第3話
《side封魔止》
骨の妖が霧散していく光景を、私は静かに見届けた。
その横には、神門 武蔵の姿がある。烈鬼様。いや、烈鬼坊の父親だ。だが、その目には息子を心配するような色は一切浮かんでいない。
「……烈鬼は無事のようじゃな」
私は淡々と言葉を紡ぐ。だが、武蔵は腕を組み、表情一つ動かさなかった。
「無事ならそれでいい」
その声は冷たく、親が子に向けるものではないように聞こえる。だが、その背中には僅かに震えが走っていることを、私は見逃さなかった。
「烈鬼坊の戦いはどうじゃな? 霊力が皆無とは思えぬだろう」
私はそう問いかけながら、聖士郎を抱えながら、家路を急ぐ烈鬼坊の姿を見つめる。
骨の妖に挑みかかり、自分の肉体だけを武器にして弟を守り抜いたその姿は、素晴らしい戦いであった。
「見ていたさ。……だが、あれはただの無謀だ。あの子には霊力がない。退魔師になれる器ではない」
武蔵の言葉に、私は小さく溜め息をついた。
「本当にそう思っておるのか?」
その問いに、武蔵は視線を逸らす。彼の中で葛藤があるのは明らかだった。
「……烈鬼坊は霊力がないわけではない。お主も知っているであろう?」
私の言葉に、武蔵は静かにうなずいた。
烈鬼坊が霊力を失った理由。それは生まれたときに起きた、悪鬼との戦いに起因する。
あの日、神門家を襲撃した悪鬼は、烈鬼坊と聖士郎の命を狙い、執拗にその霊力を喰らおうとした。
武蔵も叶わず、烈鬼が喰われた。
だが、烈鬼は、己の霊力を爆発させて、悪鬼の腹を破って倒してみせた。だが、悪鬼は死ぬことを嫌がり、烈鬼坊の体を乗っ取ろうとした。
その時、烈鬼坊は、生まれたばかりの赤ん坊ながらも、自らの霊力を全て使い果たし、悪鬼をその体に封じ込めた。
烈鬼坊は、ただ霊力がないのではない。
彼の中には、今も悪鬼が封じられている。その封印が絶え間なく烈鬼坊の霊力を吸い尽くしているのだ。
「烈鬼坊が霊力を持たないのは、封印そのものだからじゃ。お主の家族全員を守るために、自分を犠牲にしたんじゃよ」
武蔵は黙ったまま立ち尽くしている。烈鬼坊に冷たく接しているのも、父としての苦しい選択なのだろう。
「退魔師にはなれない。霊力がない以上、戦えば命を失うだけだ」
武蔵は低い声で言った。それは息子を生かすために、外にいる妖から遠ざける言葉だった。
「……だから、あいつに余計な期待を抱かせてはいけない」
その言葉を聞き、私は微かに笑みを浮かべる。
「それは本当に父親として正しい道なのだろうかね?」
武蔵が答えられないことを知りつつ、私は続ける。
「ですが、武蔵よ。安心しなさい。
「……」
「退魔師最強と謳われたこの私が監視と指導を務めている以上、烈鬼坊をただの無力な子供にはしません」
私は自信を込めてそう言った。
「霊力がなくても構いません。烈鬼坊は、その体を武器に戦うことができる。あの子には、あの子なりの強さがあるんです」
「……」
武蔵は何も言わなかったが、その拳は微かに震えていた。
私は、烈鬼坊がいつか自分自身の強さを見出す日を信じている。霊力がなくとも、彼がどこまでも進む力を持っていることを、私は確信していた。
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あとがき
どうも作者のイコです。
短編は以上です。
良ければ、⭐︎を入れてやってくださいませ。
どうぞよろしくお願いします。
最弱無能の退魔師は、それでも戦うことを辞めようとはしない。 イコ @fhail
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