第11話 不自然な邂逅

 セイルが指輪の返却を諦めると、ノエルとアルファの姉弟は親戚の家があると言う方向に向かっていった。

今生こんじょうの別れはしないでおこうかな。オレ達何かまた会えそうな気がするし!」

 ルキヤは簡単な挨拶だけをして、ノエルに別れを告げた。

 アキラの方はと言うと、

「ぅええ~~ん!!ノエルちゃん!!また会おうね!!」

 何かちょっとウザい感じの別れをしていた。

 ヨルとセイルも、割とあっさり目な感じで、

「じゃ、ノエルさんアルファ、またね。」

「ゆ、指輪!大事にしろよな!失くすなよ!!」

 そう言いながら、手をめちゃくちゃ振っていた。

「皆さん!本当に、ほんとう~~に!!ありがとうございました!!」

「またね~!!兄ちゃん達と姉ちゃん!!」

 ノエルの方が今生の別れっぽかった。


「さて、皆!これからどーするよ?」

 ノエル達と別れて数分後、ルキヤが声をかける。

 とりあえずルキヤ達の方は、これから勇者に会うと言う重要な目的があったのだが、指輪の心配だけ?をして付いてきたセイルには、コレと言った大義名分も理由も無い事に気が付いた。

「だね~。ボクは、勇者の銅像の土台に記載されていた話を勇者から聞きたいかな。魔王についてなんだけど。」

 ヨルは、先程からじっくりと観察していた勇者の銅像についての見解を述べる。そこには魔王討伐に関する、ルキヤ達が今まで知る機会が無かった情報が書かれていた。

「そっか!アタシはもうこの街では用済みか~。森に帰ってもイイけど、な~~んか腑に落ちない様な、そんな感じがするんだよね~。」

 セイルは、ルキヤ達が本来の目的を達成しようと動き出している様子を見ながら、気の抜けた言葉を発した。何か、目の前でやるべき目的のために突き進んでいる3人を目の当たりにして、何も目的の無い自分が恥ずかしい?様な微妙な、よく分からないモヤっとした気持ちになっていた。

 セイルの言葉を聞いたルキヤは、

「だったらオレ達の戦力になってくれないか?さっきの、サイクロプスの陽動、あれは魔物と戦い慣れていないと出来ない行動だったと思うんだ。」

「確かに、ボクもアレを急にヤレと言われても、すぐには身体が動かなかったと思う。

「それ!アレだな~!カメの甲羅より歳の功?ってヤツだろ!!」

 な~んかアキラが至極無礼な事を言った様な気がしたが、

「そそ、そこまで言われちゃあ~、仕方が無い。このエルフのセイル・ジャン・フォレス様が、直々にお前らの旅に同行してやるさ!」

 どうも、複数人からの説得に弱いらしいセイルは、ルキヤ達の懇願に折れてこの先の旅の動向を決意した。

「本当、仕方が無いな~お前らは!」

 仕方が無いを連発しながらも、その顔はかなりニヤけていた。


「勇者に会うって一言で言ってもなぁ~。オレ達勇者が住んでる家とか全然知らないんだったわ。」

 広場の、勇者の銅像を取り囲む様に配置されているベンチのうちの一つに、半分寝そべっている様な体勢で座っていたルキヤは、ため息交じりに呟いた。

「確かに。ボク達言わばアポ無し?って言う状態だよね。何の連絡も無しに突然押し掛けるの、やっぱり迷惑だと思うんだよね・・・」

 ヨルも、別のベンチに座ったまま、頭を抱えてうずくまる。

「まぁ~、何とかなるんじゃね?オイラが街の人に聞き込みして、勇者の家を教えてもらいに行って来てもイイぜ!」

 ルキヤ達3人組の中で、最も行動力があって最も心臓にに毛がフサフサ生えていそうなアキラは、今正に街の中心部に駆けて行きそうな勢いだった。

「いや、まだ待て!アキラ。多分お前のやり方が一番最適解かも知れないけど、オレにはまだ心の準備が無いんだ・・・・。」

 ルキヤはほぼ横たわりながら、両手で顔を覆った。

 そう・・・アキラには、ルキヤとヨルには無い、知らない人にも気軽に声を掛けられると言う、圧倒的なスキルを持っているのだ!

「アタシも声掛け手伝おうか?あ、でもエルフだから皆ちょっと恐れて撤退してしまうか・・・むむむ。」

 セイルは、自分がエルフと言う状態を時々まるっと忘れている様な事を言うのが面白かったが、実際に行動に出た時の事を想像してみると、目の前で声かけをスルーされた時と同様かそれ以上のダメージを受ける事が明白だったので、ヨルは少し不安な気持ちになりそうだった。

「ああ~誰かオレ達に声をかけてくれないかな~!そうすれば、オレの繊細な心もダメージを受けないで済むんだが。」

 ルキヤが都合の良い事を言っていると、ふと近くに誰かが近づいて来る気配がした。ルキヤは咄嗟とっさに起き上がり、近づいてくる人物を注視した。

 その人物は少女で、見た感じはまだ8~10歳程。広場の中心に立つ勇者の像の前まで来ると、周囲のベンチでうなだれているルキヤ達に向き直ってこう言った。

「あなた達、勇者に何か御用ですか?」

「?!」

 ルキヤは、あまりにも自分の希望の通りに事が進んでいる事に驚き、そして恐怖しながら、その少女を直視した。

 少女は更に、

「どうやらその様ですね、でしたら、私に付いてきてください。勇者の家まで案内します。」

 そう言うと、今度は来た方向に向き直って歩き出した。

 ルキヤ達はベンチから起き上がり、急いで少女に付いて行った。


 少女は、街外れにあるこじんまりとした一軒家の前で立ち止まる。そして、その家の入り口のドアを開いた。

「勇者様がお待ちです、ルキヤ、アキラ、ヨル、セイル。」

 あれ?まだ誰も自分の名前を名乗ったりしていなかったよな?と4人が顔を見合わせていると、少女は家の中に入って行く。ルキヤ達もその後姿を追った。

 家の中に入ると、ちょっと薄暗い雰囲気の応接間に通された。

 装飾の少ない照明が天井から下がっていたが使われておらず、多分精霊魔法を使っていると思われる別の証明がこの部屋の中を照らしていた。

「待っていたぞ。」

 キョロキョロと部屋の中を見回していた4人に声をかけてきたのは、齢100歳近く?に見える老人の姿だった。

 老人は、エルフの森の深部にしか存在しないと言われている、浮遊する切り株を使ってこしらえたと思われる椅子に座ったまま、椅子の浮力で移動してルキヤ達の目の前まで来た。

「待っていた・・・って一体?」

 少女がルキヤ達の名を呼んだのも不思議だったが、広場に居たルキヤ達を見つけて更に、この家に連れて来た少女の行動もまた不気味だったのだが、どうやらこの老人が指示していたと思われた。

「あなたは、一体?」

 ヨルが老人に問いかけると、

「お祖父様、お客様にお茶をお持ちしました。」

 先程、ルキヤ達をこの家に招いた少女が、ワゴンの台車を押しながら現れた。

「皆様、どうぞお近くの椅子におかけください。」

 少女は、その場で立ちすくんでいたルキヤ達に着席を促した。

 すごすごとルキヤ達4人が近くの椅子・・・立派なソファーに腰掛けると、目の前のテーブルに少女がティーカップを置いた。そしてそこにかぐわしいお茶を注いでいく。お茶の香りは、ルキヤ達の住むアルル村特産の花、フレールフィリアの匂いがした。

「う~~ん、アルル村を思い出すねぇ~。」

 お茶の匂いを思いっきり吸い込んだアキラが、自然と呟いた。

「あら、よくご存じで。って、あなた方はアルル村のご出身でしたね。」

 少女はそう言うと、今度はクッキーがたくさん乗った皿をテーブルの中心近くに置いた。

「コチラのクッキーと一緒にお茶を飲むのお勧めです。」

 言い終わると、スっとワゴンを押して、部屋から出て行った。

 流石の身のこなしと言うか、本当に10歳位なのか?と目を疑う様な物腰と言動だった。

「え?マジ?あの子、アンタの孫か何か?それにしても年相応じゃないな?一体どんな芸当を仕込んだのやら。」

 セイルは、部屋から出て行った少女の背中を見つめながら、目の前の変な椅子に座る老人に問いかけた。

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