第26話:芽生える真実の愛と密約(後編)
「もうエネルギーがほとんどないんだ。仲間の安全のために……ムーン、俺に抱かれてくれ。」
ローランの声には微かに震えがあり、それが彼の言葉をさらに真実味のあるものにしていた。焚き火の明かりの中で、ムーンの表情が揺れる。
「そんな……」
ムーンは耳まで真っ赤に染めながら俯いた。彼女の心には困惑と羞恥が渦巻いている。
「もちろん、無理強いできるようなことじゃない。」
ローランの声はどこか寂しげで、焚き火の炎がその表情を揺らめかせていた。
「命より大切なものがあることは俺も知ってる。それに、俺だってお前をこんな形で抱きたくない……大切な仲間として、お前の意思を無視するわけにはいかないんだ。」
ムーンはローランの言葉から真剣さを感じ取り、胸が締めつけられる思いだった。彼は自分を大切にしてくれている――そう信じて疑わない無邪気な彼女には、仲間が自分を欺いているなどとは、微塵も考えつかなかったのだ。
「だから……お前が決めてくれ。その決定に俺は従う。」
ローランはじっとムーンの顔を見つめた。その視線は、彼女の心を見透かすように深かった。
ムーンは複雑な表情を浮かべたまま、焚き火に目を落とす。彼女の心には葛藤があった。大切な仲間として、ローランを助けになりたい。しかし、どうしても躊躇いが拭えない。
その一方で、ローランは心の中で別のことを考えていた。
「相変わらず、サマルのやつは姑息な方法を思いつくもんだ。」
確かに、サマルは俺ほどの剣の腕もなければ、ムーンほどの強大な魔力があるわけではない。しかし、敵の急所を的確に見抜き、執拗に攻撃する能力に優れている。だからこそ、あいつとは敵対したくない――そう思わせるだけの狡猾さと執念深さが、サマルにはあった。
それでも、ローランは自分の目的を果たすべく動いていた。ムーンがあくまで「自分の意思」で決断したように見せるため、彼は慎重に状況を整えていったのだった。
ムーンは、仲間を疑うという考えがまったく浮かばない。彼女の純粋さと仲間思いの性格が、ローランにとっては狙いやすい隙でもあった。
「……うん……それであなたやサマルの役に立てるなら……。」
ムーンは小さな声で答えた。その決断は確かに彼女自身のものであり、仲間を守りたいという思いから出たものだった。
「すまない……ありがとう。」
ローランは静かにムーンの肩に手を置き、その顔に優しく唇を寄せた。
「んん……!!」
ムーンの身体がかすかに震える。彼の唇が触れた部分が甘く痺れ、彼女の下半身にいままで感じたことのない熱が広がる。
長い冒険の中で、ムーンの身体は彼女自身が気づかないうちにローランに惹かれていた。ローランへの特別な感情が胸の奥で育ち始めていたことに、この瞬間、彼女はようやく気づいたのだった。
しかし、王族の娘として教え込まれたモラルや貞操観念が頭の中で警鐘を鳴らす。
「ダメ……こんなことは……」
ムーンはかすかな抵抗を口にしたが、ローランはその言葉を意に介さず、彼女をしっかりと抱きしめた。
「騒ぐな。サマルが起きる。」
ローランが低い声で囁いた。耳元でその言葉を聞いたムーンは思わずサマルの寝袋を見るが、幸い彼はまだ熟睡しているようだった。
焚き火の音だけが、二人の間に流れる沈黙を包み込んでいた――。
********************
『わたしの心も身体も、本当は拒んでいない。』
ムーンはそのことに気づいていた。ローランの行為が進む中、嫌悪感どころか、むしろ心の奥底で彼を受け入れたいという感情が沸き上がってくるのを感じていた。それは、単に仲間としての信頼からだけではなかった。
彼女はこれまで、自分がローランに対して抱いていた特別な感情に気づいていなかった。しかし、この瞬間、初めてそれが「愛」だったのだと、ぼんやりと気づき始めていた。
しかし、彼女の中にあるもう一つの部分――王族として育てられた誇りや威厳、そして貞操観念が、それを抑え込もうとしていた。
「お願いします……堪忍してください……」
ムーンはサマルに聞こえないよう、小さな声でローランの耳元に哀願した。彼女の言葉には羞恥が混じり、どこか弱々しい響きがあった。自分でも気づかないうちに、普段の親しげな口調は消え去り、敬語になっていた。
対等な仲間としての雰囲気は、完全に崩れていた。今の彼女は、ただ弱い立場である女として、男に慈悲を乞う存在になり下がっている――ムーンはそんな自分にさえ気づいていない。
「……王族の娘の教育とは、惨いもんだな……」
