第22話 仮初めの英雄①

 ―『王都防衛軍』。


 『神聖アルト国』の中でも、もっとも『征錬術』の技術が優れていると言われる都―『王都シュヴァイツァー』。その『王都シュヴァイツァー』が誇る優秀な『征錬術師』集団―それが、『王都防衛軍』である。


 第一部隊から第五十部隊まであり、その人数はおよそ一千人にも及ぶ軍隊。そして今、その隊長格の人間達が集まり、作戦会議用に使用されている大広間にそれぞれ鎮座していた。その表情は揃いも揃って、神妙かつ、険しいものだ。


 大広間には、巨大な円形のテーブルが中央に置かれ、全員が向き合うような形で配備されている。そこに鎮座している隊長である者達の年齢はバラバラだった。


 椅子に深く腰掛けた老人を始め、五十代くらいの巨漢、飄々とした風貌だが、どこか落ち着きを感じさせる四十代前後の男、目を閉じ座ったまま微動だにしない三、四十代の女性……と、特徴こそあるものの、やはり年齢にまとまりは無い。


 共通していることと言えば、いずれも三十代以上の人間ばかり、ということくらいだろう。そして、その隊長達の中で、一際目立つ者が居た。


 トニス・ルートリマン。

 〝王都防衛軍第十三部隊〟の隊長である彼もまた、椅子に座り、集まっている顔ぶれを眺めていた。『王都防衛軍』は若手の人間が多いが、それも隊長格ともなると、話は別だ。


 ほとんどの人間が威厳のある顔立ちをしており、年齢もかなり高齢の人間が多い。その中で圧倒的に若いトニスは、やはり居心地の悪さがどうしても拭えなかった。


 トニスのそんな様子に気付いたのか、隣に深く腰掛けていた〝王都防衛軍第十二部隊〟の隊長―ケニカ・ノーグウォンが話し掛けてきた。


「そうかしこまらなくて良い。……と言っても、君はまだ、ここの連中と比べて若いからな。緊張してしまうのは、無理も無いか」


 落ち着いた雰囲気を纏ったケニカは、そう言って笑った。彼は年齢層の高い『王都防衛軍』の中でも最も年齢が高く、その落ち着きさもあり、軍の中では仲裁役のような役目を担うことが多い。


 若い頃からその冷静さを買われ、〝策略家〟と称されており、紛争や危険分子の侵入などから王都を守ってきていたという。現在でもその力は衰える事を知らず、先の『魔術師襲来』の際、ケニカが担当していた区域での被害はほとんど無かったという。迅速な対応とその頭脳で、住民達を救ったのだ。


 トニスはそんな彼に対し、敬意を表すのを忘れずに向き直った。


「ケニカ殿、要らぬ心配をお掛けしました。あなた方と同じく、隊長と言う任を預かっているにも関わらず、この様な醜態を晒してしまうとは……申し訳ありません」

「はっはっ。君は気真面目過ぎるな……いや、だからこそ、その年齢で隊長に任命されたのだろうがな」


 あまりにも畏まるトニスに、ケニカは歳を感じさせる低い声で小さく笑った。

 しかし、それも一瞬。ケニカはその笑みをすぐに消すと、真剣な表情を作りながら、視線を隣に座るトニスへと向けた。


「……時に、トニス隊長。君は、今日、我々隊長達が招集された理由を知っているだろうか?」

「……いえ。私の所には招集命令が届いただけだったので、詳しい理由については、何も……」


 トニスの言葉に、ケニカは、「ふむ」と白く伸びきった長い髭を擦る。彼はしばらく何か言葉を選ぶような仕草をしていたが、やがて、声を低くしながら小さく呟いた。


「……来たんだよ。また、『彼ら』がな」


 その言葉に、トニスは驚きの表情を浮かべた。

 ケニカの『彼ら』と呼んだもの―それが指すものが、なんであるかが分かったからだ。


「もしや、『魔術師』ですか……?」


 トニスの言葉にケニカはゆっくりと頷いた。その様子に、トニスは自分でも気づかないうちに、知らず手に力が籠もる。


 自分達が手も足も出せなかった相手、それと再び対峙しなければならない……その事実がトニスの肩に重く圧し掛かる。


 ケニカはトニスのそんな様子に何かを感じていたようだが、ふと視線を大広間の入口へと向けた。


「……さて、どうやら〝第一部隊〟の隊長がお出ましのようだな」


 ケニカの声にトニスは視線を向けると、丁度、眼鏡を掛けた長身の男が入口から入って来るところだった。黒く長い髪を後ろに束ねた三十代くらいのその男は、冷たく鋭い視線にフレームの小さい眼鏡を掛けていた。


 ルーレック・シュバノス。『王都シュヴァイツァー』が誇る『王都防衛軍』。その中で、最も重要な立場に位置している〝王都防衛軍第一部隊〟―彼はその〝王都防衛軍第一部隊〟の隊長であり、薄い切れ長の目は、まるで全てを見透かしているようにも感じる。


 〝氷の軍神〟とも呼ばれる彼は、その名の通り、氷のように冷徹な思考は敵だけではなく、時に味方すら恐怖を感じさせるという。

 ルーレックは大広間の一番奥の席に座ると、座っている隊長達を見回す。まるで、置いてある彫像でも見るかのようなルーレックの視線に、トニスは少し寒気すら感じた。


 そして、隊長達の顔を一通り眺め終えると、ルーレックはその細い外見から出ているとは思えない大きな声を張り上げた。


「隊長諸君、今回集まってもらったのは……他でもない、我が王都に再び危険が迫っている為だ」


 隊長達の間にざわめきが起こった。予め聞いていたトニスやケニカ以外のほとんどが、その事実に驚きを隠せないようだった。

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