第6話

 吸血メイドと奴隷姫


(メイドのひより)



 結論から言うと、私の正体は人間ではない。

 私は吸血鬼。

 どうやら人の血を吸って生きる生物らしい。

 ただ、吸血鬼のように血を吸って生きる様になるのは完全に成熟して成人してから。今の私は、離乳食を食べるような感覚で普通の人間と同じ食事をしている。

 吸血鬼は成人になる前に「眷属」となるパートナー?を作り、その眷属の血を吸って生きることになる。ちなみに眷属は一人である必要はないようだ。むしろ一人から血を吸い過ぎてしまうと、貧血になって殺してしまう可能性や、吸血によってショック死してしまうリスクがある。

 なので、眷属は最低二人以上必要だ。

 ちなみに、この世には奴隷族と言って、眷属となって血を吸われてもほぼ悪影響を受けない、元々代々眷属を務めてきた人の種族がいるらしい。ただ、現在ではその血は薄まり、適性を持つものはほぼ居ないし、誰がそうなのかもわからない。


 吸血鬼の吸血衝動はだいたい16歳から発生し始め、18歳にピークに達する。体は16歳からだんだんと衰弱していき、18を超えても吸血をしないとそのまま死に至るとのこと。ただ、血を吸わなかった最後の死に様は単に飢えて死ぬわけではないようで、最後に大暴れしてしまうケースなど、どうなるかがわからないという不安定なものだったよう。


 ここまでが調べて分かったこと。

 私が吸血鬼だと言うことを知って、この3ヶ月間で調べたことだ。


 そして私が決意したこと。

 それは絶対に親愛なるお嬢様を眷属にする事がないようにすること。お嬢様から距離を取り、他の眷属を作って、その方達を誠意一杯幸せにする。そして可能ならお嬢様の元に戻って、またお世話をさせていただきたい。


 これが私が今、お嬢様と距離を置いている理由と、今後の私の活動目標。



 莉亜と玲衣の二人と勉強会をした帰り道、動く自分の足を見ながら帰る。時々歩みが止まりかけるが、私自身がそう決めたのだから、と自分を鼓舞して足を前に進め続ける。そう、私はそう決めたのだからそれ以外ない。


 頭を無理やり切り替えて、今日のやるべきことを思い浮かべる。いつものメイドとしての務めと、学校の宿題やあれこれ。ひとつずつ確認していると、家の門が見えてきた。


 ふと、足を止め、空を見上げて考える。


 死んじゃいたいなぁ…。


 最後まで血を吸わなければ、そのまま餓死する事ができる。

 でもそれではいけないこともわかっている。吸血鬼が死ぬ時は何があるかわからない。意識を失って暴走状態になるらしい。そんな状態で何か事件を起こせば、お嬢様に迷惑がかかるのは決まりきっている事だし、何より直接お嬢様に危害を与えたりしたら最悪だ。

 なにより、わがままだけれど、お嬢様の人生を見ていたい。誰と出会い、誰と結ばれ、何をして生きていくのか。もし、彼女に何かあれば助けたい。


 だからやっぱり死にたくない。


 そうやって、熱くある目頭に力を入れながら、いつものように、門をくぐる。

 自分で決めたことだ。

 絶対になんとかしてみせる。それでもダメだったら、海外のどこかで力尽きよう。私に思い浮かぶのはそれくらい。

 でもそれでも迷惑は絶対かかるから絶対なんとかする。


「ひより、ただいま戻りました。」


 私はそう言いながら、玄関の扉を閉めた。


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