4話 脱出
「んん……」
頭に痛みを感じ瞼を開けたのだが、光が目に入ってこない。
それに土の匂いと埃が鼻腔をくすぐり、煙たいことこの上ない。
「一体何が……」
「我が主。起きた」
「オルクスか?どこだ、近くにいるのか?」
「いる」
近くにいるはずなのに見えない……?
目に痛みはないってことは……暗闇の中にいるってことか。
「他の奴らは?」
「分からない。皆、気絶、してる、思う」
「ふむ……」
何かオルクスの話し方が、いつもよりたどたどしく感じるが今は一旦置いておこう。
今俺たちが暗闇にいて気絶しているのならば、俺の腕に当たっている絶妙な感触にも納得がいく。
さっきからずっとサラサラと最高の肌触りで、こちらを程よく押し返してくるくらい弾力のある肌が当たっているのだ。
この気持ちいい感触がする場所と言えば、思いつく限りラッキースケベな場所しかない。
おいおい、いつの間にNRGはエッチなことOKになったんだぁ!?
そして俺の脳内スパコン(推定1億bit)から導き出される結論は、程よく筋肉の乗ったエフィーの太腿かオープンで触り心地が良さそうなシーラの背中のどちらか。
まぁ俺からすればどっちでもいいって思ってしまうくらい、触り心地がいい!
まぁ今までパーティーリーダーとして俺は頑張ってきたんだ。
これくらいのサービスがあっていいだろ!!
「我が主。そろそろ、マズイ」
下らないことを考えていたら、苦しそうなオルクスの声が響き渡ってきた。
嫌じゃい嫌じゃい!このまま触り続けたいんじゃい!
お前忠臣だって自認しているのなら、俺の気持ちを察してくれよ!!
「あとどれくらい持ちそうだ?」
「もう、無理」
だが流石の俺も、仲間の命とラッキースケベを天秤にかけられるほどの畜生じゃない。
「……くっ……そうだな。分かった分かった。それじゃあ、『ライト』!」
俺は気持ちいい感触に別れを告げると、周囲を照らすだけの初級魔法『ライト』を唱えた。
確かにこの感触は二度と味わえなくなるかもしれないが、味わった事実と記憶は消せない。
だがそれを鮮明に思い出すためには、感覚記憶とか長期記憶が混ざりあって何かして大事かもしれないから、この感触が誰だったのか知ることは非常に重要なのだ。
そう、これは決してやましいことなんてない素晴らしい活動……
「って、ドーシュの頭かい!!」
俺が女性の柔肌だと思っていた感触の正体が、実はおっさんの頭、だったのか……。
頭に最強の槍【グングニル】が直撃したかのような衝撃が俺を襲うが、その衝撃はすぐに怒りへと変わった。
なんでこいつの頭こんなにサラサラしてんだよ、木で作られてんだろ!?
頭なんて普段帽子で隠してんだから、肌質に気合入れなくていいだろうが!!
この生臭坊主がぁ!!
いや正確に言えば、こいつ坊主頭だけど坊主じゃない。
確か種族全体で信仰してる何かがあった気がするから、坊主じゃないんだ。
全くややこしい。
兎にも角にも、こいつの頭をちょっとだけ燃やしてギャグ漫画のアフロヘアーにしてやろうか!?