ローランはムーンの身体を求めながら、心の中でそう思った。
彼女は本来、気さくでお転婆な姫だ。自分の意志をはっきり持ち、仲間として毅然とした態度で接してきた。しかし、その根底には、王族としての品位や淑女としての振る舞いを叩き込まれた結果、無意識のうちに「女は男に従順であるべき」という枷が存在していた。
「仲間のためだ。我慢してくれ……すまない。」
ローランは囁きながら、ムーンの肩に手をかけた。その声には、どこか説得力のある響きがあった。ムーンの心の中で渦巻いていた葛藤は、徐々にその言葉によって薄らいでいった。
彼女の心には、ローランへの愛が芽生え始めていたことと、「自分を犠牲にしてでも仲間のために役立ちたい」という強い思いが共存していた。
焚き火の明かりが揺れる中、ムーンは静かに目を閉じた。その瞳からは、最後の迷いが消え去っていた。
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一度諦めてしまえば、そこからはなし崩しだった。
ムーンは、ローランの力強い動きにその身を委ねた。
必死で声を抑えようとするものの、荒い呼吸の合間に、彼女の唇から漏れる小さな声が夜空に響く。その声は、彼女自身が気づかないほど艶やかで、焚き火の静けさに溶け込んでいった。
「ああ……わたし、この人のことが好きなんだ。」
ムーンは、胸の奥で膨らむ感情に初めて気づいた。それは、冒険の日々の中で少しずつ育まれていた感情だった。
たくましい筋肉が好き。
どんな状況でも自信に満ち溢れているところが好き。
圧倒的な強さが好き。
そして、仲間を思いやる優しい性格が好き。
自分の心がそう囁くたび、ムーンの中の抵抗は薄れていく。ローランへの想いが溢れ出し、それを止めることはもうできなかった。
「ローランシアの王子様……!ローランシアの王子様……!」
ムーンは無意識のうちに彼の名前を呼び続けた。その声は、星空に向かって紡がれる彼女の心そのものだった。
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全てが終わった後、ムーンはそそくさと乱れた衣服を整え始めた。その手は震えており、心の中は羞恥と背徳でいっぱいだった。
「なんてことをしてしまったんだろう……」
小さくつぶやきながら、ムーンは自分自身に問いかけた。
婚前に行為をすること自体、ばれたら大問題になるのは明白だ。それどころか、大切な仲間が寝ている横で、もう一人の仲間と致してしまうなど、想像すらできなかった禁忌の行為だ。
それに……。
ムーンはさらに顔を真っ赤に染め、手を止める。
「とても、とてもよかった……」
心の中でそう認めざるを得なかった。彼女の頭には、先ほどの出来事が鮮明に蘇り、どうしてもその感覚を否定することができなかった。
衣服を整え終わると、そっとローランの方に目を向けた。彼もすでに身支度を整えており、じっとムーンを見つめていた。その瞳の中には、彼特有の余裕と親しみが宿っていた。
「……!」
その視線を受けた瞬間、ムーンの心臓は大きく跳ね上がった。
言葉にならない感情が込み上げる中、ローランはゆっくりとムーンの元へ歩み寄った。そして、彼女の肩に手を置き、軽く抱きしめる。
「また今度も、よろしくな。」
耳元でそう囁かれると、ムーンの顔はさらに赤く染まり、ゆでだこのようになった。
「う、うん……」
か細い声で答えるのが精一杯だった。
ローランが焚き火に薪をくべる音が静かに響く中、ムーンは自分の感情を整理しきれないまま、その場に立ち尽くしていた。
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「ローランシアの王子様……!ローランシアの王子様……!」
サマルティアの王子は、自分の胸に寄り添いながら幸せそうに寝息を立てていた王女が、不意に寝言を漏らしたのを聞き、驚きで眉をひそめた。
「まだ、あいつのことが消せないのか……」
悔しさがにじむ声とともに、王子は唇をかみしめ、苦い表情を浮かべる。
そうか――彼女はローランの夢を見ていたのか。だから、あんなにも穏やかで幸せそうな顔をしていたのだ。
彼女の寝顔は、冒険をしていた頃の、あのキラキラとした無邪気な笑顔そのものだった。王子は、うれしいような悲しいような、複雑な表情を浮かべた。
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