第5話「暫定島内メイドランキング!」

 屋敷に荷物を置いたタナトは、イアムに連れられて島の町域中心部に向かって行った。

 向かう途中、やはり島民メイドたちに熱い視線を浴びせられ続ける。


「あれが……」   「公爵様よ!」 

  「銀髪なのですね……」

 「ああ凛々しい表情……」「そうかな?」 


   「生まれて初めて男の人見た……」

 「男性という話じゃありませんでした?」


「男でしょどう見ても」

     「ちょっと女の子っぽい」


 無数の女性に囲まれて、タナトは頭が既に真っ白になっている。 

 無論、囁き声など聞こえていない。

 歩きながら景色を見ることもなく、気が付けば冥土島の町の中心・中央広場に辿り着いていた。


「ご主人様! どうぞご覧ください!」

「な、何をですか?」


 イアムが手の平を向ける先、そこには巨大な塔の如き電光掲示板があった。

 映っているのは人の顔とその名前、それに数字と、その意味を示す文字だ。


「……『ランキング』……?」

「そうです! これは暫定島内メイドランキング! この冥土島で優秀なメイド上位二十名が、こちらの電光掲示板に載せられています!」

「死神としての格付けではなく?」

「メイドとしての格付けです!」

「……意味あるんですかね」

「ありますとも!」


 あるかどうかを決める役を担っているのが、このタナトだ。

 そして彼は今、『ない』と思ってしまっている。


「しょうがないでしょ」


 それでも彼女には言えない。

 女性に対して否定的な意見を言うのが恐ろしいからだ。


「ま、まあほら、まだ分かりませんから。そのうち納得できる理由が出てくるかもしれませんし」


 いや、どう考えても『メイド』と『死神』には何の相関もない。

 あるわけがない。


「それ言っちゃったら終わりでしょうが!」

「ご主人様。あちらが現在この島のメイド全員から、ナンバーワンの評価を受けているメイドです」

「え? あ、ああはい」


 言われてタナトは『ランキング一位』のメイドの表示を見る。

 仮面を付けた、ピンク色の長髪の女子だ。

 やはりもちろん、メイド服を着ている。


「……仮面……? 何故彼女は仮面なんですか?」

らいかんアオイ……それが彼女の名前です。通称〝完璧オールマイティ〟。容姿端麗、博学多才、運動神経抜群の才女なのです!」

「容姿は……仮面の所為で分かりませんけど。何故彼女は仮面を?」

「分かりません」

「そうですか」


 取り敢えずタナトは、このナンバーワンのメイドの少女のことを記憶しておく。

 もっとも、メイドとしてナンバーワンだからと言って、死神として優秀かどうかには全く関係がないが。


「だからそれを言っちゃお終いですって! …………ところで、イアムさんの順位は……」


 苗字を覚えられていないタナトは、それがバレないようにランキングの中から彼女の名を探す。


「い、いや、覚えてないっていうか、別にオレはその……」

「それじゃ帰りましょうか! ご主人様!」

「え?」

「さあ!」


 来たばかりなのに帰らせようとするイアムの額には、若干の汗が流れていた。

 しかし、このタイミングでタナトは彼女の名を見つける。


「……ああ、四位ですか」

「ぐはぁっ!」

「え?」


 イアムはわざとらしく大きめにのけぞった。


「わざとじゃないですが! 申し訳ありませんご主人様! 私はメイドとしてはまだまだ未熟でして……」

「いやいや。四位なら十分上じゃないですか」

「いえ。半分組織票みたいなものなので」

「うぉう」


 最早この暫定ランキング、何の為にあるのか全く分からない。

 もしかすると、この島における影響力を表す指標なのかもしれない。

 タナトはそこまで思考が働いていないが。


「……でもでも! ご主人様のサポート役としては活躍できる自信があります! いえ! 必ずしますとも!」

「あ、ありがとうございます。しかし一体どこからそこまでの熱意が……」

「……それは……」


 そこには深い事情がある。

 女性しかいない島の中で、彼女が男であるタナトのサポート役を買って出た理由は──

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