2:みーちゃんはドルヲタ



みーちゃんには、最近物凄く溺愛しているアイドルがいる。


「でね、この前MASAくんが歌番組で…」

「うん、」

「カメラ目線で指さししてくれるのがすっごいカワイイの!」

「…ふーん」


それは、2年ほど前にデビューしたばかりの国民的アイドル「GerAdEジェラード」という3人組の男性アイドルだ。

彼らは人気オーディション番組内で寄せ集められたグループで、番組内の宣伝のおかげかデビュー1曲目からWミリオン突破という驚異的な結果を叩き出した誰が見ても凄い奴ら。

年齢は21~22歳ほどの若手なのに、毎回テレビでは大物男性アイドル顔負けの凄腕パフォーマンスを魅せている。


その上口パクは一切なしというのが彼らのポリシーだというから驚きだ。

CDなんてとっくの前から売れなくなっているのに、彼らはその常識をデビュー曲の売上で覆し、俺たち若者に再びCDの存在を知らしめることに成功した。


本業の歌手はもちろん、他にも毎日バラエティ番組やドラマ・映画、CMに雑誌とあらゆる場所に引っ張りだこで、もはや見かけない日なんてない彼ら。

みーちゃんもそんな彼らを大好きだという女子の一人で、俺は常日頃から彼らの話をみーちゃんの口から聞かされている。


そして今聞かされていたのは、GerAdEのメンバーである「MASA」という21歳の男の話。

MASAはGerAdEジェラードの中で最も童顔で、男の俺から見ても可愛らしい顔立ちをした癒し系イケメン。

メンバーの中では一番年下で、することなすことがとにかく可愛い!とたくさんの女性から大きな人気を集めている。

MASAと言えば、メンバーの中で随一ダンススキルが高く、顔が可愛いのに踊る姿はカッコイイ!との評判が高いヤツだ。

みーちゃんはこの3人の中で最もMASAという男を溺愛しまくっている。




「あっ!ね、ね、JUNくんが今度連ドラ主演するんだって!」

「…へぇ」

「ねー、かずくん聞いてるの?」

「きーてるよ~」


そして今みーちゃんの口から出た「JUNくん」という男もGerAdEジェラードのメンバーであり、3人の中では一番人気の21歳。

デビュー時からショートヘアーの金髪にウエーブをかけた目立つメンバーで、JUNは3人の中でも断然歌唱メンバーだ。

口パクを避ける彼らは常に生歌にこだわっており、歌番組の生放送やライブなどでの歌唱もJUNは音程やテンポを外すなんてことを知らない。

常に緊張を見せず余裕な表情で歌うメインボーカルで、最近じゃ歌唱以外にも芝居を評価され、メンバーの中で特にドラマや映画に引っ張りだこの才能の塊。

しかしJUNは一見して何を考えているのか未だに掴めない、謎の多いメンバーである。まぁ、ファンからしたらそこが魅力的なのかもしれないが。




「…あー。HARUくんイ●スタ全然更新してくれないな~。他の2人はマメに上げてくれるのに~」

「…」


そして最後の一人、たった今みーちゃんの話題に出た男も、同じくGerAdEのメンバーである。

「HARU」は他の2人と比べて年齢は1つ上の22歳だが、GerAdEにはリーダーが存在しないので、HARUは年上であってもリーダーではない。

まだデビューしてまもないせいなのか何なのかわからないが、テレビ等でも彼はあまり積極的にしゃべらないイメージで、ファンからの印象は「とにかく無愛想」「常に塩対応」だそう。

その為メンバーの中で人気は最下位だが、それでもファン曰く、「普段無愛想なのにたまにはにかんだように笑う姿がとにかく可愛い」らしい。

あまり公表はされていないが、MASAが可愛い弟キャラなら、HARUはお兄ちゃんキャラといったところだろうか。

これから先、まさかこの男がみーちゃんと最も深く関わり合うことになるとはもちろん知る由もなく、俺たちは2人並んでいつもの見慣れた帰路を歩いていた。


…以上、この個性的な3人が集まった「GerAdEジェラード」というグループの存在が、これからこの話の主となるので常に念頭に置いておいてほしい。


いつもは物理や日本史などの勉強は1mmも覚えられないのに、みーちゃんはGerAdEのことになるとあれやこれやと情報を自分の中に簡単に取り込んでいく。

JUNくんが出るドラマは毎週何曜日の何時からだの、GerAdEが出ているCMはいつから放送だの、次の新曲リリース日はいつだの、みーちゃんはそれらを全て把握している。


…いやね、みーちゃん。

俺思うんだけど、その暗記力、勉強に使ったらいいんじゃない?って。

それでもそんなことは言えずに、みーちゃんが喜ぶと思って、みーちゃんの母親の協力のもと、彼らの野外ライブイベントチケットをちゃっかり用意しているのは俺の方。


俺はGerAdEには一切興味はないが、みーちゃんと「デート」が出来るなら、彼らに関する話を長時間聞いているのも悪い時間じゃない。

俺はそう思うと、勇気を出してみーちゃんをデートに誘ってみた。






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