Episode.8 世々良木研究青春祭

 うちのクラスの演し物が”何でもメイド喫茶”に決まってから直ぐに生徒会からの申請は通った。


 そして皆んなで約1週間で準備を重ねて、遂に世々良木研究青春祭の日がやってきた。


 今朝、登校していると、町中に準備中の屋台が何軒もあって、他にも普段やってるお店が限定メニューやセールをやったり、屋台として進出していたりと、実際に祭りが始まったら凄い賑わいになりそうだ。


 我々学生にとっては学園祭でも、町の人や観光客にとって都市全土を巻き込む祭典だ。


 生徒会も他校と連携をとって、この世々良木市を盛り上げる為に尽力してきたらしい。


「可愛い!…雫ちゃん似合ってるよ!」


「いや、オレには似合わないだろ…お世辞とか良いから…」


 そんな事を言いながら照れるメイド服姿の十六夜さん、それ褒める日向さんを始めとした他のメイド服姿の女子達が取り囲んでいた。


 そして、それを遠目から見てソワソワする執事服の男子達…悲しきかな、俺もその一人だ。


「それにしても、日向ちゃんも十六夜ちゃんも凄く可愛いな。望、お前もそう思うよな?」


「まぁ、似合ってはいるよな…」


 横から話しかけて来た修に対して、俺は素っ気無く返す。恥ずかしくて口が裂けても言えないが、日向さんも十六夜さんも可愛いと思う。


 普段はツインテールの日向さんのポニーテールには凄く新鮮なのものがあるし、十六夜さんも髪の色と相まって幻想的に見える。


「あのさ、お前って女の子に興味無い系の人?…えぇ、男が好きとか?」


「ノーマルだわ!…別に女の子に興味が無い訳じゃない、俺だって好きなヤツくらい普通に居たよ」


 しまった…修が俺から距離を取りながら巫山戯ふざけるので、思わず必要無い事まで言ってしまった。


「マジで!?詳しく聞かせろよ!」


「嫌だよ、何を言われてもこの話は終わりだ」


 好きなやつは居た気がするけど…別に恋と呼べる様なものだったかと聞かれたら違うかも知れない。


 あの時は友人としての好きが恋愛感情とごっちゃになってしまって様なモンだしな。それに、俺が恋を知る時なんて訪れない…そう思う。


「なぁ、日向ちゃんか十六夜ちゃんに話しかけてくれば?…言ってやれよ、可愛いよって!」


「いや、俺はそんなキャラじゃないだろ…」


「キャラとか関係無いだろ?行って来いよ!…ギャルゲーなら選択肢が出てるぞ」


「えっ、お前ってギャルゲーとかやるの!?…」


 俺は修に背中を強く押され、女子の前に放り出される。しかし、他の女子は十六夜さんに夢中で気付いていない…


 というか、十六夜さんは少しクラスで浮いてるイメージあったけど、他の皆んなも近過ぎ難かっただけなんだろうな…と、この光景を見て思う。


「まぁ、また後で良いかな…」


「…──やっ、やってられるか!」


 急に人混みから声を上げて抜け出した十六夜さんが教室から出て行ってしまった。あれは、褒められ過ぎて逃げたな…


「雫ちゃん…ヤバっ、あの時もって言ってたし、悪いことしちゃったかな…」


 人混みから出て来た日向さんが暗い表情して呟いている。多分、初日のモックでの事を言ってるのだろう。


 …正しくはって言ってたんだが…それに今回のは羞恥心しゅうちしんに耐えらなかっただけだと思うけど…


「代わりに俺が行ってこようか?十六夜さんのところ」


「望くん…そうだね、私達が行っても逆効果かも知れないし」


「多分だけど日向さん、十六夜さんは照れてるだけだと思うよ?」


「えっ、そうなの!?…そっか、なら良いんだけどなぁ…」


 取り敢えず、まだ不安そうなん日向さんを他所に、俺は教室から出て十六夜さんを探しに行くが…案外あっさり見つかった。十六夜さんは階段に座り込んでいた。


「十六夜さん、戻ろうよ。そろそろ始まるからさ」


「たくっ、何なんだよ彼奴ら…」


「十六夜さんが可愛いから皆んな褒めてくれてるだけだよ?」


「はぁ!?お前っ…オレの事をからかってんのか!」


 いや、本心から…って何を言ってるんだ俺は…割とはっきり言ってしまった。マジで俺のキャラじゃない筈なのにさ。


「…分かったよ、戻りゃ良いんだろ?」


 あれ…素直だな。後、少しで青春祭開始時刻の9時だから助かると言えば助かるなんだが…


「そういや、何か喋るの久しぶりだな…」


「えっ?…ああ、そうだね。廊下で会って少し挨拶するくらいだったし、ちゃんと喋ったのは最初だけかもな」


「あのさ、こういう祭りとか苦手…というか、よく分からないんだ…運営側?みたいなのに回るのも初めてだし、彼奴らの事、早速困らせちまったし…」


「初めて?…中学とかで……」と言いかけて、その言葉を飲み込んだ。そうだった、少なくとも彼女にとっては本当に初めての文化祭運営なのだろう…彼女がいつから記憶喪失になったのかは知らないが…


 それに、十六夜さんが申し訳なさそうにしている。十六夜さんって普段のオラついた態度で誤解されるけど、本当は皆んなと仲良くしたいのか?


