骨走る

カニカマもどき

骨走る

「骨を鍛えなければいけませんね」

 始まりは、お医者様のその一言でした。


 その日から私は私なりに、骨を鍛え、骨密度を高めるべく奮闘しました。

 バランスの良い食事を心がけ、牛乳やいりこからカルシウムを、ほうれん草や春菊からビタミンKを、干し椎茸やキクラゲからビタミンDを摂るよう努めました。

 日光を浴び、お散歩をし、お酒の飲み過ぎに気を付けました。

 けれども残念なことに、私の骨密度は一向に高まりませんでした。


 一体どうすれば、骨を鍛えることができるのか。

 私は途方に暮れてしまいました。

 悩みに悩んで、夜も眠れない……ということはなく、幸い、人並みの睡眠時間は確保しておりました。


 ある夜、目を覚ますと、不思議なことに体が動きませんでした。

 ウワサに聞く、金縛りというやつです。

 枕元に何かの気配を感じます。

 嫌だな、見たくないなと思いつつも、視線が勝手に、そちらへ移動してしまい。

 そして、私は見たのです。

 そこに、骸骨が仁王立ちしているのを。


 直感で分かります。

 それは、私の骨でした。

「はじめまして、私はあなたの骨です」

 骸骨が、そう言った気がしました。

 私は金縛りにあったのではなく、体から骨が抜け出ていたために、うまく動けなかったのだなあ。

 何だかストンと腑に落ちて、そうするとほっとして、私はまた、眠りに落ちたのです。


 目覚めると、もう朝になっておりました。

 体は動くし、骨はきちんと私の体内にあり、どこにも異常はないようです。

 昨夜のあれは、何だったのでしょうか。

 たぶん、夢だと考えるのが妥当なのでしょう。

 冷静に考えれば、骨が勝手に体からつるんと抜け出し、枕元に立つなどということが起こるわけはないのです。

 ですが、昨夜見たあの光景、あの感覚は、あまりにも鮮明に、記憶に残っていて――とても、ただの夢だとは思えなかったのです。


 そこで。

 私は、ネットで検索をしてみることにしました。

 私と同じような体験談や、お医者様の知見が、ネット上に転がっていることを期待したのです。

 結果、見つかったのは予想外のものでした。

 それは一本の、短い動画。

 深夜の住宅地を、骸骨が軽快に走っている動画でした。

 コメントを見ると、本物の骸骨だと信じる視聴者の方はおられないようでしたが……

 私には分かりました。

 撮影され、動画を公開されているのは、私の骨であると。

 私が昨夜見たのは、ひとしきり近所をランニングし、帰宅してベッドに戻ってきた骨だったのです。

 それ以来、私の骨は、深夜のランニングを繰り返すようになったのでした。


骨遊病こつゆうびょうですね」

 と、お医者様は言いました。

 夢遊病のように骨が動き出すので、骨遊病と呼ぶのがふさわしいでしょう、と。

 それで、私はどうすれば良いかというと、どうしようもないし、どうもしなくて良いそうです。

 それというのも。

 骨が自らトレーニングを繰り返すことで、伸び悩んでいた私の骨密度の数値は、飛躍的に向上していたのです。


 さて、ここからは後日談であり、ある意味、本題です。

 コツコツと日課のランニングを続けていた私の骨は、ある日、なんと車に轢かれてしまいました。

 車と激突し、宙を舞いながら、骨は、こう考えたでしょう。

「メキシコの”死者の日”の骸骨がカラフルで鮮やかなのは、夜間に車から見えやすいようにするために違いない」と。

 それはそれとして、この件については、良いことと悪いことがありました。


 良かったのは、私の骨がほとんど無傷だったこと。

 トレーニングが功を奏し、私の骨は、車と激突しても平気なくらい、ほとんど無敵の、驚異的な骨密度を誇るようになっていたのです。


 悪かったのは、交通事故のお相手との示談交渉が難航したこと。

 骨が危険な走行していたか、していたとしてそれは私の責任か、そもそも骨を歩行者と同列に扱って良いのか、といったところのややこしいお話には、私もお相手の方も、保険会社の方も、うんうん悩んだものです。

 今回はなんとかなったものの、今後、もっと大変なことが起きないかと心配になる今日この頃。

 なので、お願いです。

 どなたか、走り回る骨に適した保険をご存知でしたら、是非とも教えていただきたいのです。

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