第3話 救済プログラムの提案

 春人は、エネルギーバンクカードを見つめながら深く息をついた。行員の言葉が頭の中で反芻する。「赤字を解消しなければ、未来は変わらない」。自分でも分かっている。生活習慣を見直さなければならないと。


 そのとき、不意に目の前の景色が揺らぎ、再び夢のようなエネルギーバンクの空間に引き戻された。行員は春人の顔を見ると、優しく語り始めた。


 「お帰りなさい、春人さん。今日は救済プログラムについてお話しします。このプログラムは、あなたのエネルギーバンクを健全な状態に戻すための道しるべです。」


 春人は少し身構えた。


 「救済プログラム……それ、俺にできるんですか?」


 「もちろんです。少しずつで構いません。まずは、日々の生活で『入金』を増やし、『出金』を減らすことから始めましょう。」


 行員が指を動かすと、ホログラムに三つの項目が表示された。春人の目に、それぞれの言葉が刻まれる。




1. 休息のルール: 毎日7時間以上の睡眠を確保すること

 行員は最初の項目に指を差した。


 「休息は、エネルギーバンクへの最も大きな入金手段の一つです。毎日7時間以上の睡眠を確保することで、疲労は大幅に軽減され、日中の集中力や活力が戻ります。特に、深い眠りの時間が多いほど、エネルギーは効率よく回復します。」


 春人は頭を掻いた。


 「でも、俺、夜更かしが癖になってて……課題があったりすると、ついスマホをいじっちゃうんですよね。」


 行員は微笑みながら頷いた。


 「それが赤字の原因の一つです。まずは夜更かしの習慣を見直すことが大切です。例えば、寝る前1時間はスマホを触らず、リラックスする時間を作ると良いでしょう。部屋の照明を暗めにし、読書やストレッチを取り入れるのも効果的です。」


 春人は少し考え込んだ。


 「確かに、いつも眠いのにスマホを触ってたら結局ダラダラしちゃうんですよね……試してみます。」




2. 小さな楽しみを追加: 自分をリフレッシュさせる習慣を取り入れる

 次に行員が指差したのは「小さな楽しみ」という項目だった。


 「エネルギーを補充するには、楽しみを見つけることが重要です。趣味に時間を使ったり、好きな音楽を聴いたりすることで、心がリフレッシュされ、バンクにエネルギーが貯まります。」


 春人は首をかしげた。


 「でも、俺、そんなに時間もないし……趣味とか、最近あんまり楽しめてないんです。」


 行員は首を横に振った。


 「時間がなくても、些細な楽しみで構いません。例えば、散歩中に綺麗な景色を眺めるとか、好きな飲み物をゆっくり味わうとか。それだけでもエネルギーの補充になります。」


 春人は少し考えた後、思い出したように言った。


 「そういえば、最近忙しくてギター全然弾いてないな……昔はそれが一番の気分転換だったのに。」


 行員は微笑みながら頷いた。


 「良いですね。それこそが、あなたにとっての『小さな楽しみ』です。無理のない範囲で、少しずつ再開してみてください。」




3. エネルギーの使い道を見直す: 不要なストレスを減らす努力をする

 最後の項目が浮かび上がる。行員は穏やかに続けた。


 「エネルギーの赤字を解消するには、不要な出金、つまりストレスを減らすことも重要です。特に、自分に必要以上のプレッシャーを与えることを避けるべきです。」


 春人は眉を寄せた。


 「でも、大学やバイトのストレスなんてどうにもならないじゃないですか。」


 「全てを解決するのは難しいかもしれません。ただ、ストレスの感じ方や受け止め方を変えることはできます。例えば、完璧を目指さず、できる範囲で最善を尽くすよう心がけるとか、自分を責める代わりに褒める習慣を持つことです。」


 行員がホログラムを操作すると、ストレス管理のヒントがいくつか表示された。


 「深呼吸や瞑想を取り入れる」

 「嫌なことを言葉にして書き出す」

 「自分を追い込む環境を避ける」

 「これらの工夫を取り入れるだけで、日常のストレスが和らぎ、エネルギーの無駄遣いを減らすことができます。」




 春人は深く息をついた。


 「完璧を目指さない……それ、俺にはちょっと難しいかも。でも、少しずつやってみます。」


 行員は、春人の様子を見て優しく微笑んだ。


 「春人さん、救済プログラムは一朝一夕で結果が出るものではありません。けれど、少しずつ取り組むことで、必ず変化が訪れます。」


 春人はエネルギーバンクカードを握りしめながら頷いた。


 「分かりました。まずは、今日からできることを始めてみます。」


 行員の言葉に導かれながら、春人の心には一筋の希望が灯った。そして、彼のエネルギーバンクを黒字に戻すための挑戦が、ここから始まるのだった。

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