第15話
「
バイトが終わり、家に帰るとお腹空いたとお腹をさすりながら、
「わりぃ」
「テスト勉強?」
「そうそう」
「ふーん」静は涼介に近づいて服の匂いを嗅ぐ。
「な、なんだよ!?」
「別に」
そう言って離れると、「ご飯何かなー?」とダイニングに入っていく。
「たまには静が作ってくれよ」
「えー、だって美味しいもの食べたいでしょ?」
静はイタズラっぽく笑ってカツオとソファーに座った。
いつものようにキッチンに立つと、サラダと生姜焼きを手際よく仕上げていく。
「ほい、生姜焼き一丁」
生姜焼きのいい匂いが部屋中に漂っている。
「美味しそー」
「さ、食うぞ」
「いただきます」
2人で囲う晩御飯にももう慣れた。
最初から考えたら随分進歩したもんだ。
「明日はコンビニまで行ってみるか?」
「コンビニまで20分くらいだよね…」
少し不安そうな顔をする。
最近は公園へ行って5分程度は公園で過ごすところまで出来るようになっているので、そう難しいことでもないはずだ。
「まぁ行けるとこまででいいからよ」
「うん、わかった」
「やけに素直だな」
「いつも素直ですけど」
そう言って、涼介のお皿から生姜焼きを一枚奪うとペロリと食べた。
「おい!お前」
「素直に食べたくなったから食べたのよ」
そう言って鼻で笑うと、さっさとご飯を食べてしまう。
「ったく、お前は…」
静のイタズラは子供のようだ。
ため息をつきながらも前に進む静にホッとした。
そこからも順調で毎日のように行ける距離が伸びていった。
とはいえ、毎回最後は息も絶え絶えと言った感じだ。
外に出られるようになったというより、気分が悪くなることに慣れてきたという方が合っているのかもしれない。
そもそもなぜ外に出られなくなったのか原因がはっきりしないから、根本的な解決にならないのだ。
□■□
「なぁ、じいさんどう思う?」
診療所の診察時間が終わり片付けながら、涼介はじいさんに相談してみた。
仮にも医者なのだから何かヒントは得られるかもしれない。
「色んな原因が考えられるが…例えば、対人関係でのトラブル、これが一番多い。人間関係に疲れて引きこもってしまうパターンだ。あとは自信を喪失したパターンだ。自分はダメな人間だと思いこんで家から出れなくなってしまうパターンだなぁ」
静のこれまでの話や新庄から聞いた話を思い出してみる。
「うーん、どちらもなさそうなんだよな。トラブルもあったみたいだけど、特に気にしてる様子もないしな。自信がなくなるようなこともあったように思えないんだよなぁ。俺にすげえ偉そうだし」
「出る必要を感じてないんじゃないですか?」
看護師のおばちゃんは、薬などの補充をしながら、そう言った。
「必要を感じない?」
「私の親戚の子でもいましたよ。何かあったわけじゃないけど、外に出たくないって。出て頑張ることに意味を感じないんだそうです。出ようと思う自分と家にいたい自分がいて、そこのせめぎ合いで気分が悪くなってしまう」
「そういう原因もあるかもしれんの」
「じゃあ生きがいとかなんか楽しいことがあれば前に進めるかもしれねぇよな」
「いや、そんな単純なもんじゃ…」
「俺帰るわ!」
そう言って涼介は荷物を持つと、診療所を風のように走って出て行った。
「大丈夫かしら」
おばちゃんが心配そうに涼介が去った方を見ると、じいさんは「あいつは人の気持ちがわかる子じゃから大丈夫」と言って笑った。
□■□
「ただいま!」
涼介は家に入ると、キッチンの方から焦げ臭いにおいがする。
「まさか!・・・火事!」
慌ててキッチンに向かうと、「あちゃー」と静の声がする。
「どうしたんだ!」
コンロの方へ向かうと、フライパンから煙が上がっている。
「・・・なんだ、この真っ黒な塊は」
フライパンには黒い塊が乗っている。
「・・・ハンバーグ」
静が落ち込んだように下を向いている。
「仕方ねぇな」
涼介はため息をつくと、ハンバーグの焦げだ部分をはがしていく。
「もういいよ、そんなの食べられないでしょ」
「バーカ、捨てるなんてもったいないこと出来ねぇだろ」
しばらくして小さくなったハンバーグと涼介が作り直したハンバーグが食卓に並んだ。
静に作り直した方を出すと、「いいよ、私がそっち食べる」と沈んだ声を出した。
「俺はこっち食うから、お前がそっち食え。こんな小さいの静には足りなねぇだろ?」
「・・・うるさい」
ハンバーグを食べてみると、焦げた苦みが多少はあるが味は問題ない。
「美味しいよ」
「いいよ、気を使わなくて」
「お前に気を使ったりしねぇよ。それより、なんで料理なんかしたんだ?やらないって言ってたじゃないか」
「・・・涼介が病気みたいだったから」
「え?病気?」
「毎日消毒液の匂いするから・・・病院行ってるんだと思って」
「それで心配して料理してくれたってわけか。ったく、俺は病気じゃないし、そもそも病人になんでハンバーグだよ」
「力つくかなって・・・」
「・・・静って頭いいのに頭悪いよな」
「うるさい!!」
「でもありがとうな」
「・・・ふん」
静は口を尖らせた。
「まぁそんなお前にプレゼントだ」
涼介はポケットからチケットを取り出した。
「これは・・?」
「診療所でアルバイトして買った。お前の好きなバンドのライブチケットだ」
静の顔がぱぁっと明るくなっていく。
「そんなに遠くはないけどよ、電車乗ったりしなきゃいけねぇからな。明日からも外出れるように努力しろよ」
なんとなく恥ずかしくて目をそらしてハンバーグを口にいれる。
「・・・ありがとう」
小さな静の声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます