第10話 森を抜けて

「だったら、セイルもオレ達と一緒にヴァイラーナムの街に来たら良くね?」

 何やら、アルファに渡した指輪が気がかり過ぎてソワソワしているセイルを見かねたルキヤが、そう提案した。

「そうそう、旅は道連れ世は情けってね。道中少人数だと心細いし、何より人数多かったら色々面白そうな事に出会えるかもしれませんぞ?」

 お前はどこの旅の行商人か?みたいな口調で、アキラがセイルを更に説得?している。

「私も、お願いします!アルファに、こんな大切なモノを貸していただいたのに、またこんな事言うのも申し訳無いんですけど。」

「セイルの姉ちゃん!僕もお願い!一緒に街まで来て!」

 ノエルとアルファからも頼まれたセイルは、

「ああ~!!分かった分かった!し、仕方が無いな~!アタシはその指輪が心配で付いて行くだけだからな!」

 皆に頼まれて悪い気はしなかったセイルは、少々照れ気味に街まで付いていく事を了承した。

 そろそろ東側の空が、うっすらと明るくなってきていた。

「もうこんな時間か。じゃあ皆!アタシの周囲に集まれ!ヴァイラーナムの街の方向に向かうよ!森を抜けたらすぐ!街に着くさ!」

 セイルは皆に号令をかけると、ルキヤ達とノエル姉弟はセイルの左右に並んだ。その状態を確認すると、

「んじゃ、しゅっぱーーつ!!」

 セイルは、ズンズンと森の中に入って行く。左右に並んだルキヤ達とノエル達も、同様に森の中に足を踏み入れた。


 森の中は意外と、予想外に明るかった。

 外側から見るとかなりうっそうと木々が茂っていたので、これは中はかなり真っ暗なんじゃないか?とルキヤは思っていたのだが。

「意外と明るいな。何か特別な魔法とかかかってたりするのか?」

 その疑問が口から出て、そのままセイルへの質問になった。

「いや、特にはね。ただ、この森の中では方角を知るすべは無く、ただ心の赴く方向へ進むのみ!にはなってるね。要は、時間と空間がねじ曲がっているって言った方が早いね!外の道で3日かかる距離でも、森を抜けたらほぼ数時間しか過ぎてないとか、そんな感じ!」

 森の外の世界ではありえない事が、この森では起こる・・・そんな事をセイルはこともなげに話したが、外界で暮らす人間であるルキヤ達には、それがかなり面白い&凄い事だと言う認識しか無かった。

 こんなに面白い体験が出来て、何て幸せなんだろう~!と、ヨルだけは別の方向に向かって感謝しきりだった。

「今回はとりあえず、まず急いでる!色々あったし・・・何と言うかお礼も兼ねて。本当は、もう少し時間経過をゆっくりとしてから街に出る様に仕向けるんだけど、今回は本当小一時間って感じで着いてるかな!?」

 一体今は何時頃なんだか?と、どうにも森の中の世界はずっと薄明るい空間と同じ様な木々の景色が続いていて、ルキヤ達は今居る場所の把握さえできていなかったが、セイルは流石エルフと言った様子で森の中を進んで行った。

 どれ位の距離を進んだのか?時間的にはセイルが予告した通りほぼ小一時間が過ぎた頃、目の前の森が少しずつ開けて行き、ついには街道沿いに到着した。

「はいはい~!皆さん!!目的の街に着きました!!」

 ルキヤ達もノエル姉弟も全員街道に降り立つと、目の前の丘を少し下った所に大きな街が見えた。

 時間の経過的には、今見える日の高さから察するに、本当に小一時間程度で街までやって来ていた様だった。

「ああ!やっと着きました!」

 ノエルが感無量と言った表情でまた涙を流し始めると、

「ほら!また泣いてる。姉ちゃんは本当に泣き虫だな~。」

 と言いながら、アルファが姉にハンカチを渡していた。

「これが勇者の居るヴァイラーナムの街か~。結構大きいな~。」

 ルキヤは、これから勇者に会って話したい事や聞きたい事を頭の中で整理し始めた。ただ、一体何から話せば良いのやら?と考えると、頭から煙が立ちそうな感じではあったが。

 皆は、色んな思いを乗せながら、街の入り口に向かって歩き出した。


「って言うかね、ヨルさん。この街の名前っていつから変わったんだろうね?」

 ルキヤ達とノエル達、多分同じ認識をしていた者同士だったので、街の名前がまさか違う名前になっていた事には、かなり驚愕した。

 何でも、街の門番の話では、今から約103年前に勇者が魔王を倒してこの街で暮らし始めた時から、この街の名は勇者の名字を取って『シストラ』と呼称されるようになったそうだった。

