第6話
“友達いたんだね。しかも割と普通の”
扉の前に座って、晩御飯の焼き餃子で箸で掴んだ瞬間、スマホが震えた。
「うるせー」
今日の餃子の出来は、今まで作った中でも上位にうまさだ。
焼き加減も抜群で、パリッとした皮と中の具のジューシーさがたまらない。
“お友達の前ではキャラが違うんだね”
「キャラって何だよ」
“涼介は、ヤンキーだよね?”
「な!は?俺がヤンキー?」
驚きすぎて、かき込んだご飯を吹き出しそうになる。
“部屋の中に特攻服あるし、服はヒョウ柄多いし、下駄箱にキティちゃんのサンダルあったし。いかにもヤンキーの部屋って感じだったからさ”
「お、お前!人の部屋の中を勝手に見んじゃねーよ」
“扉が開いてたから見えただけ”
「・・・誰にも言うなよ、俺が元ヤンってこと」
“私が誰に言えるって言うのよ”
「それは…そうだな」
引きこもりの世話は大変だが、秘密がバレないのはありがたい。
“なんであんな真面目なキャラ演じてるの?”
「別に・・・高校デビューってやつだよ」
“普通は高校デビューって、明るい方向に変わるんじゃないの?”
「うるせぇ、自由だろ。色々・・・あんだよ」
“まぁいいけどさ。友達にあんな感じで接して疲れないのかなって思ってさ”
「お前こそ、友達関係のことは人に言えないだろうが!」
“それはそうだね”
やけに素直な返事が涼介の心に刺さった。
「・・・すまん」
“別にいいよ、涼介の言う通りだし。友人関係こじらせて引きこもってるわけだから”
「・・・外に出るのがこわいか?」
“こわいのかな…。というより、外に出たら他者からの評価で自分の存在を認識しなきゃいけなくなるのがイヤという感じかな”
「・・・ん?」
“自分以外の誰かがいるから、自分という存在に気づくということ。でも私は自分の存在を感じたくないの”
「・・・もう一回聞いても意味不明だ」
“もういい”
「おいおい、もっと単純な話なんじゃないのか?
“・・・最初はそうだよ。顔見たら吐き気するとか気味悪いとか言われて、ずっと無視されて、しんどくて、一回学校休んだら行けなくなって・・・”
「そこから自分がイヤになったってことか?」
“まぁそんな感じ”
「でも静は学年1頭良くて優等生だったんだろ?嫌う必要ねぇだろ」
“そんな単純な問題じゃない。それに真面目なんてつまらないだけでしょ”
「俺みたいにケンカして親に迷惑かけたり、学校サボったりする方がダメだろ。真面目でいいじゃねーか」
“もういい。あんたにはわかんないよ!”
「そんな怒るなよ。お詫びといったらなんだが餃子をたくさん作っちまったからよ、おかわりとかどうだ?」
おどけた口調でなんとか空気を戻そうとしてみるが、スマホは震えない。
どうやらお怒りのようだ。
涼介は仕方なくご飯を食べ終わると、食器をもって1階へ降りた。
大量の餃子を眺めながら、どうしたものかと思っていると、スマホが震えた。
“おかわり持ってきて”
涼介は少し温め直すと、お皿に盛って2階へ上がった。
□■□
昨日の夜は気づいたらコタツで寝てしまって、お風呂に入り損ねてしまった。
本当にコタツは悪魔の家電だと思う。
涼介は眠い目をこすりながら、起き上がった。
まだ5時半で部屋の中は薄暗い。
もう一度眠ろうとするが、目は覚めてしまっている。
(しゃあねーか)
寒さにぶるっと身を震わせると、着替えをもって風呂場に向かった。
「朝風呂ったらいい気持ち~♪」
鼻歌交じりに脱衣所の扉を開けた瞬間―
「・・・・え?」
「は・・・」
見たことない美しい少女が立っている。
大きな瞳に長いまつ毛、つややかな黒髪ロング、そしてグラマラスな・・・
「え、えっと・・・静?」
ほんの少しの沈黙があり、次の瞬間にはものすごい衝撃を頬で受け止めることになった。
□■□
「昨日忘れ物をしてしまったから取りに来させてもらったんだが・・・。その前に確認したい。どうしたら一人暮らしの家で頬にそんな綺麗な手形がつくんだい?」
塩田が不思議そうな顔で涼介を見た。
「・・・僕もわからないよ。はい、これ」
忘れ物の参考書を渡すと「ありがとう。・・・まぁお大事にね」最後まで不思議そうな顔をしながら、塩田は帰って行った。
「ぜってー変な奴って思われたじゃねぇーか!折角ここまで優等生キャラで来たのにいぃいい!」
スマホが震える
“自業自得”
「おい!あれは事故だろうが!くぅううう、なんで俺がこんな目にあうんだよ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます