第10話
場所は復活した我が家のリビング。右隣に葵、左隣に謎の鎖でぐるぐる巻きにされたパパ、そして真ん中にわたしという構図でソファに座っている。
「単刀直入に訊くけど、ロリコンだいまお――恭一君はなんでパンツなんて被っていたの」
……こいつ普段、裏でパパのことロリコン大魔王って呼んでるのかよ。じゃなくてっ!
「いやそれも気になるけどっ! もっと他に訊くことあるよっ!!」
「藤沢は俺たちの地元だろうが。魔族にはなっちゃったけど顔は変わってないし、剣やら魔法やらを使っている姿を万一知り合いに見られでもしたらまずいだろ」
ここ藤沢ってパパの地元だったんだ。なんたる偶然だろうか。
「……いやでもだからってパンツ被るのは」
「そ、そんな目で見るなありすにゃん!! 咄嗟に顔を隠せるものが、直前に誕生日プレゼントでダイナからもらってたこれしかなかったんだ!!」
「……」
仮にも魔王になんてもんプレゼントしてんだダイナのやつ。アニマルパンツだぞ、魔王がそんなの履くわけないだろ。被ってたけど。
「そもそも日本で魔法を使わないで。恭一君は昔からそういうところが抜けているよね」
「「お前が言うな!!」」
またして変態とハモってしまった。
「まあでも葵の言うことにも一理あるか。天使——―調律者の動向も気になるし、使わないに越したことはないな」
……調律者? 何の話をしているんだろうか。
「ん。冗談は取っておき」
「取っておくな」
「恭一君はなんで日本に来たの? 数年前に私が誘った時には断ったでしょ。なんたら王国がうんたら~って言って」
「魔導王国タナカな! いい加減覚えろし!!」
「だっさい名前」
「俺の親友の名前借りてんの!! 馬鹿にすんなよ!?」
……わたしが生まれ育ったパパの国、魔導王国タナカってダサいんだ。今更だが、田中って日本人の家名だったんだな。そういえば、わたしのクラスにも田中って名前のやつが何人かいた気がする。
……あれ? でもそうなると、あいつらの名前は日本の一般論で考えるとダサいのか? 可哀そうに。わたしはそんなこと思ったりしないので、今度会ったら慰めてあげよう。
「……こほん。とにかくだ。俺が日本に来た理由なんてのは一つしかない。ありすにゃんだよ」
「……へっ? わたし?」
「そうだよ。どこでも……異世界転移ゲートを使って日本に来たんだろ? どうやってゲートを動かしたのかは知らないけど、そりゃもう焦ったさ。何の考えも準備もなしに、日本まで来ちゃうくらいにはな」
たしかに、パパ視点を考えれば突然わたしがいなくなって唖然としたのだろう。憧れの勇者の故郷、日本での生活が始まって気にも留めなかったが、パパには悪いことをしたかもしれない。
「……ごめんなさいパパ。心配かけちゃった」
「ああ、違うんだありすにゃん!! あんなものを置きっぱなしにしていた俺が悪いんだっ!! ほら、仲直りのハグをしよう!!」
そう言って、パパはぐるぐる巻きにされた体をぴょんぴょんと必死に動かし、鼻息荒くわたしに迫ってくる。
「やめてパパ。気持ち悪い」
「えっ」
「ぷぷっ」
「笑ってんじゃねえ葵!! てめえぶっ殺すぞ!?」
瞬間、葵がわたしにバックハグをしてくる。ふんわりと、シトラスミントのようないい香りが漂った。奴は顎をわたしの頭にのせると、わたしの髪をクンカクンカしながら言う。
「――ちょ、葵!? く、くすぐったい……!」
「残念だったねお義父さん。先も言ったけれど、アリスはもう私のモノだよ」
「俺はお前のお義父さんじゃねえ!! 次お義父さん呼びしたら【終焉魔剣】ぶっ放すぞ!!」
葵はわたしの頭をなでなでしている。ちょっと気持ちいい……。
「ありすにゃん今すぐそいつから離れろ!! そいつはな、昔から気に入った女なら片っ端から食っちまうような酷い女なんだ!!」
……食っちまう? ってどういう意味だ? まさかそのままの意味じゃないだろうし、なにかの比喩なのだろう。よくわかんないけど。
「失礼だね、純愛だよ」
「やっかましいわっ!! ならばこちらは大義だよ!!」
「そういえば、アリスがゲートを動かすことができた理由には心当たりがある」
「無視してんじゃねえぞゴラァァ!!」
威勢だけはいっちょまえのパパだが芋虫状態なため非常にカッコ悪い。そしてわたしはといえば今だけは葵のぬいぐるみになることに決めた。じゃないと話が進まない。さっきから脱線が過ぎる。
「……ってん? わたしがゲートを動かすことができた理由、ってどういうこと?」
「アリスの今の魔力じゃ、異世界転移のゲートなんて本来動かすことすらできないってこと。だよね、恭一君」
「……ん、ああ、そうだよ。あのゲートは魔力の最適化までできていなかったから、……まあ、今のありすにゃんの魔力じゃ異世界転移なんて不可能なはずなんだ」
「……そうだったんだ」
でも叩いたら動いたけどな、あれ。
「それで、心当たりってどういうことなんだ葵」
パパが葵にそう促す。
「ん。アリスの魔力からは、ほんの微かだけどロリーナの魔力も感じ取れる」
……なんだって?
「……ママの、魔力?」
「……ロリーナの魔力が、だって? それは、親子だから魔力の波長が似ているだけなんじゃ――いや、確かに感じるな。これは一体……」
パパまでそんなことを言って黙り込んでしまう。わたしからママの魔力を感じるって、それって一体どういうことなんだ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます