第二話
しばらくすると、世羅は二人の生活を手伝うようになりました。
ところが、世羅に出来ることがあまりにも無かったのです。
森の獣を殺すことも皮を
畑の土をおこすことだって出来ません。
掃除ひとつ洗濯ひとつ、最初から最後まで自分の手でやらなければならず、うまくいきません。
野菜を切ることすら出来ません。
だって、やったことがないのですから。
こんなごはんじゃ嫌だ。
お肉食べたい。
お菓子が食べたい。
お風呂に毎日入りたい。
かわいい服が着たい。
テレビもゲームも無くてつまらない。
面白い話をしてよ。
川の水なんて飲めない。
炭酸が飲みたい。
ポテチ食べたい。
世羅の態度は、ひどくわがままに映りました。
日本では普通のことでも、助けてくれた恩人に、生活の面倒だけではなく、何も出来ないのに
ある日、世羅はおじいさんに家から出されました。
生活に余裕があるわけではない山暮らしで、世羅の食べる分が増え、面倒を見る時間を取られた分、収入が減っていたからです。
このままだと二人の暮らしが
慌てたのは捨てられた世羅です。
なんせ、自分はわがままだなんて思ったことがなかったからです。
むしろ、世羅は自分を我慢強い方だと思っていました。
弟ばかりを可愛がる両親の元、我慢ばかりしていると。
更に言えば、それでも我慢出来る自分を「イイ子」だとも思っていました。
それがどうでしょう。
ここでの世羅は、何もしない、出来ないのに、贅沢をしたがるわがままな子どもでしかありませんでした。
世羅はその事に気が付き、とても恥ずかしくなりました。
恥ずかしくて恥ずかしくて涙が出ました。
そして、泣きながら山小屋の扉を叩いたのです。
ごめんなさい、と。
おじいさんとルドは扉を開けて世羅を入れてくれました。
おじいさんは本気で世羅を捨てましたが、ルドは後で迎えに行こうと思っていました。
ルドは、世羅はいじけて自分から山小屋の扉を叩かないと思っていましたが、世羅は自分のしていたことをきちんと考え、自分から謝りました。
おじいさんもルドも、世羅を見直しました。
それから、世羅は少しずつ出来ることを増やしていきました。
不意に出てしまう「わがまま」は、ルドがきちんと「無理」と断りました。
ルドは大人しく優しい男の子ですが、とてもしっかりした男の子でした。
同い年の世羅が言いたいことを言い、知らずにきつい言い方になる時も、やんわりと直させたり、きちんと抵抗したりして、二人はよく話をする仲になっていきました。
言いたいことを言っても良い。
良い時は良い。
ダメなものはダメ。
ダメな時は何故ダメかをルドもダーレスもきちんと世羅に伝えました。
そうやって教えてもらえることは、とてもありがたいことなのだと、世羅の中に感謝する心が生まれていったのです。
そもそも、二人は世羅の面倒を見る義理はありません。
世羅は日に日に二人への感謝が募りました。
掃除や洗濯、畑を耕したり収穫したり、簡単なスープくらいは一人で作れるようになった世羅が、この世界で三回目の満月を見ていた時、ルドが不思議な泉の話を教えてくれました。
この山の
ルドは十三歳になったら「願い」を叶えに泉に行くと言います。
何故十三歳か。
世羅が聞くと、魔法の元になる魔力が暴走すると命に関わるので、この国の子どもは生まれた時に魔力の一部を封印され、それが自然に解けるのが十三歳の誕生日であること、森は大型の獣や人ではない者が出るので、十三歳になる前の子どもは一人で森に入ってはならない決まりだと、ルドが説明しました。
世羅は魔法を使えないし、戦うことも出来ないから、一人で森に入ってはダメだよ?
十三歳になれば、ちゃんと魔法が使えるようになる。僕が守るから、世羅も一緒に行って、元の世界に帰してもらえばいい。
ルドはそう誘いましたが、世羅の気は乗りません。
自分のいないあの三人は仲良くやっているだろう。
あたしはいらないんだから。
そう、世羅は思ったのです。
世羅は、弟が羨ましくて憎い。その気持ちをルドに告げました。
世羅の胸の奥の醜い思いをルドは否定もせずに受け止めました。
そして、ルドもとても大きな秘密を世羅に打ち明けたのです。
お父さんはこの国の王様であること。
お母さんはお父さんに会いに行くと言って……行方が分からないこと。
お母さんを探したい。
お父さんに……会いたい。
生まれた世界も育った場所も違う二人ですが、抱える気持ちは同じでした。
寂しい。
世羅とルドは肩を寄せ合って、静かに泣きました。
繋いだ手がとても温かくて、更に涙が出ました。
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