参加しろよ」


「食後直ぐの運動は消化に悪いので拒否で〜」


 コイツ…とは思ったが、子供達があまりにも急かすので何も言わずに戻った。


 俺は少しは手加減しつつも容赦なく子供を捕まえた。それを見兼ねて捕まった日向さんが鬼になった。


「よぉーし!行くよ、望くん!」


「かかってきな、俺はこう見えても短距離走は…──」


 …俺は開始30秒で捕まった。てか、日向さんめちゃくちゃ足速い…えっ、元々陸上部か何か?


 その後は外で遊び疲れた子供達とお絵描きをして、お昼を食べて、その後は子供達はぐっすりと寝てしまった。


 その間に孤児院の掃除をして、目覚めた子供達と一緒にオヤツを食べて解散になったのだった。


「お疲れ様です。それでは先輩方、今日の給料です」


「えっ…夢愛ちゃん、流石に受け取れないよ!今日はとっても楽しかったし、それでは十分。お菓子もご馳走様になっちゃったし」


「そういう訳にはいきません、お父さんからちゃんと二人に給料を渡す様に言われてますので」


 流石は日向さん、人間が出来ていると言うか…報酬の受け取りを遠慮している。


 いや、別に俺も見返りを求めて聖咲を手伝った訳じゃないが…貰えるのなら、できれば貰いたい。


「それより今日は、そのお父さんは居なかったのか?」


「はい、今ちょっと出てまして…二人に会いたがってたんですよ。先輩達を連れて来るって言ったら」


 もしかして、片方は男だとか話してないよな?…俺、お父様に殺されたりしないよね?


「取り敢えず先輩方、お疲れ様でした。入信っ…また来て下されば嬉しいです」


「勿論!私で良ければ、いつでも手伝うよ!子供達と遊ぶの超楽しいし!」


 ちょっと待て、そこの後輩が入信ってハッキリ言ってたのは触れないのですか?日向さん…というか貴女、一人称のボロが出っ放しですよ。


 最終的に日向さんが折れてくれて、聖咲からバイト代を貰った。


 流石に日向さんが受け取らないのなら、俺だけ受け取る気はなかったけどさ。


 孤児院の手伝いが終わった頃には既に日は沈み始めて綺麗な夕焼けだった。


 正直、鬼ごっこやら掃除で疲れてしまった…常夏の島だけあって、暑いので余計にな。なので帰りにコンビニでも寄ろう。


「あれ?望くんは帰りこっちなの?」


「あ、俺はコンビニでも行こうかと思ってさ。日向さんはこっちなんだな」


「うん、私は都市部の方のマンションで一人暮らししてるからね」


「一人暮らしか…大変だったんじゃないか?新しい環境で一人ってのは…あれ?でも前にお父さんがこっちで働いてるとか言ってたよね?」


「うん、でも一緒には住んでないよ。それより、私もコンビニ行こうかな?アイスとか食べたいし」


「そうだな、こんなに暑いと冷たい物でも食べたくなるよな」


 二人でそんな話をしながら歩いていると、歩道に植えてある気の根元に、小さなクマのぬいぐるみの付いたボロボロのストラップが落ちていた。それを見た日向さんは、それを広い上げた。


「ごめん望くん、一緒にコンビニ行く流れだったけど…私これを交番に届けて来るね!」


「別にコンビニの件は気しないけど…偶々一緒に行く流れになっただけだしね。でも、そんなにボロボロじゃ結構前に落とした物だろうし、持ち主はもう諦めてるかもよ」


「でも、大切な物なら無くしたらとっても悲しいと思うから…私、その人にそういう想いしてほしくないんだよね。まだ諦めてないかもしれないし」


 常々思うが、日向さんは良い人だ。元気で明るく誰に対して変わらない態度で接する上に優しい…


 こういう相手に対して、普段なら疑いの目を向ける俺ですら思ってしまう程だ。


「日向さんって良い人だよな」


「違うよ、私は必死に良い人の真似をしてるだけだよ」


「ん?…真似?…それって、どういう意味だよ」


 その言葉にそう尋ねると日向さんは立ち止まって、それから暫くの沈黙が支配した。しかし、その後には直ぐに口を開き…


「私、もう死んでるんだ…」


「えっ、日向さん…それは、えっと…」


 突然の発言…いつもの日向さんからは想像できないくらい暗い表情をしていた。


 死んだって何かの比喩だろうけど…いったいどういう意味なんだ?


「ごめん、変な空気にしちゃって!じゃあ、またね。私は交番に行って来るから!」


「ちょっ…日向さん!さっきのどうゆう…」


 余程、触れられたくなかったのか日向さんは強引に話を切り上げ交番の方に走って行った。


 流石に俺もこれ以上他人の事情に踏み入るのは良くないよな…


 俺はその後、大人しくコンビニに向かってから飲み物とアイス買って、そのまま帰る事にした。


「本当に今日の日向さん、何だったんだろ…」


 自分の部屋で明日からまた学校かぁ…とかスマホ見ながら憂鬱な気分に浸っていると、RAINからメッセージが…


「はぁ…やっぱり、こうなったか」


 表示されたRAINには「先輩は修道服がお好きなんですねぇ、シスター萌えなんですかぁ?…」と憎たらしい後輩からのメッセージが来ていた。


 前に聖咲とRAIN交換してたんだが…それは間違えだったかも知れない。明日から学校で聖咲からめちゃくちゃイジられる事を考えて、更に憂鬱になった俺なのであった。


 Episode.6《END》

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