第9話 自分達に出来る事
バサバサバサバサーー!!
急に複数の鳥が飛び立つ音がすると、少し先に佇んでいたサイクロプスがルキヤ達を見つけて、こちらに向かって突進してきた。多分この数人の人の中に自身の姉の姿も見つけたからだろうと、皆は思っていた。
「来たぞ!サイクロプス!!まずアタシがヤツの気を引くから、ノエルは弟の名を呼びな!その間お前ら(ルキヤ達の事)はサイクロプスの背後に回って、腕輪を重ねて念じるんだ!『元の姿に戻れ!』ってな!」
セイルは、サイクロプスになっているノエルの弟を元の10歳の子供の姿に戻すため、走りながら他の皆に指示を出した。
「分かった!!」
ルキヤ達は、セイルとは反対方向に走り出し、サイクロプスの背後を目指す。
一方ノエルは、その間に立ちすくんだまま動けなくなっていた。
「わ、私はココで呼びかけるから!!」
どうしても足がすくんでしまっている様だったので、セイルは、
「仕方が無い・・・・でも、思いっきり叫びな!弟にその声が届く様に!」
セイルは、走っていた足を一旦止め、ノエルに向かってそう叫んだ。ノエルの、たとえ弟の変幻した姿だったとしても、目の前の一つ目の巨人の魔物への恐怖を払拭するのは非常に難しい事を、セイルは知っていたからだった。
セイルの言葉にノエルは頷くと、全身全霊の力を込めて、弟に呼びかけた。
「アルファーー!!戻って~!!一緒に、街に行こう~!!」
このノエルの声に驚いたのか、また近くの木々から鳥がバサバサーっと飛び立った。
「ヨシ!その意気だ!」
セイルは呟くと、剣を抜いてサイクロプスに向かっていった。
一方その頃、サイクロプスに気付かれる事無く背後に回り込むことに成功していたルキヤ達は、どの辺りからサイクロプスの肌に当たる様に腕輪をかざすか模索していた。
直前の作戦会議?では、とりあえずどの部分でも良いから、その腕輪の石から発せられている青白い光がサイクロプスの肌に当たる様にかざし、元に戻るように念じ続ける様に!との事だったのだが。
「しっかし、一番大変な事を押し付けるよな~あのエルフ。」
アキラが少々不満げに言う。そんなアキラにヨルが、
「いやいや、アキラ。これはボクにとってはご褒美だよ!何てったって、このサイクロプスを間近で!観察できるんだぞ!!」
と、ちょっとルキヤもアキラと同様にドン引きする位には、ヨルは興奮気味に語った。
「いや~~、オタク?って言う種類の人は末恐ろしいねぇ~。将来この人、どんな大人になってしまうんだろ?怖いわ~!」
ルキヤは本気でヨルの将来を心配した。
この言葉を聞いたヨルは、
「いや、いやいや~じょ、冗談だって!」
手をひらひらとさせつつ苦笑いしながら反論してみたが、ヨルを見つめるルキヤとアキラの目は、ドン引きしたまま固まっていた。
「いや、マジそれ無理があるから。」
アキラに指摘されてヨルは、
「まぁ、そうだね。バレちゃ仕方が無い。ボクはこのまま突き進んでいく事にするよ!」
開き直ったヨルに、もはや誰も反論する事は無かった。
そうこうしているうちに、神の
「今だ!行くぞ皆!!」
ルキヤが号令をかけながら、サイクロプスの右足のふくらはぎ辺りに腕輪を腕ごとかざした。アキラとヨルもそれに
すると、今まで単体でもぼんやりと青白い光を放っていた腕輪から、猛烈な青い光が放出され始めた。その光は、未だ闇夜に包まれていた周囲を青白い光で満たされるほどの明るさになって行く。
そして、ルキヤ達が元の姿に戻る様に必死で念じると、サイクロプスにもその青い光が波及して、全体的に光を発し始めた。
「ぅお!スゲー!!」
アキラが興奮して声を上げると、
「アンタ達!」
背後からセイルが声をかけて来た。
「まだ油断するなよ!念じるんだ皆で!お前の本当の姿に戻るんだ!ってね!」
ルキヤは、意識が逸れたアキラを注意しながら、サイクロプスに念じた。早く元の姿に戻れ!お前は本当はまだ10歳の子供なんだぞ!と。
