第5話
吸血メイドと奴隷姫
校舎に入ると、隣から声をかけられる。
「おはよー、ひよりちゃん!」
「あ、
後ろから声をかけてきたのは、同じクラスの友達、その中でも特に仲のいい二人のうちの一人、
そんな彼女は私を見て少し不思議そうな顔をすると、ふふっと笑いながら私の頭を数回撫でた。
「いこ?」
「う、うん…?」
私は突然の出来事に返事が曖昧になりながらも、彼女に続いた。
階段をあがりながら考える。最近の彼女は、明らかに私に対するボディータッチが増えている。
仲良くなっているという事だし、私にとっては好ましいことではあるんだけど、気持ちが追いつき切らない時がある。お嬢様に触れられることは多かったが、その時にどちらかというとマイナス寄りの感情になることはなかった。しかし今はないことはない。気にならないことが大半だが、たまにちょっと辛い時がある。自分からそうなるよう仕向けておいて、本当に酷い話だとは思うし反省もしている。しかし心は頭でいくら考えれもどうにもならないことが沢山ある。…私が学校に着くまで、お嬢様のひさしぶり匂い、感触、寝巻き姿を思い出さずにはいられなかったように。触れられると、お嬢様のことを思い出してしまうように。
ため息を吐きそうになって気を引き締める。
莉亜とたわいもない話をしながら教室のドアを開けて中に入る。朝の挨拶を交わす人は多くはないが、何人かいて、一言二言話しながら自分の席へ向かうと、私を迎えてくれるもう一人の特別な友達がいた。
「やっほ」
と、私に片手でピース作ってを差し出してくる。
「朝、久しぶりにひよりに勝っちゃった。」
どうやら登校時間の勝負で負けたらしい。
黒髪に赤縁メガネをかけた
「ふふっ、これが原因かな?」
そう言って莉亜と同じように頭に触れてくる。でも今回は莉亜のときと違って、頭から、髪先までを触られる。
「え…?」
流石にさっきの言葉を疑問に思って、自分の髪をぎゅっと掴んでみる。
そこで、あっと思い出す。
「髪、ボサボサだよ? 珍しく寝坊でもした?」
「ちょっと玲衣! ボサボサって、気にしてるかもしれないでしょ!」
もう一度伸ばされた玲衣ちゃんの腕を莉亜が掴みながら、玲衣ちゃんを嗜めるように言う。一方私は、今日の朝の出来事で布団からなかなか出れず、身支度がほとんどできずに急いで出てきたことを思い出して、恥ずかしくなった。私の髪質は、朝と夜にしっかり手入れしないといけない面倒くさいタイプで、昨日寝れずにベットで寝返りを繰り返したことにより、そこそこ酷い状態なのかもしれない。掴んでも少しゴワゴワしている気がする。すごく恥ずかしい。
「そんなひどくないから大丈夫だよ!」
優しい莉亜は、俯いた私を慰めようとしてくれるらしい。
「まあ、莉亜がすぐに気づく程度、ってとこかな?」
「はぁ? ちょっと人を鈍感代表みたいに言わないでもらえる? 大丈夫だよ、ひよりちゃん、私が特別気づいただけだから! あと、それでもひよりちゃんはめっちゃ可愛い!」
玲衣ちゃんがからかうように言うが、莉亜はすごく庇ってくれて私は少し気分が回復した気がする。でも、鈍感ではないと言う言葉には思うところがあったので、ちょっとだけ私も莉亜をからかうことにする。
「そっか…、莉亜がわかるくらいボサボサか…。」
そう心底落ち込んだように言ってみせる。
「えっ、えっ、ちょっと! なんでひよりちゃんまで!? てかそこまでひどくないよ髪、大丈夫だよ!」
莉亜は私の裏切りを受け、抗議の声を上げるが、後半はしっかりフォローを忘れない。そんな良い子な莉亜だが、玲衣ちゃんに容赦無く鈍感エピソードを並べられ、今は頬を膨らませている。
「そのくせ、自分が髪切ったりしたときは気づいてもらえないと怒るのにね。」
そしてトドメを刺されて、だってぇ…と言いながら撃沈していった。
玲衣ちゃんも基本は優しいのだけど、莉亜相手だとイジりスイッチが起動してしまうらしく、莉亜はいつもいじり倒されている。でもいじられている莉亜がいちいち可愛いから仕方がない。自業自得かもしれない。
「さて、と」
一通り満足したのか、寄りかかっていた机から腰を上げ、私を見る。玲衣ちゃんはこっちを見てにこりとすると、私の手を引いて自分のロッカーで何かの袋を取り出し、そのまま違う塔の、人のこないお手洗いに私を連れ込んだ。途中、莉亜がちょっと!と声を上げて私の空いたもう一つの手を掴んで、私を引っ張った。腕が伸びて痛かったのはあったが、廊下で二人に引っ張られて大の字みたいになったのが恥ずかしくて、私は遠慮しながらも理亜の手を振り解いた。そして彼女は今、むすっとして後ろで大人しくしている。
「ねぇ、三つ編みにしていい?」
私の髪を現在進行形で整えてくれている玲衣ちゃんが、楽しげに聞いてくる。
「お任せするよ、ありがとう。」
そんな彼女に礼を伝える。ドライヤーやヘアアイロンなどの持ち込みは校則で禁止されている。それがバレる、そのリスクを冒して今私の髪を直してくれている。
彼女は終始丁寧な手つきで髪を手入れしてくれて、なんだか、気持ちよくなって、前、お嬢様とお互いの髪を乾かすのが日常だった頃のことを思い出す。自分のためにするのは面倒くさい手入れでも、お嬢様のためなら全く苦では無かった。まだ半年も経っていないのに遠い昔のことのように感じる。またあの頃の関係性に戻る事はできないだろうが、せめて召使として髪を乾かす権利を貰うくらいにはなりたいな…。と少し絶望気味に考えた。
「やばっ。」
玲衣ちゃんが急に焦った声を発して、持っていたものを隠す。私はびっくりして、後ろを振り返った。
「えっ…。」
人が来ないはすのお手洗い。そこに来たのは、…お嬢様だった。
入ってきた彼女は、無言で手をささっと洗うと、お手洗いから出て行こうとする。
そこへ玲衣ちゃんが声をかける。
「
するとお嬢様は立ち止まって、一瞬こちらに振り向き、私と目が合う。けれど、それだけで、すぐに去っていってしまった。
「流石に、チクられたりしないよね…?」
私の髪を三つ編みにしながら玲衣ちゃんが呟く。
「大丈夫だと思う」
私はそう告げる。お嬢様は正義感の強い方だけれど、先生に言いつけるよりも自分で注意するタイプ。
「まあ、ひよりちゃんがそう言うなら大丈夫でしょ」
莉亜は私がお嬢様と仲が良かったことを知っている。その頃から少しだけ喋る仲でもあった。
「そっか。」
玲衣ちゃんが少し元気を取り戻したみたいにそう言って、しばらくして、可愛くなったよ、と私の肩を叩いた。
私はその出来栄えに驚いて、お礼を言う。
「本当にありがとう、玲衣ちゃん。すごいよ。こんな綺麗にしてもらえるなら、毎日頼みたいくらい。」
「朝うちに寄ってくれれば、いくらでもやってあげるよ? 通るでしょ、うちの前。」
「本当に?」
「もちろん。」
ありがたい申し出だが、どう返そうか少し悩む。お願いするのは流石に迷惑になりそうだし、かと言って断るのは彼女の善意を無下にしてしまっている気もする。
「ちょっと!」
口を開く前に、私と玲衣ちゃんの間に莉亜が滑り込んでくる。
「次、ひよりちゃんのヘアセットするの私だから。ひよりちゃん、ついでに、メイクもしてあげる!めっちゃ可愛くしてあげるよ!」
莉亜が、途中から私の方に顔を向けて、前のめりに、任せて!と言うように私の腕を掴んだ。
「ふふっ、じゃあよろしくね。」
私はそう言って、私の腕を握る彼女の手に、自分の手を重ねた。
「うちは?」
すっと近づいてきた玲衣ちゃんの腕が絡んできて、耳元でそう囁かれた。
莉亜がちょっと!と言いながら玲衣ちゃんを睨みつけいる。
「じゃあ、申し訳ないけど、今度お願いするね?」
私は彼女に習って、そう囁き返した。
なんだか内緒話をしているみたいで面白くて、二人で笑ってしまう。
脇腹をつつかれ、横を見ると、むむむっとした顔の莉亜と目があう。
あっ、と思うよりも前に、腕をぐっと引っ張られ、なんとかバランスを保ちながら、引き
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