煙草と遺骨

要想健琉夫

煙草と遺骨

 僕にはが居た、煙草が物凄く好きな父が居た。

もっとも、僕自身、父さんが煙草を吸っていた姿は一度しか見ていなかったのだけどね。

 そんな、父の墓参りを終えた翌日僕はふと学校への登校中、父さんのの内容について、思い出した。



 その日も昨日の様に、凍えた日だった、登校する為のバスに乗ってから、駅の改札前へと、やって来ていた。

僕はさっきバスでもそうやった様に、登下校用の鞄から交通系ICのカードを取り出して、読み取る部分に、カードを翳した。

改札は、直ぐ様、僕の目の前で開いた、僕は鞄を右手に下げながら、改札を潜り抜け、1番線と書かれた看板の方向へと、向かった。

 相も変わらず、1番線に繋がる廊下は薄暗く、陰鬱としていて、行く人々は虚ろな眼をしていた、僕は暫く、廊下を進み、階段を上った。

 すると、僕はプラットホームに出た様で、曇天から僅かな太陽の光が僕に差し込んできたのを感じた、僕はふぅと安堵にも憂鬱にも思える溜息を吐いた。

 僕が息を吐いてみると、息はたちまち白く染まり、霧状の気霜きじもへと姿を変えた。

 僕はそれを見て、ふと、父さんの事を思い出した。

 僕は何だかノストラジックを感じて、少しだけ微笑んだ。

 それから、僕は、プラットホームに置かれた自販機に駆け寄って、帰りに寄ろうと思っていたハンバーガー屋へのお金を少し使って、缶コーヒーを買った。

あまりにも、寒いと思ったから、暖まりたくて―――僕は、熱すぎると思うほどの温まったコーヒーを手に持ちながら、ベンチに腰を下ろした。

 列車が来るまでの間、昨日ぶりに追憶に浸ってやろう―――そう思いながらね。



 父さんは、車によるで亡くなった、どうやら運転手側の不注意の所為せいだった。

僕はそんな加害者の彼らの事を未だに嫌っている、憎んでいる―――父さんは良い人であり良い父親だった。

僕ら家族に一度も弱さを見せなかった、見せない様にしていた。

父さんは、自分が家族の大黒柱と言う事を誰よりも解っていた―――だからこそ、父さんが亡くなった時は、貯水タンクが壊れた様に涙が溢れて堪らなかった。



 高校一年の夏休みが始まったぐらいの頃、僕と母さんは、父さんの訃報を受け取った。

 ある時の初夏、その時も何にも変わらない日々だった、学校から列車とバスを使って、家に帰ってきて、ただいまと何時もの様に言って、母さんと明日から夏休みだと言う現実について、語り合っていた。

そんな時に、父さんの訃報が飛んできた。

母さんは、涙目で床に倒れ込んだ、僕はそんな母さんを虚ろな眼で見つめていた。

 僕の心の中に、深い傷が出来た、そんな気がした。



 夏休みの真っ最中、七月の中旬、僕は母さんと母さんの車で、葬儀場へと向かっていた。

 空は見事な快晴で目が離せなかった、そうでもしないと父さんが亡くなったと言う現実を思い出してしまうのだから、僕は車窓に頬杖付いて、無常にも流れ行く快晴の空を見た。

 僕はそこで、父さんとの記憶がいきなり蘇ってきた。

新幹線に一緒に乗ったこと、神社巡りを共にした事、そして、父さんが煙草を吸っていた姿の事を、そんな記憶がまるで父さんの走馬灯を肩代わりしている様に流れてきた。



 十二時から車をとばして、暫くすると、フロントガラスからその例の葬儀場が姿を覗かせていた。

僕はそれを横目にしながらも、まだ空を見ることに必死だった。

 僕が車窓から空を見ることに努めている内に、車は何回か右折を重ね、何時の間にか、僕らは駐車場に着いていた。

僕は気づいたように、快晴から目を逸らして、車のドアを開けて、母さんにこう言った。

「行こうか」

 母さんは、静かに頷いて、僕は母さんの背を付いて行った。



 葬儀場に着いて、母さんと僕は親戚や父さんの友達の人達に挨拶を済ませて、席についた。

 葬儀は、思っていたよりも、短いものだった――僕は泣けなかった。

悲しい事は悲しかったのだが、僕の目頭が熱くなる事は、無かった。

僕は自分が泣かなかった事に、嫌煙していた、僕はそんなにも、血も涙もない人間だったのだろうか、僕は自分を責め立ててもっと苦しくなった。

 そんな中、僕は葬儀場を歩き回っていた時に、に誰かの影を見た。

僕は硝子越しにその影を目撃した、そこに居たのは、母さんだった。

 僕はその母さんの姿を見て、何か胸の中が鎖で締め付けられた様な束縛感を感じた。

 母さんは、父さんが何時も吸っていた18の煙草の箱を握りしめていた。

左手には、父さんが使っていたライターを持っていた、僕は胸に手をやりながら、母さん辞めてくれ、そう思っていた。

 しかし、母さんは、不慣れな手付きで、煙草に火をつけた、煙草の先端から煙が出ていた。

そうして、母さんは続けて、煙草を咥えて、煙草を飲んだ。

母さんは、咳き込んだ、だけど母さんは、続けて煙草を吸い続けた。

 僕はそんな、母さんの見たことも無かった、悲しい顔に、目頭を熱くした。

だけど、その時、ふと、途方もない考えを僕は浮かべた。

「煙草は骨が腐るらしい……」

「それなら、父さんの遺骨も煙草によって腐っているのかな?」

 僕は、そんな事を思い出して、無邪気に笑い出した、泣きながらね。

 そうして、父さんの遺骨を最後に一目見よう、そんな事をガラス越しに居る、母さんに投げかけた。



 結局、父さんの遺骨は見れやしなかった。

だけど、僕は何故だか、誇らしい気分であった、最後まで僕達に笑いの種を一つ残らず撒いてくれた、父さんが。



 あれから、数分が経った頃、僕は缶コーヒーを飲み干して、プラットホームに置かれた、ゴミ箱に缶を投げ込んだ。

そうして、口臭ケアのタブレットに手をやると、列車が時間通りに、駅に着いた。

 僕は寒がりながら、気霜を吐いてから、鞄を背負って、列車に乗り込んだ。

 それから、何時もの様に、心の中で呟いた。

「いってきます」



 

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煙草と遺骨 要想健琉夫 @YOUSOU_KERUO

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