先生、バイクで伴走して下さい!

SASAKI J 優

第1話

「先生、今度の練習、付き合ってくれませんか?」

藤崎麻衣が放課後の職員室で言い出したのは、日曜に行われる自転車部の長距離練習についてだった。


「なんで私が? 顧問の田中先生がいるでしょ?」

玲子は顔を上げずにプリントを整理しながら答えた。


「田中先生、日曜はどうしても用事があるらしくて……でも、私たちだけで練習すると危ないって言われちゃったんです!」


麻衣は両手を合わせて懇願するように頼み込む。玲子は一度ため息をついたが、目の前の生徒の熱意に負けた。


「分かったわ。でも私は自転車なんて乗れないから、バイクで伴走するだけよ?」

「それで十分です! ありがとうございます!」


こうして、玲子が自転車部の練習に付き合うことになった。


当日:バイクと自転車の共演


日曜日の朝、学校の正門前にはヘルメットをかぶった玲子と、自転車に乗る部員たちが集まっていた。麻衣が一番前で、キラキラした目で玲子のバイクを見つめている。


「先生のバイク、やっぱりかっこいいですね!」

「これしか移動手段がないのよ。ただの趣味じゃないから」

玲子は照れ隠しにエンジンをふかした。低い音が響き渡り、部員たちのテンションも上がる。


「じゃあ、今日は山道をメインに走ります! 先生、よろしくお願いします!」

麻衣がそう言うと、部員たちは一斉にペダルをこぎ始めた。玲子は彼らの後ろをゆっくりと追いかける。


山道でのハプニング


山道に差し掛かった頃、麻衣が急にスピードを上げた。玲子は驚きながらもバイクで並走する。


「藤崎、急ぐと危ないわよ!」

「先生も私に負けないように、ちゃんとついてきてください!」


玲子は思わず苦笑したが、麻衣の挑発に少しだけスロットルを開けた。二人の間に軽い競争の空気が流れる。


しかし、カーブに差し掛かった瞬間、麻衣が足を滑らせそうになった。


「危ない!」

玲子は咄嗟にバイクを止め、麻衣のそばに駆け寄った。


「大丈夫? 怪我はない?」

「ちょっとバランス崩しただけです……先生、心配しすぎ!」麻衣は笑顔で答えたが、玲子は真剣な顔で睨みつけた。


「ふざけないの! あなたたちの安全を守るために来てるのに、そんな無茶されたら意味がないでしょ!」


麻衣はシュンとした顔でうなだれた。

「ごめんなさい……でも、先生と競争したくて……」


玲子は一瞬呆れたが、すぐに麻衣の肩に手を置いて優しく言った。

「気持ちは分かるけど、命を危険にさらすのは違うわよ。競争したいなら、ちゃんと安全な場所でね」


「……はい!」麻衣は素直に頷いた。


練習の終わりに


練習が終わり、学校に戻る頃には夕焼けが空を染めていた。麻衣が自転車を押しながら玲子の隣を歩いてくる。


「先生、今日は本当にありがとうございました!」

「まったく、無茶するんだから……でも、楽しかったわ」玲子は少し笑みを浮かべた。


「先生、また付き合ってくれますか?」

「……まあ、次も危なっかしいことをしないなら考えるわ」


麻衣は満面の笑みを浮かべ、玲子の手をぎゅっと握った。


「絶対約束ですよ! 次は私、先生にもっとかっこいいところを見せますから!」


玲子はため息をつきながらも、どこか楽しげな顔で「期待してるわ」と答えた。

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先生、バイクで伴走して下さい! SASAKI J 優 @teinei016

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