第11話

「つまり、アリスがゲートを使おうとした瞬間、ロリーナがアリスの代わりにゲートに魔力を流したってこと」

「そんなことが可能なのか? だってロリーナは、かの大戦で世界と同化し最高神となった……。神々――あの糞野郎どものルールなんてしったこっちゃないが、神が個人に干渉するだなんて、そんなの完全に規律違反で……」


 そうなのだ。わたしが3歳くらいの時。神天使陣営、そして勇者魔王陣営に分かれ、世界大戦が勃発したという。その際に天使族であるママが不安定だった世界と同化したことで和解がなされ大戦が終結した。代わりにママはあの世界の最高神となり、二度とわたしたちと会うことも出来なくなった……。そう聞かされていたのだけど。


「それほどまでに、ロリーナはアリスのことを愛しているんだよ。神々の規律違反なんて、ものともしないほどにね」

「……ママが、わたしを?」

「なにも不思議なことじゃないよ。恭一君にとって、アリスが可愛い可愛い一人娘のように。ロリーナにだって、それは変わらない。たとえアリスに、ロリーナとの思い出がほとんどなくたって、アリスとロリーナは親子の絆でつながっている」

「……でもわたしは、天使と魔族のハーフ。天使と魔族のハーフは角が小さいから忌子、なんでしょ……? みんながこそこそ陰で話していたの、わたし知ってる……」

「……アリス」


 にゃんも付けることも忘れて、パパが悲しそうな顔をする。


「……そんなわたしのこと。ろくに会話もしたことない、忌子であるわたしのことを、ママは……」

「ロリーナは、そんなことで娘を嫌うような薄情者じゃないさ」

「……え?」


 パパが言う。いつにもまして、真剣な表情だった。


「ロリーナはいつも言っていたよ。この大戦が終わったら、3人で旅行にでも行こう、ピクニックに行こう、温泉にでも行こう、と。アリスはどんな子に育つかな、私に似て可愛く育つだろうけど、性格は恭ちゃんに似て自由奔放になるのかな。もしそうなったら、恭ちゃんはアリスのことを愛ゆえに束縛しそうだよね、とかな」

「……」

「世界と同化して神になる直前にも、こう言ってた。恭ちゃん、アリスのこと、よろしくね? 二人ともどうか幸せに、って」

「……」

「いつだって、ロリーナは俺たちのことを想っていたよ。いいや、今も想ってくれている。俺のこと、アリスのこと、きちんと愛しているんだ。天使と魔族のハーフで角が小さいからだとか、忌子だからだとか、そんなことは関係ない。ロリーナは、アリスのことが大好きなんだよ。それこそ、神となった後にも、アリスのことを気にかけて干渉してくるくらいには」

「……ほん、とうに……?」

「本当だ。忌子だなんてそんなの、あの世界の馬鹿先人どもが勝手に言って、それが定着したにすぎないくだらない悪習だ。気にすることなんてないんだよ。でもそれはそうと、ごめんな。アリスがこんなにも悩んでいただなんて、俺は知りもしなかったし、思いもしなかった。だから、ごめん」

「……あやまらないで。わたしは二人の娘であることが、なによりも、誇りなんだよ」

「それは俺も、そしてロリーナも同じだよ」

「――」

「アリスが俺たちのこと、誇りに思ってくれているように俺もロリーナも、アリスのこと、誇りに思っている。愛しているよ。何よりも誰よりも、俺がそれを保証する」

「――っ」

「だからありすにゃんはそんなことで悩まなくていいんだよ。ロリーナはきちんとありすにゃんのこと、愛しているんだから。不安がる必要なんて本来微塵もなかったんだ」

「……うん」

「どうだ? 悩み事は消えたか?」

「……、そう、だね。ありがとう。パパ」

「おう、任せとけ。なにせ俺はありすにゃんのパパなんだからな」


 そう言って、パパは柔らかく笑う。

 長年わたしの心の隅でわだかまっていたものが、嘘のようになくなっていた。パンツは被っていても、パパはわたしの尊敬すべきパパなのだ。そんなことを改めて実感させられた。


 パパが芋虫状態でなければ、わたしは泣いてしまっていたかもしれない。


「良い話。アリス、私たちもお義父さんらを見習って、温かい家庭を築こうね」

「築かないよ!! せっかくしんみりしてたのに水差してんじゃねえ!!」

「てめえ次お義父さん言ったら【終焉魔剣】使うって言ったよなあ!?」


 瞬間、葵がわたしを抱きかかえると自分の膝の上に乗せる。わたしはネコかっ!


「そんな中二病ソードなんて怖くない。私たちの愛の前には万物すら無力」

「わたしはくだんのその中二病ソード怖いから降ろしてくれ! 頼むからわたしは巻き込まないでっ!!」

「いいぜやってやるよ……。ボコボコにしてやるぜ……」

「鎖で両手もまともに動かせないくせに、やけに勝気だね。そんな状態で私に勝てるとでも?」

「あれ!? 俺このままやるの!? 鎖解いてくれないの!?」

「行こうアリス。私たちならきっと勝てる」

「行かないし!? 何が楽しくて鎖で身動きもできない実の父親を2人がかりで倒さなきゃならないんだ! じゃなくてわたしまだ訊きたいこと残ってるからな!? 妙なことになる前に話を戻して!!」

「訊きたいこと? 一通りの答え合わせは出来たと思うけれど」


 当人に自覚はないらしい。小首を傾げるさまがムカつく。


「葵のことだよ!! 魔法使ったり剣使ったり、魔法じゃない異能みたいなものも使ってたし。なによりパパだけじゃなくてママとも知り合いみたいだし、お前一体何者なんだよ!?」


 そうなのだ。この前までは普通――いや、変態な女子高生だと思っていた少女がわたしの中で魔法や剣、異能を扱える変態にクラスアップした。はっきり言って得体が知れない。葵は一体、何者なんだ!?

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