3:本番後のインタビュー
「ありがとうございました!」
煌びやかなステージで大歓声に包まれた直後、汗だくになってステージ裏にはける。
そこにいたたくさんのスタッフたちが「お疲れー」と俺たち3人を出迎えてくれた。
持っていたマイクを元の場所に置き、女性スタッフからフェイスタオルを受け取る。
毎回思うが、ライブステージから降りると一気に現実世界に引き戻される。
ついさっきまで大歓声に包まれていたのがまるで夢だったかのようだ。
楽屋に戻る途中。
俺の前に廊下を歩いているメインボーカルのJUNが、メイキング用のカメラに向かって歩きながらインタビューを受けている。
彼の声は明らかに疲れているが、そのわりには話したいことがたくさんあるのか、話が長い。
後ろに歩いている俺ももちろんカメラに映っているだろうが、こういう時どんな顔をして歩いたらいいのかよくわからない。
…いっそ追い越して先に楽屋に戻ろうか。
しかしそう思った時だった。
「おっつかれー!」
「!?」
突如、その聞き慣れた声とともに見慣れた人物が俺に突進してきた。
…MASAだ。
MASAはライブ直後にも関わらず、まだ体力が残っているのかまだまだ元気いっぱいの様子だ。
いきなり何をする、と思ったが、俺たちがいるこの場所はちょうどカメラに収まる場所だから、MASAもカメラに映りたいのかもしれない。
そしてそう考える俺の隣で、俺の肩に腕を回しながらJUNの邪魔にならない程度でカメラに向かってピースをするMASA。
目の前のJUNは未だに今回のライブのことを長々と話している。
…お前そんな長々と喋ってたら使われづらいだろって。
「…で、そん時にやっぱりこうした方がみんな喜んでくれるのかなって…」
だけどカメラに向かって自分の思いを伝えるJUNは、悔しいけどいつのまにか立派な「アイドル」になっていた。
そしてやっと一通り話し終えたのか、「だから、みんなありがとう!」とカメラに向かって深々と頭を下げる。
するとインタビューが終わったタイミングで、MASAが今度は俺からJUNのところへ行き、「次俺いい?」とカメラを抱えるスタッフにそう声をかける。
…そういうふうに遠慮なくカメラに近づけるMASAが羨ましい。
「あ、お願いできますか」
「おっけ。今日のライブ、すっごい楽しかった!みんな愛してる!以上!!」
そう言って、「じゃーね!」とまた遠慮なくカメラから離れて行くMASA。
…コイツは自分からカメラに向かって行ったくせに、大した話もしない上にJUNとは正反対で話が短すぎる。
そんな相変わらずのMASAに俺が軽い衝撃を受けている間、カメラを抱えたスタッフさんも半ば困惑気味で俺に目を遣る。
え、MASAさんは今ので終わりですか?と。
そしてそのままの流れで今度は俺に向かってくるそのカメラ。
…マジで?
JUNが無駄に長話しした後、今度はMASAが短い言葉を並べただけっていうこの真逆すぎるインタビューの次、俺はどう話したらいいんだ?
「…」
「HARUさんも、今回のライブについて意気込みと感想などお願いします」
「…」
スタッフにそう言われて、向けられるカメラとライト。
JUNとMASAが一足先に楽屋に戻って行った会場の廊下で、俺は躊躇いがちに話し出す。
なるべく2人と内容が被らないように。
「あー…JUNも言ってましたけど、今回のライブでは特に…」
…なんて、わかっているくせに、結局JUNが言ったことと同じことをカメラに向かって話してしまう俺。
違う。使われないのはきっと俺の方だわ、なんて。
そしてまだ話し始めたばかりなのに、「その辺で大丈夫です。ありがとうございます」とあっけなく離れて行くスタッフたち。
…俺のインタビューはついでか。まぁいいんだけどね、別に。
俺はスタッフを見送ったあと、独りになった廊下を再び歩き出す。
わかってはいる。
俺はあの2人とは違って、特に個性も無ければ特別に歌やダンスが得意なわけじゃない。
急にカメラを振られてもJUNみたいに気の利いたことは言えないし、MASAみたいにニコリと微笑むことすら出来ない。
まさかデビューした直後にこんなに売れるなんて思ってもみなかったから、仕事に慣れる前に2人が先に個性を確立させてしまって、俺一人置いてけぼりになってしまった。
「HARUくんて無愛想だよね」とか、それ故「ファンを大事にしていない」との声をよくSNS等の書き込みで見かける。
別に、そうしたくて無愛想を貫いているわけじゃない。
アイドルとはいえその前に俺だって人間だし、
「ライブをする」と言われれば人並みに緊張するし、
「生放送がある」と言われればミスをしないかと表情も硬くなるし、
「ファンとの交流イベントがある」と言われれば、人見知りが発動して無表情になってしまうのだ。
…親に行けって言われたから仕方なくオーディションを受けたけど、あん時サボッときゃ良かったな。
そう思いながらようやく楽屋に戻ると、そこには既に衣装を脱ぎ散らかして素っ裸の2人が楽屋内のソファーでうなだれていた。
ついさっきまでステージ上でカッコつけていた2人と同一人物とは思えない姿である。
MASAなんてさっきカメラの前ではあれだけ元気だったのに。
「…服着ろよお前ら」
「無理。カッコイイはもう電池切れ」
「…」
…だけどそう言うのも無理はない。
今日はこれから同じ公演がまだあと1公演待ち構えているのだから。
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