あんたとシャニムニ踊りたい 第7話「親切」

蒼のカリスト

「親切」

             1


 8月の朝から気持ちがうだるような暑さで、心が折れそうなその日。 

 久しぶりに教室に現れた人がいた。


 「間宮さんじゃん、久しぶり」


 「元気してた?」


 「生きてたんだね」


 「オイ!それは失礼」


 様々なクラスの生徒が、間宮さんを囲んでいた。 

 彼女は、私と同じ小学校の同級生だった間宮さん。 

 いつもは、保健室で一人勉強をしている校内随一の優等生である。


 「いいんです。言われ慣れてますから」


 「すいません、コイツ、馬鹿なんで。謝れ、好(このみ)」


 「いいって、言ってるんだから、いいだろ、一紗(かずさ)」


 私は間宮さんを囲う会を後目に席に着いた。


 「あっ・・・。羽月さん!お久しぶり!」


 いきなり、彼女が私に話しかけて来た。


 「お、おはようございます・・・」


 彼女は笑顔ではいと話しかけてきた。 それを面白くないと思う連中も居ただろう。何処か、視線が冷たい。


 それから、暁が教室に現れたが、間宮さんの方に向かった為、私と彼女が話すことは無かった。


 ホームルームが始まり、諸連絡が終わったその日。石倉先生から、席替えをする運びとなった。


 「はぁ~い、皆おまちかねの席替えタイムですよぉ。やったね」


 よっしゃあとか、寂しくなるねという言葉が教室中にこだました。


 「静かにしろ。とりあえず、ここにBOXがあります。このBOXに数字が君らの運命を握っています。その番号順に席を変えて下さい。席替えは昼休みが終わってからということで」


 目が悪い生徒や体格差がある生徒は申し付けるように言って、先生は加納さんに全てを押し付け、その場を後にした。


 BOXに行く順番は、席順で私は宮本さんの次の次の番だった。 

 BOXに手を突っ込み、直観で紙を引き抜いた。 

 数字は29番。即ち、教室の一番端っこの席に追いやられることとなった。 

 順調に席順は決まり、何事も無く、時間だけが過ぎて行った。 


 暁は私は一度たりとも、目を合わせることは無かった。


                2


 四時限目の授業が終わり、迎えた昼休み。 

 暁は部活のミーティングの為、席替えを宮本さんに託し、その場を後にした。 私はそれまでの右端4番目の席から、左端29番目の席に移動した。


 目の前の席は、私のことを蛇蝎の如く嫌う奇声女と恰幅の良い野球部男子という席順になった。 気楽でいいと思った矢先、間を開けた隣の席には間宮さんが座っていた。 席は他の子がやってくれたようだった。


