第41話 卵の魔物

『百獣の洞窟』二十一階層。

 そこは洞窟の内部であるにもかかわらず、壁や床が緑に覆われていた。

 丈の短い草や苔があちこちに茂っており、ジットリと湿気に満ちた空気が龍一とトワを包み込む。


「いっぱい草が生えてるねー。太陽の光がないのに、どうしてかな?」


「さあ……ダンジョンだからな。そういうものだと思っていれば良い」


 そもそも、ここが洞窟の内部であるにもかかわらず明かりがあり、松明も無しに歩けていることが異常である。

 理屈ではなく、ダンジョンというのはそういうものなのだ。

『百獣の洞窟』は文字通りに洞窟型の地下迷宮だが、ダンジョンには森や峡谷、山が丸ごと入っている場合もあった。


「二十一階層からは鳥のモンスターが多い。ここでの最下級の魔物は……」


「エグッ! エッグッ!」


「コイツだな。『コカトリパピー』」


 奇怪な鳴き声と共に茂みから出てきたのは、一抱えほどもある大きな卵である。

 卵はあちこち穴が開いており、そこから赤く光る両目がギョロリと覗いており、小さな翼と脚が生えていた。


「エグッ! エッグッ!」


「ちょっとだけ、かわいいね」


「可愛くてもモンスターだ。舐めていたら、足元をすくわれるぞ」


 妙に愛らしいモンスターの姿に和んでいるトワを龍一が窘める。

 大きな卵の怪物は龍一の言葉を肯定するように、トワめがけて体当たりをしてきた。


「エッグ!」


「わっ、ビックリ」


「エギュ……」


 トワが咄嗟にメイスを叩きつけた。

 グシャリと音を鳴らして、コカトリパピーが粉々に砕ける。

 潰れた卵が塵となって消滅。ドロップアイテムを残して消滅した。


「倒しちゃった」


「まあ、それほど強くもない敵だからな。トワなら一撃で倒せるさ」


 龍一が地面に落ちたドロップアイテムを回収する。

 それは小指の先ほどの大きさの黄色く光る宝石だった。


「『雛鳥の宝珠』……レアドロップアイテムだな。このモンスターが落とすのは基本的に卵が多いんだが」


「卵、出なかったね。残念だよー」


「普通、こっちのアイテムの方が得なんだけどな……」


 一個1万Btの値段で売れるレアドロップだ。

 普通、これがドロップしたら冒険者は喜ぶものである。


「当たり前のようにレアドロップをするのに慣れてきたな……」


「エグッ! エッグッ!」


「ああ、どんどん出てきたな。数が多いから気をつけろよ」


 巣穴を突いたように、通路の先からコカトリパピーがぞろぞろと出てきた。

 仲間が殺されたからだろうか。コカトリパピーが敵意を剥き出しにして襲ってくる。


「俺も手伝う。二人で片付けるぞ!」


「うん、二人の共同作業だねー」


 龍一とトワが現れたコカトリパピーを次々と撃破する。

 コカトリパピーの攻撃パターンは体当たりのみ。丸い頭で頭突きのようにぶつかってくるが……龍一は剣で、トワはメイスで、それぞれ迎撃した。

 コカトリパピーはこの階層では最下級のモンスター。十階層代におけるスレイブモンキーと同程度のレベルだ。

 二人はまるで手こずることなく、数が多いだけのモンスターを全滅させた。


「わ、卵が出たね。いっぱいだよー」


 トワが地面を見回して、声を華やかせる。

 コカトリパピーの残したドロップアイテム……その多くは『怪鳥の卵』という名称の生卵だった。

 御大層な名前であるがニワトリの卵にしか見えない、白ではなく茶色の卵があちこちに転がっている。


「リュー君のは卵が多いね。私はさっきの宝石ばっかり」


「普通は逆になるんだけど……こうやって見ると、改めてすごいな……」


 トワが倒したコカトリハピー……そのドロップアイテムは半分以上が『雛鳥の宝珠』だった。

 一方、龍一の方はほとんどが卵。一つだけ『雛鳥の宝珠』が落ちているのみである。


「卵が欲しいのなら、俺が倒した方が良いかもな……もちろん、高く売れるのはトワのドロップアイテムだけど」


「そうだねー。リュー君、すごい」


「すごいのはお前だよ……どう考えてもな」


「ところで……『パピー』って子犬のことだよね? どうして、卵がパピーなんて呼ばれているのかな?」


「…………知らね」


 考えてみれば、確かにおかしなネーミングである。

 二人は首を傾げながら、地面に落ちているドロップアイテムを回収した。


 龍一とトワはその後も二十一階層を探索していったが……最終的には卵を三十個、『雛鳥の宝珠』を八つほど収集することに成功した。

 ダンジョンで採れた食材はどれも新鮮な物ばかり。腐りさえしなければ、食中毒を起こす心配はない。

 TKGに最適な卵を十分に手に入れて、二人は魔法でダンジョンから脱出したのであった。






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カクヨムネクストにて『凍星の魔法使い』を連載しています。

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