第41話

「…………」

「……はあ、はあ、はあ、はあ」


 イーディスは仰向けに地に倒れている。

 瞳は閉じられ、剣は折れた。〈鏡の国〉も解かれていて、質素な黒い外套姿に戻っている。もはや戦う気力はないように思う。


 そんな彼女を一瞥し、わたしはゆっくりと降下してやがて砂浜に着地する。


「……はあ、はあ」


 ……わたし、やったんだ。イーディスに、勝つことが出来た。勝てるかどうかなんてわからない、正直十中八九負けてしまうと思っていた勝負だったけれど。それでもわたし、勝てたんだ。


 ……よかった。わたし、葵を守ることが出来た。恐怖に負けず、立ち向かうことを選択出来た。勇者みたいに、強く在れたんだ。


 ……本当に、よかった。

 これでわたしも少しだけ、ほんの一歩だけでもいいから。

 勇者に、近づくことが出来ただろうか?


「……?」


 そんなことを考えていると、身体からなにかがふっと抜けていく感覚があった。

 刹那、ぐらっと世界が傾く。

 ……あ、れ? なんだ? きゅうに、しかいが、あたまが、くらくら、する。


「――アリスッ!?」


 葵の叫び声がやけに遠く聞こえる。なんだろう。耳に何かが張り付いているみたいな。


 ふと声のしたほうを見る。すると葵が、必死の形相でこちらに走ってきている真っ最中で。


 ……なんだよ葵。そんなかおして。イーディスは倒しただろ? ていうかちゃんとみてたか? わたしの勇姿をさ。


「……」


 そう言おうとしたけれど、声を出すことは叶わなかった。


「……」


 代わりに気づく。

 ……もしかして、傾いているのは世界、の方じゃなくて、わたし、のほうなのだろうか。


「――――アリスッ!? アリス!!」


 やはり葵の声は遠く聞こえて。

 ふと背中や頭には、じゃりじゃりとした砂の感触。


「……ぅえ?」


 どうやらわたしは、いつの間にやら地面に倒れてしまっていたようだった。

 ……ああ、なんか思考がにぶる。あたまが、おもい。まぶた、も。

 なん、も、かんがえられない。


「……」


 最後に、わたしのすぐそばまで駆け寄ってきた葵が、視界に入ったところで。

 ぷつりと、わたしの意識は途切れた。

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