「じゃあ、ヴァイラーナムって言うのは?」

 アキラが尋ねると、

「ああ~、確か勇者が帰還する前までの街の名前がそう・・・だったかな。ってもう104年も前の話だからな~エルフの長老にっでも聞かないと分からんなぁ~。」

 そう言って、遠い目をしていた。

 一体全体、本当に何が起きているのかサッパリ?な状態になっていた。

 この状態になったのは、先日時の神殿に行った時と、アルル村に帰って来た時と同じ様な状況だった。

 いつの間にかルキヤ達の周囲の時間が捻じ曲げられたり、死んだと思ってた神父が生きていたりと、時間と事象が変化しているのだ。この状態になる原因をルキヤ達は知る必要があるのだ。

 もしかすると、今この街に居るとされている勇者だが、本当は居ない可能性すらあった。

 勇者は魔王を倒した恩賞か何かで、100年以上生きられるようになっている筈なので、この街にまだ存在し続け居ている可能性の方が高かったが、

「まず、勇者の痕跡を見つけよう!それから当の本人を探すんだ!」

 ルキヤ達は、勇者の像などが建てられやすい広場の方に向かった。


 広場に着くと、案の定と言うべきか予想通りと言う方が正しいのか、とにかくルキヤが目論んだ通り、勇者の銅像がそこにはあった。

 じっくりと、ルキヤ達は勇者の像を観察していく。

 と、そう言えば、ノエル達は一体どんな用事でこの街に来たかったのか?をセイルが質問していた。すると、

「私達はミルミスク村から来たんですけど、先日両親が事故で亡くなって・・・。で、ミルミスク村で子供だけで住むのは大変って事で、親戚の居るこの街に来た。と言う訳なんです。なので、私達はこれからちょっと親戚がちゃんと暮らしているのか確かめに行ってきますね。ルキヤさん達は自由に行動されててください。」

 ノエルはそう説明すると、ペコリと頭を下げた。

「気にすんな!って。そう言う事情なら、親戚の人がちゃんと居たらココでお別れかな?」

 ルキヤは、ノエル達の目的が果たされることを祈った。

「そーだったんだな!ちょっとの間だったけど、楽しかったぜ!って事で、アルファ。アタシのその指輪、とりあえず変換してもらえると助かるんだけど。」

 セイルは、少々がめついオバサンの様な手つきで、アルファに指輪を返すように促した。アルファは、そうだ!と思い出すと、自分の左手の中指にハメられている指輪を引き抜こうとする。しかし、

「うーーーん!抜けない・・・」

 かなりの力を込めて引っ張っていたが、全く抜けなさそうだ。

「ちょっとアタシに貸してみ?」

 今度はセイルがアルファの指から指輪を引き抜こうとするが、これまた全く抜けそうではなかった。

「参ったな~!うう~ん・・・。」

 頭を抱えながらセイルが苦悩するのを見たヨルが、

「多分もしかするとまだ、この石はアルファに必要なモノなんじゃないかな?」

 と推測する。

「確かに・・・オレもよく、こんな感じの似た様なことがあったな。今必要ではないモノって結構見つからないのに、今こそ必要!って時にポロっと見つかるの。」

 ルキヤも自身の経験を、セイルに語った。

 それを聞いたセイルは、観念したようにアルファに、

「分かった・・・・仕方が無い。その指輪はアタシと言うエルフに出会った記念に差し上げることに・・・・する!!」

 かなり後ろ髪を引かれている様子ではあったが、最初にアルファの指に指輪をハメた時よりは、かなり諦めもついているセイルであった。

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