 「また、宜しくね。羽月さん」 

 笑顔を見せるだけで、触れようともしない間宮さんに、私はぎこちない笑顔しか出来なかった。


 「あははは」


 「羽月さん、わたし、羽月さんとお昼を一緒にしたいわ」


 「えっ・・・」 

 思わず、声が漏れた。 

 彼女は何を言いだすんだろうかと自然と声が出てしまった。するとキモオタが間宮さんに接近して来た。


 「はっ?なんで、コイツと飯食わないといけないんだよ。訳が分からん。今日のご飯はボクと食べるって」


 「そんなお話しましたっけ?」


 「したした。ボクがしたんだから。ただ、こいつと食べるのは」


 「好、今日はやめとこう。そんな話はしていない」


 「一紗は黙っとけよ。大体・・・ボクは・・・」


 行くぞと言った大柄女性に引きつられ、キモオタはどこかへ連行された。


 「また、食べましょうね!」 

 間宮さんは笑顔で手を振り続けた。 

 2人が教室からいなくなると間宮さんは私に振り向いた。


 「さぁ、お昼に致しましょう!羽月さん!」  

 どうやら、私に拒否権は無い物に等しく思えた。 

 私は間宮さんの席を合わせ、2人で食事をすることとなった。 


 「ちょっと、お待ちなさい!」


 それは私の右斜め上の席になった矢車さんの声だった。


 「どうしたの?矢車さん?」


 「わたくしも混ぜてはくれませんか?成績上位者で食べるお食事。頭がどんどん良くなる気しか致しませぬわ」


 いや、空気読めよと突っ込みたくはなったが、その空気に負けないメンタルで、矢車さんは席を移動して見せた。


 クラスが誇る成績上位者のみによる謎の食事会が幕を開けた。


              3


 矢車さんの弁当はサンドイッチのオシャレなランチボックス、

 一方の間宮さんは愛の詰まったコンパクトなお弁当だった。 

 私の弁当も負けたわけでは無いが、張り合っても仕方ないと思い、頭を弁当に向けた。


 「矢車さんのお弁当って、いつもこうなんですか?とても美味しそう」


 「そうでしょ、そうでしょ。いつも、お手伝いさんがわたくしの為に命がけで制作してくれますの」


 「凄い、矢車さんちって、お手伝いさんがいるの。ブルジョアね」


 「そういう間宮さんだって、ハンバーグなんて、とても豪勢ですわ」


 「そんなこと無いよぉ。普通の一般的なお弁当です」


 「あらあら、まぁまぁ。あははははは」


 完全に2人のペースに流され、私は黙々と母の弁当を口にしていた。 

 もう、帰れよと突っ込みたくなる気持ちを抑えていた時だった。


 「ごめんなさい、羽月さん。暁さんと何かあったの?」


 「そうですわ。晴那があなたに絡まないなんて、何かおかしいですわ」


 「そうよそうよ。2人ともいい感じだったじゃない!なんで、こんなことに?」


 間宮さんが、何故それを?と言葉にしようとした際、私は口にしようとした直後、彼女は何かを察したのか、話をすり替えた。


 「ほら、2人とも、保健室でああだこうだ言ってたし。きっと、いい友達になるんだろうなって、思ってたからさ」


 「そうなんです。今はわたくしも羽月さんのお友達ですもの」


 「凄いね、羽月さん。やっぱり、あなたは・・・」


 物憂げな表情を浮かべた間宮さんだったが、何事も無かったように、手を拭き、卵焼きに箸を向けようとしていた。


 「私は」


 その言葉を口にした瞬間、不良が扉を仰々しい音を立てて、いつもの取り巻きを引き連れて来た。


 「邪魔するぜ!」


 「お邪魔するっすわ」


 「フン」


 間宮さんは矢車さんに助けを求めるように、話しかけていた。


 「あの人達、誰ですか?」


 「気にしなくてもいいですわ、間宮さん。バカトリオですから」 

 何食わぬ表情で話す矢車さんに対し、間宮さんはバカトリオかぁと微笑みながら、歓談を続けていた。


 「受け入れるな、誰がボケカスバカトリオじゃあ!」


 「中さん、其処まで言ってないっスわ」  

 一通りのやり取りが終わった所で、矢車さんは不良に視線を合わせた。


 「ご用件は何ですの?まさか、また喧嘩なんて。野蛮の極みですわ」


 「ちげーよ。それとてめぇとは話してねぇんだよ、お嬢様!」


 「あら、わたくしの気品あふれるオーラを気付いてくれましたの。大変嬉しいですわ」 恐らく不良の悪口に全く怯まない矢車さんのメンタルは鬼のように、堅かった。


 「姉さん、こいつと話しても、埒が明かねぇよ。今はそれよりも」


 「そうだった、わりぃわりぃ。おい、しゅ・・・。はじゅこ!」


 はじゅこ?私は下向きながら、無視を貫いた。


 「姉さんが苗字呼び捨て・・・だと?」


 「いや、普通じゃないっすか?」


 こいつらのやり取りに付き合い切れない私は弁当箱を片付け、図書室に向かう為の準備を始めた。