 …そうか、は違うもんな。俺には噛み付いて来た気がしたけど…


「多分、皆んな気にしてないと思うよ?」


「…だけど、また雰囲気悪くしちゃっただろ?」


「大丈夫大丈夫、きっと気にしてる奴なんて居ないよ」


 そう話ながら教室に戻ると、十六夜さんの周りに案の定、女子が集まって謝っていた。


 主に日向さんは一人だけ倍謝っていた…まぁ、モックでの一件で自分がやらかしたと思ってるんだろうから仕方ないか。


 そんなこんなしている内に時刻は9:00を回って、待ちに待った世々良木研究青春祭は開催された。

 ◇


「ミック、客足落ち着いたからお昼休憩良いよ」


 開始早々、うちのクラスのメイド喫茶は大盛況であった。外で十六夜さんが看板持ってるだけでじゃんじゃん人が入って来る。


 それに料理も喫茶店らしいメニューばかりでは無く野郎向けのガッツリとしたものまであるからな!…なんたって何でもメイド喫茶だ!…


 まあ、それでも昼過ぎにお客の入りは減って来てやっと一息付けると言った感じだ。


 裏方の俺が真っ先に休憩なのは少し気が引けるが…三羽さん言われて休憩を取る事にした。


「いやぁ…こうして見ると、うちのクラスの女子ってレベル高いよな〜!十六夜ちゃんとか日向ちゃんとかが目立ちがちだけどさ」


「修も休憩か…どっか屋台行くか?」


「お前さ、野郎とじゃなくて他に予定ないの?…ほら、女子と一緒に祭りを回るとかさ」


 まぁ、あると言えばある…不忍先輩と一緒に回るみたいな流れにはなってはいる。


 …だけど、向こうの休憩の都合もあるしな…まぁ、幸い学園祭は二日、青春祭自体は三日間あるから明日でも良いだろうけど…


「あっ…悪い修、予定入ったからやっぱ回る無しなっ…」


「えっ!?望?…もしかして女子からァ!?裏切り者!」


 どうすりゃ良いんだよ。本当にその通りで不忍先輩からお昼休憩中という連絡が入ったので、二人で予定通りお祭りを回る事になった。


「じゃあまず、どっから回ろうか?アタシは最初はガッツリって感じで何か食べたいんだけど」


 待てよ?…これってデート?いや違うだろ、これは飽くまでこの前のメロンパンの御礼の筈だ。


 …でも意外だな、不忍先輩なら開口一番で甘いもののチョイスを…しかし、不忍先輩の目線がクレープ屋に向いているのが見えた。


 あれ?ガッツリとは…と思ったが、不忍先輩が食べたそうにしているしな。


「じゃあ不忍先輩、クレープにしましょうか?」


「えっ…いや、アタシはガッツリ系が…ほら昼だし!昼飯ぽいものが良いんじゃないかな!?ほら、後輩も腹減ってるよな?」


「でも、あのクレープ屋ってご飯系の焼きそばクレープとかガッツリ系もありますし、ピッタリじゃありません?甘いのもありますし」


「…あのさ、後輩はアタシの事を甘いものが好きなだと思ってない?」


「はい、そうじゃ無いんですか?甘いの好きでしょ?」


 普通かは置いといて、甘いもの好きな女子っての間違え無いよな…


 だって購買の限定メロンパンの件で、態々こんなにお礼しようとしてくてるんだからさ。


「いや、まあ…チョコバナナクレープ食べたかったけど…」


 何だこの先輩可愛いなぁ!?…危ない思わず不忍先輩のペースに乗せられるところだった。


 この人が超能力者だという事を忘れるとこだったぜ…もしかして、これも超能力!?…な訳ないな。俺、浮かれ過ぎ…


「…って、あのさ後輩、これってアタシがお礼する為に誘ったのに…何で後輩が奢ってんの?」


「いや、先輩に奢らせる訳には…それに一緒に屋台回ろうと言ったの俺ですよ?」


 あ…でも最初に学食で奢ると言ったのは不忍先輩で、じゃあと代わり学園祭での屋台を提案したのは俺だから…実質、不忍先輩の誘いになるのか?