「我が主……」
そんな下らない復讐を考えていたら、呻き声で名を呼ばれたのでそちらを見ると、必死に天井を支えるオルクスが視界に入ってきた。
「オルク……ってお前!?」
無理に防御結界を展開しているのか、オルクスの鎧の隙間からは大量の汗が流れ出ている。
このままだと押しつぶされるかもしれない、そんな心配はオルクスを見てすぐに消し飛んだ。
周囲は真っ黒な土で包囲されており、オルクスの下にはパーティーメンバーがドーシュと同じように倒れている。
つまり俺たちはオルクスに押しつぶされようとしているのではなく、オルクスは俺らが押しつぶされないように身を挺して守ってくれていたのだ。
「我ら、無事。よかった」
「オルクス感謝する!今すぐどうにかするから、もうちょっとだけ待ってくれ!」
オルクスが支えている土を見て、打開策を必死に考える。
ランドは建築できるが、緊急脱出をしなければいけない今では十全に活躍できない。
下手に工事をしようものなら、今俺たちがいる空間すら破壊してしまうからな。
となるとこういう時に活躍できるのは……
「ドーシュ?ドーシュッ!?くそ、『ハイクリア』『ハイヒール』!」
「……おぉ、オウキ殿。回復感謝する」
先ほどまで生臭坊主と揶揄していた老人に状態異常と体力回復をかけると、ムクリと起き上がってきた。
「ドーシュ!天井に脱出口を作れ!精度はいらん、速度重視だ!」
「承知した」
突然の命令にも関わらず、ドーシュは命令されたことを即座に実行すべく魔法の詠唱を始めた。
その間に、俺は仲間にドーシュと同じ魔法をかけていく目を覚まさせていく。
全員を起こし、些細な怪我で終わっている状況を見ると、地震への対応は正解と言えるのかもしれない。
ただそれに慢心せず、今回はオルクスの尽力によるものだと心に刻まなければいけないが。
その功労者は今、地面に倒れるように寝そべっている。
彼の隣には俺なんかよりも圧倒的な医療知識を持つシーラがおり、オルクスの容態を診てくれている。
「オルクス。お前の尽力のおかげで全滅を免れた。感謝するぞ」
「我、皆、守った、だけ」
「謙遜するな。ただ入念は回復はもうちょっと待ってくれ。ここを出たら休憩するからな」
そう言って、俺たちの頭上で土を支えてくれている巨大な木の根を見る。
これはドーシュの魔法によるもので、タイムラプスを見ているかのような速さで成長していた。
「ドーシュ、『エクストラ
「これですか?これはワシが持ってた
「なるほど。だがその肝心の脱出路が見当たらないが……」
「それは今から作りますじゃ。『ディメンション・カット』!」
ブンッ!という音と共に黒色の長方形が、巨大な根の付いたかと思うと一瞬で姿が消えた。
そこに有ったはずの根もろともに。
「なるほど。脱出路は木の中、と。よしドーシュ、このまま頼む」
「分かっておりますとも。ワシも一刻も早く女神様のご尊顔を拝見したいのじゃ。頑張りますとも!」
「……女神様?」
「オウキ殿、まさか知らないと申すか!?あの偉大で高潔な太陽神のことを!!彼女の存在なくしてワシらはもちろん、生物はみな生きてはおられ……」
「あぁ~なるほど。分かった分かった、また今度な。俺は他の奴らと次の行動話し合って来るから、ドーシュはこのまま頑張ってくれ」
明らかに面倒なご高説を回避するため俺は、全力でその場を後にした。
いや前からドーシュが太陽神を信仰しているのは知っていたけど、あそこまで酷かったかなぁ?
「よし、皆集まってくれ」
根の大穴に入ったドーシュと、そこに俺たちでも通れるようハシゴを設置しているランド以外のメンバーが集まり、俺に傾注させる。
「オルクスの尽力のおかげで、俺たちは大きな怪我なく崩落を乗り切れた。だがまだ完全に聞きを乗り切ったわけではない、ここからの脱出が残っている。今急ピッチでドーシュとランドで脱出路作ってもらっているから、直に乗り切れるだろうが油断はするな」
俺の言葉に安堵の色を浮かべる仲間たちを確認してから、話を続ける。
「そして次の問題はここからの脱出だが、2つの部隊に分ける。まずは先行部隊、オルクス、ヘレン、それにエフィーをリーダーとした3人だ。何のイベントかレイドボスが出現しているかは分からんが、脱出路の確保をしてくれ」
呼ばれた面々が短く返事をする中、ヘレンだけが反対した。
「主ー?もしかして、アタシにこいつらを運べってことだよなー?」
「あぁそうだ。お前には翼を出してもらって、可能なら周囲の偵察もしてほしい。特にオルクスはハシゴを登れんから、いつも通りお前に運んでもらう」
「またかよー!アタシに乗っていいのは主だけっていつも言ってんじゃん!」
「そうなんだが今は緊急事態なんだ。頼むよヘレン」
「むぅ~……分かったよ。その代わり!今度主も乗ってくれよ!!」
「俺は
「よぉーし!その言葉聞いたぞ!!じゃあアタシも頑張るー!」
俺の言葉を聞いたヘレンはそう言って脱出路へと駆け出していった。
「待てヘレン!あぁくそっ!ともかくエフィーは指揮を頼む。防衛が無理そうなら俺たちに連絡しろ」
「了解した、オウキ様。では行ってくる」
こうしてエフィーはオルクスを連れ、ヘレンの後を追った。
「よし残ったのは俺とシーラは、臨時キャンプの撤収させてからドーシュとランドと合流。そのまま脱出するぞ」
「うふっ……分かったわぁ」
不平不満を言わずに頷いてくれるのは嬉しいが……あれ、シーラってこんな妖しい目をしてたっけ?
というかなんでそんな体をクネらせているんだ?
それにヘレンってあんなに子供ぽかったっけ……?
何だが仲間たちの様子がおかしい気もするが、今は脱出を優先するために頭を切り替えるのだった。
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