 「待ってくれ、羽月。昨日は悪かった。あんたとは戦わないからさ。許してくれよ」


 どうやら、話が通じないバカではなさそうだ。 

 だが、会わないと言ったのに、会って来る。何より、あのことを許した覚えはない。 

 私はごちそうさまと2人に声を掛け、席を戻した。


 「あんたには、立会人になって欲しい。アタシは決めたんだ。あいつとの因縁にケリをつけるって。だから、ついてきてくれ。あいつを変えたあんたが必要なんだ」


 「くだらない」 

 その言葉は、私でも無ければ、矢車さんでも無く、間宮さんからの言葉だった。 その様子を私は二度見してしまった。


 「ま・・・間宮さん?」


 「ど、どうしましたの、間宮さん?」


 私たちの静止を振り切り、間宮さんは立ち上がり、不良に近づいて来た。


 「な、誰だてめぇ・・・やんのか、こらぁ」


 「姉さん、相手が悪い。謝ってくれ」


 「どういう意味っすか、依?」 

 ざわつく不良を後目に、間宮さんは薄ら笑みを浮かべ、見下すように、不良たちを見つめていた。


 「自分達が何も出来ないことをいいことに、他人を巻き込んで言いたい放題やるなんて。言われた側の気持ちを考えたことありますか?」


 「だから、今こうやって、お願いしてるんですますだろうが。ひょろガキは黙ってろ!」 

 一歩も引かない不良だったが、間宮さんも一歩も引くようには見えなかった。


 「誠意があれば、何をしてもいいわけ?くだらないわ」


 「にゃんだとぉ?」


 「人の話も聞かない癖に、他人に自分の価値観を押し付ける。その上、言葉だけの誠意を見せつけるような人の言葉に何の意味があるって言うの?」


 間宮さんの尤もらしい言葉に、不良は珍しく委縮しているように見えた。 それよりも、こんな言葉を訴えて来る間宮さんの姿に私は驚きを隠せなかった。


 「本当に自分の意見を通したいのなら、あなたが変わりなさい。信じて欲しいなら、それが最初でしょ?」


 その言葉に不良は無言のまま、クラスを後にした。


 「中さぁぁぁん」


 「姉さん!」


 バカトリオは教室から、姿を消した。 


 「良かった・・・」 

 間宮さんは青ざめた表情のまま、後ろから倒れ込んだ。


 「間宮さぁぁぁぁん!」


 倒れ込む一歩手前、暁が現れ、彼女を寸での所で受け止めた。


 「間宮さん、平気?」


 そのまま、暁と朝さんは間宮さんを運ぶ為、保健室に向かい、私と矢車さんで、間宮さんの弁当箱を片付けた。 

 矢車さんは、荷物をまとめ、保健室に向かう為、教室を離れた。 

 その日の授業、間宮さんが現れることは無かった。


 終礼も終わり、私は図書委員の仕事の為、教室を後にしようとした時だった。


 「妃夜!」


 「なに?」


 「元気かなと思ってさ。それでなんだけど」


 「あんた部長なんでしょ?早く行きなよ」


 素っ気ない言葉で、その場を後にした私は素直になれない私自身を強く舌を噛んだ。


               4


 今日は9月に行われる体育祭の出場競技決めの日である。 

 紅組と白組というシンプルな構図で、クラス毎で決定される。 

 因みに我々、2年1組は紅組である。 

 運動神経が無いわけではないが、運動を好まない私にとって、この時期は苦痛以外の何物でもなかった。 

 来年からは、春開催という噂が流れているが、真偽は定かではない。


 「なお、暁と緋村は強制参加らしいぞ、頑張れ」 

 担任の石倉先生は、ぼやくように、その事実を2人に伝えた。


 「先生、それって、2人は出場決定ってことですか?」 

 加納さんの言葉に、石倉先生はそうそうととてもにこやかな表情で、話を続けた。


 「全国レベルのぉ・・・、部長様もいらっしゃいますからねぇ~」 

 石倉先生の笑みは何処か不敵で、何とも大人げないように見えた。


 「最初から、そのつもりですから」


 おーと歓声で教室中がどよめいた。そりゃそうだ、全国出場選手だもんな。 

 私には、関係ないけれど・・・・。


 「因みにクラス対抗男女混合リレーだから、緋村君とせなっち、後は」


 「勿論、わたくしが参りますわ!」 

 矢車さんはいきなり、手を挙げた。


 「他にやりたい人いませんかぁ~?」


 「加納さん、わたくしの扱い、酷くありません?」 

 加納さんは辛辣そうな表情を浮かべていた。


 「えぇ・・・。いいけど、勝ってよ・・・」


 「わたくし、彼女に何か、いけないこと、言ってしまいましたか?」


 私に意見を求めるなという視線で、矢車さんを睨んだ。


 順調に競技が決まり、私は出来ることなら、サボりたかったが、そういうわけにも行かず。出来れば、玉入れをやって、後はクーラーの効いた部屋で引きこもりたいと言うのが、本音だった。


