貴方の骨

ゆずリンゴ

貴方の骨

万物はいずれ死を迎える。それは決して避けることの出来ない定め。


そして私の愛する旦那様もまた、亡くなった。

決して突然のことでは無い。

78年という長い年月の末に、天寿を全うしたのだ。


私を置いて先にいなくなってしまったことは辛いけれど、それも覚悟の上で今の今まで私は彼と人生を共にしてきたつもりだ。


―――旦那様との出会いはお見合い。

当時は、自由な恋愛なんてなくて、お家の事情で決められた人との婚約が当たり前で。

そんな時代で出会って、都合よく彼に一目惚れ……なんてことは無かった。


だって彼は私の6つも上の男性で、少し怖い顔をしていたから。

今になれば当たり前になっていたけれど、昔は笑うことだってなかった。


いつも難しい顔をしていて、外に景色を見に行くときですらその顔が揺れ動くことはなかった彼。だからこそ、私は一緒にいる時間が楽しいのかが心配だった。


けれど、それは杞憂。

戦時の空襲が街を襲った日、彼は遠くの街へ出ていた。幸い私は無事で、それでも怖くて震えていて。

その時に、帰ってきた彼の顔は印象的で今も覚えている。私の姿を見るなり急いで駆け寄ってきて、恐怖なのか、心配なのか、その顔は涙で歪んでいて、私の握られるその手すら震えていた。それこそ、どっちの方が怖い思いをしたのか分からなくなるほどに。

でもだからこそ、この人に『愛されてる』その事が分かった。


当時の私は彼を「笑わない人」、「冷たい人」と思っていたけれど、決してそんなことはなかったの。


むしろ、感情を出さなかったそうあった》のは私に理由があったくらいで。

人に冷たい顔、だなんて思っていた癖に、自分自身だって常に曇った顔をしていて、彼を分かろうともしていなかったのだから。


……だから気づけなかった。彼はむしろ、私を愛していたことに。愛していたからこそ、優しいからこそ、『好きでも無い自分と結婚させられた私』を前にして決して笑うことが出来なかった。


もっと早くに、愛せていたら……そして互いを愛し合うようになったことに気づけていたら。


そうしたら……もっとたくさん「大好き」と口に出来たのに。

まだまだ、貴方との思い出が、欲しかった。


それに貴方が先に居なくなってしまったら、私の言葉に貴方の優しい言葉が、帰ってこないじゃないですか。


ねぇ私今、泣いているんです。


こんな時に貴方が目の前にいればゴツゴツと固く骨ばった立派な手で、優しく手を握ってくれるでしょうに。


貴方と触れ合う時間が、今だってこんなにも愛しい。早く天の上でもう一度貴方と触れ合いたい。


そう思ってしまうけれど、それでも、生きていけるのは貴方の残した物があるから。


薬指にはめた指輪についた貴方の遺骨。

少し、重いかもしれないけど……いえ、実際に旦那様へとこの気持ちは重い。


私これを付けていると、あの時みたいに手を握られているように思える。だから、私もう少し頑張って生きようと思うのです。

だから……ねぇ旦那様、私が天寿をまっとうしてからもう一度、逢いましょう。


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

貴方の骨 ゆずリンゴ @katuhimemisawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