4:雑誌撮影とマネージャー
関係者の人間が慌ただしく行き交うとあるスタジオ内。
今日の俺たちは3人で雑誌の撮影があるため、その前に朝からメイクさんにメイクをして貰っていた。
メイクは楽屋入りしたメンバーから順にしてもらうことになっている。
今日は俺がメンバーの中で一番先にメイクに入ったが、その後に来たMASAが、メイクの途中で突然顔を動かすやらメイク道具で遊びだすやらで終始メイクさんを困らせており、
MASAの隣で最後にメイク入りしたJUNも、連日続くドラマ撮影にライブツアーが重なっていることもあって、メイクされながら爆睡するという器用な技を成していた。
「わぁっ!MASAくん、顔動かさないで~!」
「ええー、俺じっとしてるのヤなんだよね~」
「JUNくん起きて~。ほっぺたファンデ塗れないよ~」
「……」
2人と比べて俺はメイクさんからしたら扱いやすい方だと思うが、個性っていうのはこういうプライベートなところから既に出るもんなんだろうな。
俺はメイクが終わったあと着替えも済ませて、2人が整うまでしばらく待ちとなった。
…暇だからスマホでゲームでもしてよ。
しかし、俺がそう思ってスマホを手に取ったその時…
「ねぇそこのメイクさん、良かったら君の人生も俺の手にメイクされてみない?」
「……」
不意にそんな意味のわからない口説き文句が近くから聞こえて、俺は怪訝に思いながら顔を上げた。
すると、スタジオ内で綺麗なメイクさんにそう言って口説いていたのは、なんと俺たちGerAdEのマネージャーである
「っ、ちょっと何してんのモトちゃんっ」
「わぁっ、何するんだよHARU!」
俺はそんなモトちゃんを慌ててそのメイクさんから引き剥がすと、「すみません」とメイクさんに謝る。
そんな俺に相変わらず「ごめんね」ととりあえずの謝罪をするモトちゃん。
…絶対「悪い」なんて思ってない。
俺たちのマネージャーであるモトちゃんは、この業界5年目の仕事が出来る敏腕マネージャーだが、群を抜くほどの女好きなのが玉に瑕だ。
こうやって雑誌の取材やらテレビ収録などで現場に行った際には、綺麗なスタッフさんや女性アイドル、女優さんまでもを口説きに追いかけ回すおかしなクセがある。
そしてちょっと目を離した隙にさっきのように誰彼構わず口説こうとするから、実は既にこの業界では噂になっているらしい。
…GerAdEのマネージャーは「異常なほどの女好きだから気を付けた方がいい」と。
本来だったらモトちゃんも女性アイドルや女優さん等のマネージャーになりたかったそうだが、下心が丸見えなのかなかなかそれが叶わず、希望していた事務所は面接で全落ちしたらしい。
その後俺たちが所属する事務所にようやく合格して、一応女優さんや女性アイドルも所属する事務所だがこの5年間ずっと男の世話ばかりを焼いてきたそうだ。
…裏方の人間まで個性的なんてマジでそういうのいらないんだけどな。
「…あーあ。今のメイクさんすっげぇ美人だったのに」
「そういうの
「んー、まぁいいや。ところで、後で昼飯買いにコンビニ行くけど何がいい?まだ早いけど今のうちに聞いとく」
「…」
俺はその突然の問いに少し考えると、やがて「牛丼」と呟く。
するとそこへ撮影準備万端のMASAが会話に割り込んできて、言った。
「俺ポテトサラダ!あ、プリンもつけて!」
「あいあい」
そしてその会話を聞いていたらしいJUNが、衣装に着替えながら話に参加する。
「モトちゃん、俺サラダとヨーグルトね」
「…えーっと、サラダとヨーグルトに、ポテサラ……くそ、女のコのスリーサイズならすぐ覚えられんだけどな」
「モトちゃん、俺のスリーサイズ教えてあげよっか!」
「うるせっ。野郎のスリーサイズなんぞ聞きたくないわ!」
コンビニで買うものを必死にメモするモトちゃんの隣でMASAが面白がってそう言うけれど、見事にモトちゃんに一蹴されてしまった。
「あ、やべぇ私物のピアス壊れた。どーしよう」
「ああ、これくらいだったら接着剤でくっつければなんとかなるよー」
そして撮影までもう少しかという時に、後ろでマイペースなJUNがそう言って衣装さんに助けを求める。
しかし接着剤が固まるまで待つわけにもいかず、JUNは男性スタッフから急遽ピアスを借りて撮影に挑むことになった。
「じゃあ今回は恋愛に関しての取材と、このハートの風船を手に持って撮影ね~。まずは3人くっついて何枚か撮ってみようか」
…いや男3人がくっつくって。需要あんのか?これ。
そう思いながら、他2人も同じことを思っているのか、あまり笑えていない笑顔で男性のカメラマンに言われるままパシャパシャと撮られる俺たち。
するとその奥で、モトちゃんがまた別の女性に声をかけている姿が不意に視界に入った。
……また何をやってるんだよあの男は。あれ絶対口説いてんだろ。
そう思ったら、何だか可笑しくなってきて。
「ねー、あれモトちゃん絶対またスタッフさんのこと口説いてるでしょ」
すると同じ瞬間を見ていたらしいJUNが撮影中にそう言った直後、俺たちは堪えきれなくて3人くっついたまま笑っていたのだった。
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