 「次は二人三脚のメンバーを決めます。学年対抗なんで、各教室二組。男女は問わないそうです。誰かやりたい人いますか?」 

 加納さんの進行の下、誰もが手をあげることを躊躇う中、間宮さんがいきなり、手を挙げた。


 「はい。私、羽月さんと一緒にやりたいです」


 その言葉に教室が一気に冷え込んだ。


 「お、おい、間宮。無理すんな。お前は見学でも」 

 流石の石倉先生も、立ち上がり、間宮さんを静止した。


 「もしもの場合に備えて、暁さんを推薦します。如何でしょうか」 

 担任の言葉に目を向けず、間宮さんは再びとんでもない言葉を口にした。


 間宮さんは席に座り、咳き込み始めた。少し無理をしたように思えた。


 「間宮さん、その体で二人三脚は無茶だよ」


 「そうか゛も゛し゛れ゛な゛い゛」 

 間宮さんの目的は分からない。だが、ここで間宮さんの意志を裏切ることも出来ない。 それはすなわち、彼女の意志を裏切るに等しい行為だから。 

 しかし、私自身、これに賛同できる程の胆力も無ければ、行動力も無い。  


 「間宮さんの言う通り、暁ちゃんと秀才様で、走るべきだと思いまーす」


 「それな。いいコンビだし、何より、デキてるしな」


 「ヒューヒュー!賛成賛成!やっちゃえやっちゃえ!」


 「チョー面白そう。きゃはははははは」


 空気が悪くなってきた。夏祭りの一件が、此処まで尾を引いていたなんて。こんな形で露見したことが、私の心を激しく貶めた。 

 況してや、信じていた間宮さんがどうしてこんなことを・・・。


 「静粛に!」 

 加納さんの言葉で、教室は静まり返った。聞こえるのは、間宮さんのぜーぜーという音を残して。


 「そんなノリで、決められることじゃないの。息ピッタリで歩くのだって、況してや強制するもんでもないし」 


 「あたし、やりたいです」 

 暁の天にも届きそうな言葉が、教室をこだました。


 「せなっち、本気?」


 「妃夜はどうなの?」 

 暁は真剣そうな表情で、私を見つめていた。


 しかし、私の答えは決まっていた。


 「お断り致します」


 えぇーと教室中がブーイングの嵐だった。


             5

  結局、二人三脚は石倉先生のチョイスで、別の男子生徒がやることになった。 

 私は希望通りの玉入れと借り物競争に落ち着き、昼休みを迎えた。  


 昼食時、私は宮本さんに追求された。


 「何で、晴那の誘い断ったん?」


 「面倒くさいから」 

 冷淡な言葉に、宮本さんは呆れた表情をしていた。


 「感じ悪」  


 「それを決めるのは、羽月さんですわ。個人の意思は尊重すべきですわ」

 さも当然のように、矢車さんが席に割り込んで来た。


 「そうかもしんないけど、あんな言い方しなくても」


 「私は脚を引っ張りたくなかっただけ。それに・・・」 

 私には、他人に触れられない。触れたら、気分を害することを、暁も間宮さんも知っているはずだ。 

 あの場の勢いで、断らなければ、大惨事になっていた。 


 「ごめんごめん。そうだよね・・・。やっぱ、他人には触れたくないもんね」


 宮本さんの言葉に私は目が覚めるよな思いに駆られた。


 「知っていたの・・・」


 「多分、皆知ってるよ。天も知ってたでしょ?」


 「当たり前ですわ。わたくしは先生に聞いていたのですが」


 「何それ。茜は、噂で知ったんだけど」


 「何で、黙っていたの」 

 私の率直な疑問に、矢車さんはため息をついた後、静かに話し始めた。


 「それを話しても、良い解決にはなりませんわ。それを一番理解しているのは、羽月さんでしょ?」


 皆が私に気を遣っている。皆の優しさが胸に沁みた。 

 だからこそ、甘えてはいけない気がした。


 「それにしても、晴那のアレは置いておくとして、間宮さんは何故、あのようなお言葉を仰ったのかしら?」


 「茜に聴いても、分かんないよ。それこそ、間宮さんのみぞ知るなんじゃね?」


 「あなたには聞いていませんわ、茜」


 「うっざ」  


「同じ小学校だけど、よく分からないのが、本当。間宮さんはあんな人じゃなかった気がするけれど」 

 本音を言えば、私は間宮さんのこと、何も知らないのが、本音だった。


 「ねぇ、最近、晴那と話してる?」


 「いいえ」


 「平気ですの?」


 「何が?」


 「いいえ、ただ、最近の羽月さんは、その・・・」


 「何?」


 「何処か、暗い表情を浮かべていると言うか・・・」


 「私が?」


 「ちょっと、天」


 「私は元気よ。いつもと変わらない」 

 そう、私は元気だ。暁が居なくても、それは変わらない。 

 そう、彼女が居なくても、私はもう大丈夫、大丈夫なはずだ・・・。


 「Sorry for the wait」 (おまたせ)


