5:夕飯はエビフライ
「うーん、0点はないのにね」
「ね、怒られる意味が全然わかんないよね」
「いや、そういう問題じゃないんだよっ」
中間テストの成績のことで、お母さんが担任に呼び出されてしまった日の夜。
私は自宅で食卓を囲みながら、お母さんやかずくんと成績のことを話していた。
ちなみに今日はかずくんが夕飯に呼ばれていて、私の右隣にはかずくん、向かいの椅子にお母さんが座っている。
お父さんは仕事中だからまだ帰っていないが、成績のことでお母さんが学校に呼び出されたことをお父さんに話したら「あ、そう」とだけ言われた。
お母さんは今日学校で担任の先生に色々言われていたらしいが、お母さんも私と同じで話の意味がよくわからなかったらしく、「0点はないのに」と私を庇ってくれている。
「そもそもちゃんと授業にはサボらずに出てるんでしょ?だったらそれでいいじゃない。宿題も忘れずにちゃんとやっていればそれなりの単位はとれるわよ」
「っ、お母さんもそう思うよね!?私もそう思う!」
さっきから私の思いを代弁してくれているかのようなお母さんの言葉に、私は「さすがお母さん!」と向かいで感激する。
だけどそんな私たち親子2人の会話に、隣で半ば呆れている様子のかずくん。
そして「このままじゃ困るのはみーちゃんなんだよ」と言った。
「…なんで?」
「なんでって…あのな、テストっていうのは、それまで自分が授業で習ってきたことをどれだけ把握できているかっていう、言わば調査なんだよ」
「…?」
「その調査の結果が3点とか8点って、授業に全部出てたって意味ねぇじゃん」
そう言うと、夕飯のエビフライを口に含む。
…そんなこと言ったって。授業をまじめに聴いていても意味わかんないんだもん。
あーあ…先生が
MASAくんが担任の先生だったらって考えるとヤバイ。絶対かわいい!
あたしはそう思ったあと、不意に隣のかずくんに疑問を投げかけてみた。
「…じゃあ、かずくんはテストの結果どうだったの?」
「…」
そう言うと、右手に箸を持ったままかずくんを見つめる。
するとかずくんは私を見ずに、呟くようにその結果を口にした。
「………(5教科の中で一番良かった)日本史が75点」
「物理は?」
「…50点」
「じゃあ、英語」
「えっと……41点」
「数学は?」
「56点」
「国語」
「…66点」
かずくんはそう言うと、「ごちそうさまでした」と目の前の夕飯を完食する。
その結果を聞いて、思わず向かいに座るお母さんに目を遣る私。
そしてそのまま口を開くと、言った。
「…前々から思ってたけど、かずくんっていつも偉そうなこと言ってるわりには全部中途半端だよね。良くもなく、悪くもないって感じでさ」
「う、うるさいな。っつか、みーちゃんに言われたくない」
私がそう言うと、その言葉を聞いていたお母さんも頷いて言う。
「そうよね。小学校の頃なんて、運動会の50m走の結果いつも5位中3位だったし」
「あ、かずくんそれ未だに3位だよ。やばくない!?」
「え、そうなの!?」
「それに、一緒にカラオケ行ってもGerAdEの曲歌えないし」
「…特別女の子にモテる方でもないし?」
「っていうか彼女いたことないし」
私はお母さんとそう言いながら、かずくんの方を見てくすくす笑う。
すると、そうやって好き放題言い出す私たちに、隣にいるかずくんがあたしに目を遣って、言った。
「あ、お前そういうこと言っていいの?この前GerAdEのライブチケットとってやったの誰だっけ」
「っ、!!」
「仕方ねーから他の友達誘って行っ…」
しかしかずくんがそう言った瞬間、その事実を一時的に忘れていたあたしは、思わずその言葉に慌てて言った。
「だ、だめだめ!そんなのヤダ!GerAdEのライブには私が行くの!!」
「え、みーちゃんにとって俺って中途半端なんでしょ?だったら、」
「っ、そんなことない!かずくんは私にとって一番だよ!私はかずくんが世の中で一番イケメンだと思ってるから!」
「…GerAdEのMASAよりも?」
「!」
私の言葉にかずくんがそう言った瞬間、一瞬にしてその場が静まり返る。
…MASAくんよりも…?
その言葉に、ぽわん、と私の頭の中に再び浮かぶ可愛いMASAくんの顔。
…いや!それはさすがに頷けない!
「それはない!ってかかずくん図々しいよ!」
「いや悪かったな。冗談だよ」
「ほんと!?じゃあ私もライブ行っていいんだね!?」
「もちろん。だって俺がみーちゃんと行きたくて誘ったんだし」
「っ、ぃやったー!」
私はそう言うと、思わず椅子から立ち上がって両腕を上げる。
その隣で、少し切ない顔をするかずくんに私は気づかない。
『俺がみーちゃんと行きたくて…』
…その言葉はみーちゃんには届かなかったか…。
「ねねっ、ライブ何着て行こうかなっ?MASAくん手振ってくれるかなっ?」
「さぁね~」
「お母さん!私、新しいワンピース欲しい!」
「うーん、お父さんが良いって言ってくれたらね~」
「ええーっ」
すると、私がそう言いながらやがて夕飯を完食し終えると、その時私のスマホにGerAdEの公式アプリから通知が届いた。
「…握手会…決定…?」
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