 …というか屋台のご飯って学食単品より高くないか?…不忍先輩に奢らせてしまうと考えると、チョイスをミスったかもしれない。


「…とにかく、次はアタシが奢るからな!何が良い?」


「じゃあ林檎飴で、あれ食べないと夏は越せませんし!…あっ、でも200円は俺が出しますよ!メロンパンもそれくらい…」


「良いから黙って全部アタシに出させろよ!」


 不忍先輩からの圧に押されて、俺は林檎飴を奢られてしまった。


 お礼だから申し訳なく感じる必要は無いのだけど、やっぱり何か申し訳ない気持ちになる。てか明らかにチョコチップメロンパンの値段の比じゃない…


「後輩、次は何を食べようか?」


 まだ食うのかよ!?…とは思ったが、かき氷にチョコバナナにキャラメルポップコーン、フルーツ飴に団子、タピオカミルクティーの苺味に…ってこの人、本当に見掛けに寄らず甘いもの好きなんだな。


「もうさっきのたこ焼きで貸し借りは無しなので、先輩がもう奢る必要は無いですからね」


「…わ、分かってるよ!」


 だけど、それより何か…食べる事以外の楽しみ方もしたい気がしてきた。というか普通に俺の胃袋が限界だ…


「それより食べ物以外もどうですか?ヨーヨー釣りとか」


「じゃあ、どっちが早く釣れるか勝負な?…負けた方は何か奢りで」


 可笑しい…また奢る奢られるの話になってないか?まぁ、でも不忍先輩が楽しそうだし、それで良いのかもなぁ…


「でもヨーヨー釣りって簡単ですし、勝負にならないのでは?」


 良く考えたらヨーヨー釣りって何が楽しいんだ?…自分のチョイスもだが、これを演し物に選んだ奴等はどういう考えでヨーヨー釣りをチョイスしたんだ。


 思えばヨーヨー釣りってメインは釣ったヨーヨーで遊ぶ事じゃないの?…競争とかあるんだ。


「そうか、後輩は知らないのか。ここのヨーヨー釣りは流し素麺そうめんみたいに回転するのさ!」


 本当だ…B組のヨーヨー釣りの屋台まで来ると扱い勢いでヨーヨーが回ってる…というか洗濯機みたいになってるですけど!?えっ、怖い…


「…てか!1回500円は高くない!?…」


「まぁ、金魚掬いと違って確実に取れるからな!…じゃあスタートで!」


 二人共、500円を出してミニ釣竿を手に持つが…これ無理じゃね?


 …いや、この速度釣れるのか?…店の奴には悪いが、詐欺じゃないのか?


「釣れたぁ!…後輩、私の勝ちだな」


「早くない!?…いや、先輩もしかしてズルしました?」


「は、はぁ?…何の事かなぁ〜?」


 こいつ、超能力使ったな…絶対そうだ、あの空き缶浮かせるやつ使ったな…


 前に重量が何たらかんたら言ってたが、あれ嘘だったのか?…まぁ良い、それは後で問い詰めよう。


「…俺だって…──そこだァ!…えっ…!?」


 思わずムキになって、狙いを付けた水ヨーヨーを思いっきり引っ張り上げたら、頭から大量の水を頭から被った。取り敢えず、ちゃんと釣れる事は分かった…


「あははっ…何やってるんだよ!」


 何とか釣れた俺は、先程の俺にツボって笑いの止まらない不忍先輩とヨーヨー釣りの屋台を後にした。


 何か思いの外、楽しんでしまってる自分がいた。こういうイベントを楽しいと思えたのは何年ぶりだろうか…そもそも思った事、あったっけ?


「なあ後輩、お前の服って執事服だよな?ビショビショだけど大丈夫?」


「さっきまで大笑いしてたのに、心配してくれるんですね?」


「いや、ごめんって…ぶふっ」


「まだ笑ってるじゃないですか!…というか先輩は制服なんですね」


「まあ、私の占いの館はローブ羽織るだけだしね…──あっ、そろそろ戻らないと!休憩時間もうすぐ終わっちゃう!」


「分かりました、気を付けて戻って下さい…不忍先輩、今日楽しかったです。後で占いの館にも行きますよ」


「ああ、その時はアタシが占ってやるよ!」


 本当に不忍先輩が制服で良かったと思う…多分、こんな浮かれ気分の俺じゃ、出会い頭に不忍先輩の服を褒めてしまっていたから…


 そういや『十六夜さんが可愛いから皆んな褒めてくれてるだけだよ?』とか言って内心恥ずかしかったし、これ以上は家に帰ってから恥ずかしさにのた打ち回ってしまう。


 ちなみに俺は仕事を終えて、放課後に不忍先輩のところに修と一緒に占いに行ったのだが、何故か女難の相が出ていて修に掴みかかられた。いや、一番縁の無さそうな俺に女難の相って…


 確かにこっちに色んな事があったし…特に十六夜さんに初対面で絡まれた件とか。日向さんはさて置き、シスター後輩や超能力者先輩とか…


 えっ、もしかしてある意味当たってる?…などと考えながら青春祭一日目は終了したのだった。


 Episode.8《END》

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