 ブロンドが、矢車さんたちの下に駆け寄って来た。 

 彼女は、私に視線を合わせない。 

 どうやら、私は彼女に嫌われているらしい。或いはどうでもいいのか。 


 「妃夜!」


 「そろそろ、授業始まるよ」 

 どうして、こうも素直に言葉を返すことが出来ないのだろうか。 

 気丈に振舞っている彼女に冷たく接することしか出来ない私は私が嫌いになりそうだった。


                6


 その日の放課後、今日は待っててと暁からの連絡があったので、近くのコンビニで待機することになった。


 「お待たせ!ごめんね、色々立て込んじゃって」 

 教室に現れた暁は、いつも通りの元気そうな彼女に見えた。


 「いいんだけど・・・。話って、なに?」


 「息抜き」


 「息抜き?」


 「何か買おうか?」 

 暁はスマホを取り出した。


 「いいよ、別にいらない」


 「いいからさ」 

 強引な彼女に、私は仕方なく押し切られた。 先ほどまで、冷淡だった私は、彼女にプリンをごちそうして貰うことにした。


 コンビニを出て、私と暁はお互いの自転車を押して帰ることにした。


 「買い食いする?」


 「絶対イヤ」


 「いうと思った」 

 暁のいつも通り過ぎる態度に、私の調子は狂ってしまうばかりだ。 本当にどうしたもんかと頭を抱えていた。


 「ねぇ」


 「茜から聴いた。夏祭りの件で怒ってるんでしょ?」


 「怒ってるわけじゃ・・・」 

 どうしよう。夏祭り以降、直接会うのが久々過ぎて、距離感をリセットしてしまった気がしたからなのに。


 「まぁ、いいや。聴く?あの時、何があったか?」 

 8月の終わりが近づいているとはいえ、夜でも蒸し暑いこの時間。 

 夏の暑さで、どうにかなってしまいそうな私はすぐに言い出すことが出来なかった。


 「やっぱ、いいか。その時じゃないよね」


 「いや・・・。うん、やっぱり、今じゃない気がする。今は聞かないでおく」


 「そうだね」 

 何処か、曇っていく暁の表情を後目に暑さに侵された私はずっと、聴きたかったことを聴いてしまった。


 「全国残念だったね」


 「もしかして、気遣ってたの?」 

 照れる私に暁はいつも通りに見えてた。 

 うんと頷く私に彼女はあはははと照れくさそうに笑っていた。


 「いいよいいよ。終わったことだし、まだまだこれからだし」


 「そうかもしれないけど」


 「それより、今の方が辛いなぁって」 

 下を向いて、話し続ける暁に私は見つめることしか出来なかった。


 「部長なんだけどさ。全国はレベルが高いし、他の部員の面倒とか、ОGはうるさいし」


 「大変なんだね」


 「大変だよ~。今日はバックレて来たし」


 「はっ?」


 「冗談だよ、冗談。今日は短い練習だっただけ。オフもあるけど、勉強もしてるし」 暁から出て来た冗談みたいな言葉に私の思考は固まった。


 「冗談でしょ?」


 「本当だよ。石倉先生に、取り続けろって言われてさ」


 「そうなんだ・・・」 

 彼女の成長ぶりに、私は自分の不甲斐なさを痛感するばかりだった。 

 暁は変わろうとしている。部長として、一人の陸上選手として、そして、学生としても。


 「暁は凄いね」


 「ん?何が?」


 「そんなに頑張れて、私なんて」


 「そう思わせてくれたのは、妃夜のお陰だよ」 

 彼女は自転車を止め、私に目を合わせた。


 「妃夜はいつも頑張っているからだよ」


 「私は頑張ってはいない。いつも、誰かに守られてばかり、暁みたいにはなれない」


 「何言ってんだよ。自分は頑張ることしか出来ないって、言ってたの何処のだれ?」 それは一学期の自身が発した言葉だった。


 「あの時はあの時、今は今。人は変わるわ」 

 言い訳にしては、とても浅く、どうにも歯切れが悪く思えた。


 「めんどくせぇ」


 「うっざ」


 「やっと、調子上がって来たんじゃない?やったやった」


 「何よ、それ」


 「もっと、自分を好きになりなよ」


 「あなた、本当に暁?気色悪いんだけど」


 「気色悪いって言われるの心外なんだけど・・・」 

 落ち込む彼女を後目に私たちは、何気ない話で時間が過ぎていく。 

 本当は誰かとこうやって、話がしたかっただけなんだ。 


 「やっぱり、妃夜と二人三脚したかったなぁ」


 「嫌よ、いくら運動しているとはいえ、あんたと一緒に歩くなんて、絶対イヤ」


 「そういうなよぉ~。練習しようぜ」


 「お断り致します。あんな密着した状態で歩くなんて、絶対イヤ」


 「そんなぁ~」 


                7


9月に入り、体育祭まであと1週間の休日の早朝。 体を動かす為、親に頼んで購入したジャージと靴を履き、ランニングに出かけた時のこと。


 一人、街中を自分のペースで走る爽快感と頭ではいい調子と考えていても、全然動けていないことを自覚しながら、少しばかり、走り込んでいた。


 この辺でいいかと思い、クールダウンがてら、公園を散策していると一人、正拳突きを黙々と行っている女性がいた。


 「あっ・・・」


 「あっ・・・」


 あの不良と目が合ってしまった。時刻は午前6時半。 


 彼女は構えを止め、手を振ったが、私は逃げたい気持ちを抑え、不良に近づいた。 


 「おはよう」


 「おう・・・」


 照れているように見えたが、彼女の真意はよく分からなかった。


 「いつも、ここで?」 

 話さないと決めたはずの彼女と話している自分に驚いたが、不良も同じように見えた。


 「色々渡り歩いてる。朝はいつもだな」 

 道理でその体つきか。鍛えているわけだ、本当に格闘家にでも転身すればいいのに。


 「あんたは、ランニングか?」


 「そうだけど・・・」


 「頑張ってんだな」 

 この不良から、そんな言葉が出て来るなんて、信じられなかった。 

 彼女も彼女なりに、変わろうとしているのか。


 「聴きたいんだけど」


 「どうすれば、アタシみたいに強くなれるか?」


 「なんで、私と戦いたかったの?」 

 あの時の失言を思い出したのか、照れた様子で、私を見つめていた。


 「あれは・・・あれだよ」


 「何?」


 「お前が、暁と仲良さそうだったからさ。お前に勝てば、暁は振り向いてくれるって」 

 振り向いてくれる?彼女は何を言っているのだろう?それじゃ、まるで・・・。


 「もしかして・・・あなた・・・。暁のことが・・・」


 「そうだよ、アタシは暁がLOVEだ。あいつのことが、好きで好きで仕方ないんだ」 どうして、そんなこと、真っ直ぐ言えるのか。私には理解出来なかった。


 「アタシは本気だ。あいつの隣にいるべきなのは、アタシだけだ。あんたじゃねぇ」 不良の言葉は冗談や酔狂ではないことは、大いに理解出来る。 別にどうのこうの言いたいわけじゃない。  


「どうして、暁にそこまでこだわるの?」


 「好きだからに決まってんだろう」


 「あなたの好きがどんなものか、私には分からない。だったら、何で隣にあなたが居ないの?」 

 それが地雷だと頭では理解していた。 

 しかし、言わずにはいられなかった。言わなきゃ、向き合えない。 

 自分にも、暁にも。 飛び込まなきゃ、前には進めないんだ。


 「良い度胸してんなぁ。流石は、暁の彼女だ」


 「違います」


 「いいぜ、教えてやんよ。あいつの過去、アタシとあいつの」


 「長くなりそうなんで、帰るね」 

 私は走り出そうと後ろを振り向いた刹那、一瞬で回り込んで来た不良に戦慄を覚えた。 

 それと時同じくして、私の視線に人影が入って来た。


 「吹っ掛けて来たのは、あんただぜ?shareじゃねぇだろ」


 「いや・・・。そうだけど・・・」 

 それを言うなら、フェアだろうがと言いたいが、面倒くさかった。


 「付き合ってくれるよな?長くなるぜ?」 

 踏み込まなきゃ良かった。そう思った時だった。


 「何やってんの、2人とも」 

 不良の背後から、聞き及んだその声は紛れもなくいつもの声と砂音を踏みぬく音が聴こえた。


 「なんで、おめぇがいるんだよ・・・。晴那・・・」


 体育祭まで、あと8日。 

 暁と不良の負けられない最後の戦いの幕が開こうとしていた。

 傍観者の私はただただ見てるだけなんだけど。

 

 

 

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