第三話
ある日、村の市場に行った世羅とルドは、地元の子どもたちに絡まれてしまいます。
ルドは以前から「父親のいない子」としてからかわれることが多かったのです。
村の子どもを率いるのは、宿屋の息子トリンド。
トリンドは世羅たちと同い年ですが、既に大人のように身体が大きく、とても威圧的でした。
そして、村の女子に人気が高いルドを目の敵にしていました。
トリンドのルドに対する攻撃は執拗で、ありとあらゆる悪口に加え、石を投げたり転ばせたりもしてきます。
あまりの酷いいじめに、世羅はトリンドにくってかかりますが、トリンドは世羅を
ルドは黙って耐え、立ち上がってまた世羅の前に立ちました。
なんで言い返さないの!?
ルドは頭も良いし、狩りもうまくて強いのに!
いじめる方にもいじめられる方にもイラッときた世羅は、大声で叫びました。
「あんたたちやめなさいよ! ルドは王様の子どもなんだからね!」
トリンドたちは笑い飛ばしましたが、それを聞いていた村の大人は笑い飛ばしませんでした。
王母様がどこかで生まれているかもしれない王の子を探しているのは、とても有名な話だったからです。
ルドは世羅の手を引っ張り、半ば走るように山に帰りました。
その顔は真剣で、ルドの秘密を勝手にバラした世羅は、謝りたくても気まずくて声をかけられませんでした。
山小屋に帰ったルドは、おじいさんに「バレた」とだけ言うと、おじいさんは一瞬だけ世羅を見てから、「では、すぐに出ましょう」とルドに言いました。
世羅は話についていけません。
そんな世羅を横目に、おじいさんとルドは荷造りを始めます。
元々まとめてあった荷物もあり、素早く旅装になる二人。
「世羅」
「ル、ルド、ごめ……ごめ」
世羅は何かとても良くないことが起こる怖さから、きちんと言葉が出ません。
手の震えも止まりません。
「僕たちはもうここにはいられない。行くね。この家は世羅が住んでいいから」
「ごめ、ごめん」
「世羅、遅かれ早かれ、居場所がバレるとは思っていたから。……元気で」
置いていかないで。
一人にしないで。
あたしも連れて行って。
ルドはじっと世羅を見て、言葉を待ってくれました。
「行きましょう」
おじいさんの言葉で、ルドは世羅から目を離し、山小屋を出て行きました。
待って……待って!
世羅は心で叫びましたが、身体が動きません。
ズガァッ!
ドォンッ!
心臓が止まるかと思う程、外で大きな音が聞こえました。
何の音か、世羅には全く分かりません。
それでも、怖くても行かなくてはならないと、世羅は強く思いました。
足、動け……動け……っ!
震える足で一歩一歩扉に向かい、世羅は扉を開けました。
ひっ、と、息を吸った世羅は固まりました。
ぐったりしているルドを荷物のように抱えた黒マントの男。
その足元には、血まみれのおじいさんが倒れていたのです。
男は世羅を見て、二人が「置いて行った」ことを理解したのでしょう。
世羅に興味を失って、ルドを抱えたまま魔法で消えました。
消えたルド。
倒れているおじいさん。
血。
混乱の一歩手前で、世羅は息を吐きました。
状況に頭がついていかなかったのが、かえって良かったのかもしれません。
世羅は助けを呼びに、村に向かって走り出しました。
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