サイクロプスの光は、少し離れた街道の方で呼びかけていたノエルの目にも入り、いよいよ元の姿に戻るであろう状況に、少し安堵していた。
ただ、まだ光を放っているだけで、その変幻は解けてはいない。今しばらく待つ必要があった。
「むむむ・・・」
ルキヤ達は、腕輪の光をまとったサイクロプスが、実は徐々に小さくなってきている事に気が付いた。
先程までは、見上げる程の巨体であったのに今は、ちょっと大きい人?位になっていた。そして、その姿が徐々に人間らしい状態になって行き、背丈がルキヤよりも小さくなったところで、腕輪からの青白い光の放出が止まった。
目の前にサイクロプスは、もう居ない。
そこに居るのは、心細そうな目でルキヤ達とセイルを見上げる10歳の少年だった。
「アルファ!良かった・・・無事で!」
林の方から少年の手を引いて現れたルキヤとその一行に、ノエルが言葉をかける。その目には、また涙がポロポロとこぼれていた。
「ね、姉ちゃん・・・は、泣き虫だなぁ~。」
しばらくぶりに人間の姿に戻った弟アルファは姉の方に駆け寄ると、膝をついている姉を抱きしめて、声を上げて泣き始めた。
今まで、しばらくの間大きな一つ目巨人の姿になって、動揺して恐怖して驚愕して、周囲に自分と同じ背丈の物は無く、ただただその場で何も出来ずにいた時間は、アルファにとっては永遠に等しい時間だったかも知れない。
姉が驚いてその場から去って行くのを目の当たりにした時、本当に心細くてでも、どーにも出来ない自分に苛立ちさえ覚えたかも知れなかった。
「ごめんね、ごめんねアルファ。お姉ちゃん、何にも出来なくて!」
「イイよ・・・仕方が無かったよ。僕も何も出来なかった。みんなが来てくれたから、僕は元に戻れたんだよ。」
アルファは涙を拭うと、まず腕輪をかざして念じていたルキヤ達に深々と頭を下げて、
「ルキヤさん、アキラさんヨルさん!僕を元に戻してくれて、ありがとうございました!」
と、お礼を言った。
「イイってイイって!オイラ達は当たり前の出来る事をしたまで!」
「そーだぞ。オレ達は、ただ自分達に出来ることをしただけなんだ。」
アキラとルキヤがアルファにそう言っている横では、ヨルは首を縦に何度も振りながら、「そうだぞ」アピールをしていた。
「本当、マジアタシも助かった!お前らが居なかったら、多分アタシ達エルフは、総出でサイクロプス討伐をしていたからね。」
人の姿に戻ったアルファ少年を見ながら、セイルは本当にルキヤ達に感謝していた。本当に、ルキヤ達が偶然?街道を歩いていなかったら、森を通ろうとしていなかったら、この少年は魔物として倒されていた可能性があったのだ。
「って事で、アルファ。アンタにはアタシの秘蔵のコレを渡しとく!これから森を抜けて街に行くんだろ?これがあれば、またサイクロプスになったりすることは無くなるからな。」
セイルは、腰のベルトに提げているカバンから、小さな青い石の付いた指輪を出すと、アルファの中指にはめていく。その指輪は、まるで今までもアルファの指にあった指輪の様に、完全にピッタリと収まった。
「凄い・・・キレイ!」
「そーだろそーだろ!アタシの森の長老のお祖父さんからもらった、由緒正しき時の神殿の洞窟から採掘された星の石の指輪だぞ!今から約300年前に作られた逸品だ!なので、失くすなよ!スゴ~~く!貴重なんだからな!」
セイルは、やたらと自慢げにかつ少々寂しげな雰囲気で、アルファに渡した指輪の出所を語るのを見たヨルが、
「って言うか、そんな貴重なモノ渡しちゃってイイの?」
と尋ねると、
「星の石が無いとこのセイラムナムの森は通れない、だったら仕方が無い。後で返してもらうからな!大丈夫だ!」
セイルは、そう言って強がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます