第4話 隣の清楚可憐な美女の正体は

 *帰り道


桔梗「あの……今日は無理を聞いてもらってすいません」


壮馬「無理?」


桔梗「もしかして、他に誰か一緒に帰る約束をしていた友達がいたのかなと思いまして」


壮馬「友達……友達か……いないんだよな、友達。中学の時はいたんだけどな、高校に入ってからはうまく友達ができなくてな……ほら、俺、目つき悪いだろ?」


桔梗「え、そうですか? きれいな目をしていると思いますけど」


壮馬「いやあ。撫川は人を見る目がないな。人間の本性を見抜く力は養っておかないと、きっといつか怖い目にあうことになるぞ」


桔梗「そうでしょうか? 私、これでも人を見る目はあると思うのですが……」


壮馬「そういう自信は持たないほうがいいかな」


桔梗「そうですか。それでは肝に銘じておきます。でも、壮馬君を目つきが悪いとかで避けてしまう人のほうが、やっぱり人を見る目がないように感じるのですが……

それに、友達がうまく作れなかったというのは私も同じです……」


壮馬「え、撫川が?」


桔梗「意外でしたか? でも、今は友達がいないわけじゃないですよ。

 壮馬君と私。もう友達ですからね。ですから、壮馬君も今後は友達がいないなんて、絶対に言わないでくださいね」


 ――確かに考えてみると学校で撫川が誰かと一緒にいるところを見た記憶はあまりない。

今日の昼休みも、あんな場所を一人でうろついていたのは、俺と同じように誰にも見つからない場所で静かにボッチめしを食えるところを探していたのかもしれない。


 それにしても、清楚可憐で美人、誰からも好かれそうな撫川桔梗が友達作りに失敗するだなんて、実に理解しがたい話だ。

 だが、言われてみればお嬢様で、美人でとなれば女同士の間でいくらかの妬みがあるというのはうなずける話ではある。

 だからこそ、彼女にとっては俺のような男のほうがかえって友達にするには面倒が少ないのかもしれない。

 ただ、撫川が知らなくてはならないのは、男は時として危険な生き物であるということだ。

だけど正直に言えば、俺はこれ以上撫川に対して冷たく当たりたくないと思うようになってきた。

 なるべくならば、撫川が不快に思うことなど何もない方がいいと祈っている。

 しかも俺がその役を担うことで、撫川が俺のことを嫌いになってしまうかもしれないことが何よりも嫌なのだ。

 俺はいつの間にか、撫川のことを……


 *駅に到着


壮馬「それじゃあ、また明日……」


桔梗「え、あ、でも……」


壮馬「撫川は電車通学じゃないんだろ? いいよ、昨日みたいに俺の乗る電車が来るまで待ってくれるような気を遣わなくても。

 あ、ほら。ちょうど電車も来たみたいだし。それじゃ!」

 

 *壮馬手を振り駅舎に向かう


桔梗「あ、まって!」


 *撫川、後ろから追いかけてきて壮馬の手を握る。壮馬は振り返る


壮馬「撫川、そんなに簡単に男の手を握るものじゃないよ」


 ――やっぱり撫川は無防備すぎる。だけど、俺は撫川に嫌われるような行動はもうしたくない


壮馬「いいか、男という生き物はすぐその気になる危険な生き物なんだ。だから……」


 *撫川、黙ったままその手をさらに強く握る。


壮馬「撫川……」


桔梗「もう少し……一緒にいたい……」


 *到着した電車が出発する。二人は手を握ったまま駅舎へ向かう。撫川は恥ずかしそうにうつむいたまま

 *二人組のギャルとすれ違う。少したって


ギャルA「あれ? 桔梗じゃん!」

ギャルB「あ、ほんとだ。桔梗ひさしぶり! うぃーっす」

 *撫川、振り返りギャルと目が合うがすぐそらす。目が泳ぐ


ギャルA「やっぱそーじゃん! 雰囲気変わったからちょっと気づかなかったよー」

ギャルB「あー、手なんかつないじゃってさー。もしかしてかれぴ?」


桔梗「あ、あのう……もしかして人違いじゃ……」


ギャルA「んなわけないじゃん! ウケる」

ギャルB「アタシよアタシ。おな中のさつき!」


壮馬「人違いだって言ってるだろ? だいたい撫川は中学、私立のお嬢様校の聖来女子なんだから」


ギャルA「だからおな中だって言ってんじゃん! その子、撫川桔梗でしょ?」

ギャルB「そうそう。アタシたちと同じ私立のお嬢様校の。ほら、見てみ。アタシらの制服。聖来女子の制服っしょ!」


ギャルA「あー、もしかしてかれぴ君。聖来女子にはギャルがいないとでも思ってたー?

 そーいう偏見、困るんだよねー。ウチらだってさ、ちゃんとギャルやる人権くらいあるんだし」

ギャルB「そーそー。桔梗だって今はそんなだけどさ、中学時代はアタシらと一緒にギャルしてたわけだしねー。なあ、桔梗」


撫川「あの、えっと、その……」


ギャルA「ホントびっくりだよ。聖来は受験なんてしなくてもエスカレーター式で高校いけんのに桔梗ったら公立の高校受験するとか言い出すんだもん」


ギャルB「まーなんにせよ。ひさしぶりに会えてよかったよ」


ギャルA「つかさ、かれぴ君。ウチら、どっかであったことなくない?」


ギャルB「あー、そーいえばそーかもー。誰だっけ? まいっか。別に」


ギャルA「それよりさー、桔梗。また前みたいに遊びにいこーな」


  *壮馬、桔梗を見る。 桔梗は目を伏せている。


ギャルB「あれ? 桔梗、もしかして泣いてる?」


ギャルA「さつきー、なに泣かしてんのよー」


ギャルB「えー、アタシかんけーなくない? かえでが悪いんじゃ……」


 *桔梗、その場から走って逃げだす


壮馬「あ、まって。撫川!」

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