第2話 エネルギーバンクの仕組み
夢の中の奇妙な空間に立つ春人は、目の前の女性行員の説明に耳を傾けていた。白い制服に身を包み、どこか現実離れした雰囲気をまとった彼女は、淡々と語り始めた。
「エネルギーバンクとは、あなた自身のエネルギーを管理する見えない口座のようなものです。」
春人は眉をひそめた。
「見えない口座……?」
「はい。あなたが日々の活動を通じてエネルギーを引き出し、休息や楽しみを通じて補充する仕組みが、このバンクで管理されています。食事、睡眠、運動、趣味、交流、全てがエネルギーの収支に関係しています。」
彼女がカウンター上に手をかざすと、ホログラムが浮かび上がり、複雑なグラフや数値が次々と表示された。それは春人のエネルギーの推移を表しているようだった。
「こちらをご覧ください。」
ホログラムに表示されたデータには、春人の生活習慣が赤裸々に映し出されていた。深夜までスマホを操作する様子、簡易的な食事、僅かな睡眠時間……。どれも、彼が過去に軽視してきた行動だった。
「現在のあなたのバンクは借金状態です。つまり、引き出しすぎて返済が追いついていないのです。」
春人は、胸の奥に冷たい何かが広がるのを感じた。
「借金状態……それって、どういうことなんですか?具体的に何が起きるんです?」
女性行員は、再び指を動かし、ホログラムを操作した。今度は「エネルギー破産」という赤い文字が画面に浮かび上がった。
「エネルギーの借金が膨らみ続ければ、最終的にエネルギー破産に陥ります。そうなれば、心身は完全に動けなくなり、回復には長い時間が必要になります。」
春人の顔から血の気が引いた。
「そんな……俺はまだ普通に動けてますよ。少し疲れてるだけで、別に大したことじゃないんじゃ……。」
女性は首を横に振った。
「そう感じるのは今の段階だからです。しかし、無理を続ければ破産は避けられません。例えば、あなたが今感じている集中力の低下や不安感、それに寝ても疲れが取れない感覚。それらはすべてエネルギー赤字の初期症状です。」
彼女の言葉に、春人の心はざわついた。確かに、最近は理由もなくイライラしたり、何をしても楽しく感じなかったりする日が増えていた。
「じゃあ……どうすればいいんですか?」
「まずは、あなた自身がエネルギー収支を理解し、適切に管理することです。」
ホログラムが再び動き出し、「収入」「支出」「バランス」と書かれた項目が表示された。
「活動をすればエネルギーが引き出され、休息や楽しみでエネルギーが補充されます。このバランスを正しく保つことが重要です。しかし、あなたの場合は長期間、休息を軽視しすぎたためにバンクが赤字に陥ったのです。」
春人は思わずため息をついた。
「つまり、俺はエネルギーの返済を怠ってきたってことですか?」
「その通りです。借金を返済し、エネルギーバンクを黒字に戻すためには、生活習慣を見直す必要があります。」
「でも、そんな簡単に変えられるものなんですか?」
女性行員は少し柔らかい表情で言葉を続けた。
「大切なのは、意識を変えることです。まずは、何が自分にとって必要なエネルギーで、何が不要な支出かを理解することから始めましょう。そして、これからのあなたの行動次第で、未来は必ず変わります。」
その言葉はどこか希望を感じさせる響きがあった。しかし同時に、春人の胸には不安も渦巻いていた。
「でも、具体的に何をどうすれば……。」
彼の言葉が途切れた瞬間、女性行員がカウンターの引き出しから小さなカードを取り出した。
「こちらをお渡しします。これは、あなた専用のエネルギーバンクカードです。」
カードは透明で、中央に彼の名前が浮かび上がっていた。
「これから、あなたの行動によるエネルギー収支が記録されます。そして、あなたの目標達成に必要な課題も提示されます。」
春人はカードを受け取りながら、改めて自分の状況を考えた。
「エネルギーバンク……なんだか、現実味がなさすぎて不思議な気分です。」
女性行員は優しく微笑んだ。
「それでも、これが現実です。そして、このバンクがあなたの未来を支える鍵になります。さあ、始めましょう。」
そう告げられた瞬間、再び空間が揺れ、強い光が春人を包み込んだ。
目を開けると、そこは自分の部屋だった。手には、先ほど受け取ったエネルギーバンクカードがしっかりと握られている。
「……これからどうすればいいんだろう。」
春人はカードを見つめながら、まだ夢から覚めないような気分で深く息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます