第42話 最高買い取り価格
ドロップアイテムを回収してから、二人は冒険者ギルドに向かった。
いつものように、受付嬢のティーナに買い取りの査定を頼んだのだが……やはり、かなりの金額になった。
「素晴らしいですね……こちらの買い取り金額は557万Btになります」
「は……ご、ごひゃく……?」
龍一が声を裏返らせた。
唖然としてしまったが、叫ばなかったことを褒めてもらいたい。
一日の買い取り金額が500万を超えるだなんて、龍一にも初めての経験である。
「な、何でそんな額に……?」
「大半はこちら……『猿の黄金玉』の価格ですね」
龍一の疑問に、ティーナが丁寧に説明してくれる。
ティーナが指差したのはカンフーモンキーからドロップした二つの金……宝玉だった。
「『猿の黄金玉』……これは文字通りに猿のモンスターが落とすドロップアイテムで最高品質の物。見た目の通り、純金なので非常に価値が高く、おまけにこれを持っていると子孫繁栄の効果があるとされています。そのため、縁起物として王族や貴族が婚姻した際に贈ると喜ばれるとされています」
「縁起物……子孫繁栄……」
なんたって、猿の金……宝玉である。
言われてみれば、精力がみなぎるような爛々とした光沢を持っていた。
「実を言いますと……辺境に領地を持つ大貴族の夫婦がなかなか子供ができず、こちらを手に入れて欲しいと依頼を出していたのです。その報酬金額が二つで500万Btなんですよね。仮に依頼がなかったとしても、300万Btにはなっていましたが」
「タイミングが良かったってことか……ラッキーだったな」
「他のドロップアイテムは合計で57万Btになります。こちらもレアドロップが多くて、素晴らしいですね。絶好調ではありませんか」
「まあ……な。俺の手柄ではないけど」
龍一が隣のトワに目を向ける。
「?」
視線が合うと、トワは不思議そうな顔でニコーッと笑顔を返してくる。
いつも通りに可愛い。何も問題はなかった。
「リューイチ様は450万Btほどローンを組まれていますね。よろしければ、今回の報酬を返済に充てておきましょうか?」
「ああ……頼んだ」
今朝、組んだばかりのローンを一日で返済してしまった。
十六回ローン、一年以上も返済にかかるはずだったというのに、予想外の幸運だった。
「残りは口座に入れておいてくれ」
「かしこまりました。そのようにしておきます」
ティーナが笑顔で諸々の手続きをしてくれた。
その顔に浮かんでいる笑み。ビジネススマイルの域を超えたホクホク顔は、冒険者に支払われる報酬の数パーセントが彼女の懐に入ることが理由である。
かつては龍一と肉体関係すら持っていた彼女であるが、トワに対して嫉妬を見せないのは、トワのおかげで収入が増えているからなのかもしれない。
「ああ、ちなみにですが……トワ様。二十階層のボスモンスターを討伐したということは、中級冒険者への昇格試験を受けられます。如何いたしますか?」
「昇格試験?」
「文字通りだ。それに合格すると中級冒険者になれる」
龍一が代わりに説明する。
龍一もまた、かつては受けた試験である。
二十階層のボスモンスターを倒したことを条件として参加できる試験で、試験官の監督の下でダンジョンに潜り、魔物と戦って実績を見せる。
わざわざ試験を設けているのは……強い冒険者のアシストで二十階層のボスモンスターを撃破しただけではないということを実戦で証明するためだ。
合格すると中級冒険者として認められ、ギルドカードを更新してクレジット機能を始めとした恩恵を受けられるようになる。
「俺が今朝やったようにギルドカードを使ってローンを組んだり、関連店舗での買い物に割引が効いたりする。受けて損はないけど……どうする?」
「うーん……私は別にいらないかなー?」
「いらないのか?」
「だって、リュー君がいるから。リュー君が資格を持っているのなら十分でしょう?」
「トワ……」
「リュー君と一緒。だから私には必要ないよー」
トワが当然のように言ってのける。
それはこれからも龍一と共にあるという宣言だった。
惚気のようなやり取りには流石に照れる。ティーナが大きな咳払いをした。
「コホンッ……それでは、昇格試験はまたの機会ということで」
「あ、ああ……頼む」
「それではそのように……ああ、もう一つお知らせしておくことがありました」
「な、何だ? 言ってみな」
謎の気まずさに襲われながら龍一が訊ねると、ティーナが眉間にシワを寄せる。
イチャついているカップルに苛立っているのかと思いきや……ティーナの顔を歪ませている要因は別にあった。
「実を言いますと……王都第一ギルドから要請がありました。中級以上の冒険者を自分達のところに移籍させるようにと、一方的に」
「は……移籍?」
「はい、移籍です」
エメラルド王国の王都には三つのダンジョンがあり、三つのギルドがそれぞれを管理している。
第一ギルドは王都の中心部。貴族街の中にあり、『金色の古代遺跡』というダンジョンに冒険者を送り込んでいた。
「ご存じかもしれませんけど……第一ギルドは貴族出身者の冒険者が中心です。そして、彼らが主力にしているのは異世界から呼び出した人間達です」
この世界では、頻繁に異世界召喚が行われている。
龍一やトワはクラスメイトと一緒に、王族によって召喚されたわけだが……貴族が自費を投じて召喚を行う場合もあった。
「貴族の護衛として雇われている異世界人……彼らが女神から力を剥奪されたことにより、戦力が大幅に下降しているようです。それで第二、第三に対して冒険者を寄こせと言っているわけですね……」
「偉そうだなあ……流石は貴族様だよ」
龍一が呆れかえる。
第一ギルドは貴族御用達だけあって、やたらとプライドが高い。
第二、第三ギルドの冒険者を劣ったものとみなしており、大通りで高級な装備をひらけかして歩いているのを見かけたことがあった。
「そもそも、貴族街は平民は立ち入り禁止だったはずだけど……」
「今回は特別。中級以上の冒険者には特別処置として入街を許すそうですよ」
「ますます、上から目線だな。素直に助けてくれって言えないのか?」
ダンジョンのモンスターを放置していると、外に一気に魔物が噴出してくる『スタンピード』が発生する。
スタンピードは別名『女神の癇癪』とも呼ばれており、女神の試練であるダンジョンが放置されたことで、女神が怒って魔物を外に吐き出すのだと言われていた。
「貴族街の真ん中でスタンピードが発生したら、連中は大打撃だろうな」
「ええ……とはいえ、三つのギルドは基本的に対等。冒険者を移籍させろなんて上から目線の命令に応じる義務はありません。彼らの態度が変わらない限り、我々は要請を無視するつもりです」
ティーナがキッパリと言い切った。
「ただ……高慢な彼らが『ごめんなさい』をできるようになったら、一時的に冒険者を派遣することになるかもしれません。もしかすると、リューイチ様にもお願いするかもしれません」
「わかった。気に留めておこう」
龍一は頷いて、受付カウンターを後にした。
ちなみに……帰る前にジェネラルモンキーのドロップアイテムであるペンダントを鑑定してもらったところ、『魔法騎士の護石』という名のアクセサリーだった。
物理攻撃力と魔法攻撃力の両方を上昇させる装備品で、またしてもトワのためにあつらえたような逸品。
当然、そのアクセサリーはトワに装備させることにして、さらに強化することに成功したのであった。
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