第4話「イントロダクション!」

 しゃれこうべのような屋敷の内装は、意外にも小さな洋館という風だった。

 一階のリビングは事務室のようなっていて、寝室はどうも二階にあるらしい。


「ここがご主人様の活動拠点となります」

「そうなんですか……」


 やはり何も聞いていないタナト。

 詳しく説明を受けずに言うことを聞いてしまうのが、彼の悪い癖。

 イアムはその金髪をキラキラと煌めかせながら、一階事務所のタナトの席を紹介する。

 その席の椅子は背もたれにクロスした二つの鎌のような飾りがあって、骨組みはまさしく骨そのもののような形状。

 屋敷の外装と同じく、死神らしさに溢れていた。


「……厳ついですね」

「ご主人様が喜ぶと思って!」

「はは……ありがとうございます」


 タナトが取り敢えず椅子に座ると、早速イアムはどこからか資料を取り出した。


「では改めまして……。私がこれからご主人様のサポート全般を務めさせて頂く、ほうきだかイアムです。この島での暮らしに関して困ったことがあれば、どうぞ私に何なりとお申し付けください」

「……あ。や、やっぱりこの事務所……イアムさんと使う感じですか?」

「はい! というか私もここに住みますので!」

「うへぇ!? そ……そうですか……」


 つまり同棲である。


「申し訳ありません。そういう手筈だそうでして……」

「……いえ。分かっています」

「え?」

「冥王様がオレに女性死神育成計画を任せたのは、同時にオレの弱点を解消させるためでもあるんです。この配置も冥王様がお決めになられたこと……」

「女性恐怖症……ですか」

「ええ。死神のメインの仕事は死者の未練を断ち切り、成仏させることだというのに……。オレは女性に強く出られないので、説得とか交渉とか、そういうのが無理で……」

「けど今は私と普通に会話できてますよね?」

「ま、まあ会話くらいは。それと、今みたく一メートル以上離れていれば、そこまで怖くはありません」

「目も合いませんね」

「すみません……」

「いえいえ! お気になさらないでください! 私はご主人様がその弱点を克服できるよう、誠心誠意お力添えさせて頂くだけですので! 何も心配は要りません! メイドさんは無敵ですから!」

「関係あるんですかね……」


 苦笑しつつも、タナトはイアムの真っ直ぐで純粋な厚意をありがたく感じていた。

 というか、若い金髪メイド少女と同棲できるのだから、もっとありがたみを感じるべきである。


「無茶を言わないでくださいよ……」


 仕切り直しの挨拶を済ますと、イアムは手持ちの資料に目を向ける。


「ではでは! ご主人様の今後の活動内容についてご説明させて頂きます!」

「そういえばオレ、何も聞かずに来てしまいました」

「そ、そうなんですか? でも大丈夫! ここではご主人様が一番偉いですから! 何をしても許されますので!」

「いやいや」

「……そうですね。先程も申し上げましたが、ご主人様のお仕事のメインは『育成』と『選定』です。この島にたくさんいるメイドの、死神としての能力を養い! そして死神に相応しい人物を選び! 大手を振るって現世に送り出す! 死神として最高に優秀なご主人様であれば、最低限死神に相応しいかどうかの判断は出来るものと存じています」

「存じられちゃいましたか……」

「差し当たってはまず、ご主人様に明確な『基準』を公表して頂きたいと思います」

「『基準』……つまり、どの程度の能力があれば死神として十分かというハードルのことですかね?」

「仰る通りですとも!」

「いきなり結構面ど……いや、難しい話ですね。明確な基準があれば、冥界も人材難になっていないものだと思われますが」

「ああ、難しく考える必要はありませんよ。実は私達の方で、提案がありますので!」

「提案?」


 するとイアムは資料をその辺に放り投げ、パンッと手を合わせた。


「ポイント制です!」

「ポイント……?」

「ご主人様はご自身の判断を信じ切れていらっしゃらないようですが、私達は違います。要するに、ご主人様が『良い』と思ったその時そのメイドに! 一ポイントずつ与えればいいのです! 最終的に百ポイント分の評価をご主人様から頂けたメイドだけが! この島を卒業する! どうですか!? シンプルだと思いませんか!?」

「……シンプル過ぎませんかね? そんなので良いんでしょうか……」

「実は私達も死神として相応しい基準など知らないのです。そして恐らく、冥王様ですらご存じないことでしょう。なにせ『死神』という役職はそもそも、定職ではありませんからね!」


 『死神』は採用試験があるような、冥界社会の規則に定められた職業ではない。

 だが、およそこの冥界に社会が生まれるよりも以前から存在している。

 そしてなあなあなまま現在まで来てしまったため、最早職業にすら区分されていない。

 実はこのもりタナト、冥界において未だ誰もやったことのないことをさせられているのだ。


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