第5話:祭りのあとの静けさ。
「でも私、最初のお客さんが福ちゃんでよかったです」
「最初の客?・・・僕が?」
「うん、レンタルヘブンで最近オープンしたばっかだから・・・」
「これから少しずつお客様が増えていくかもしれませんけど、やっぱり最初の
お客様は特別・・・だから最優先するからね。福ちゃん」
「あ、ありがとう」
「そうなんだよね・・・まあ顧客がついてくれないとアリエルも困るだろうし」
「建前だけの付き合いかもしれないけど・・・僕は楽しかったよ」
「僕も僕の彼女がアリエルでよかった」
「あのさ・・・聞くけど、このシステムって専属ってできないの?」
「専属?」
「そう・・・呼ばなくても毎日定期的に時間が来たら来てもらえるとかって」
「いいですけど・・・だけど福ちゃん、そんなおバカなことしら、お金も
おバカになりませんよ・・・いつか破産するの見えてます・・・」
「金銭的に余裕がある時に私を呼んでくださったほうがいいと思いますけど」
「そうか・・・タダじゃないんだった・・・めちゃ落ち込む」
「福ちゃん・・・私にいてほしいの?」
「君を好きになっちゃいけないんだろ?・・・タブーなんだよね?」
「こんな形でも、せっかく巡り会えたのに・・・時間が来たら君は帰っちゃう」
「君が帰っちゃうとひとりでいた時より余計寂しくなるよ・・・」
「祭りのあとの静けさって言うか・・・幸せだった後の寂しさって嫌でしょ?」
「そんなぁ・・・そんなこと言われると私、帰れなくなっちゃうじゃないですか?」
「もう福ちゃん・・・ダメだよ」
「これは特別ですからね」
そう言ってアリエルは僕にハグしてくれた。
そんなことされたら、そのまま押し倒したい衝動にかられるじゃん。
「また来てあげますから・・・元気だして・・・ね」
「スマホの連絡先の交換はできませんからレンタルヘブンのほうに直接連絡
ください」
そしてタイムリミットが来てアリエルは僕に手を振ってドアを出て行った。
僕はしばらくの間、放心状態だった・・・。で、ふと思った。
天使ってどうやって天界から来るんだろう?
帰って行くときは、空に向かって飛んで効くのかな。
もしかしてその姿が見れるかと思って、急いで外に出て空を見上げてみた。
だけどアリエルの影も形もなかった。
今はもう誰もいない寂しい部屋・・・アリエルがいるだけで部屋の空気が変わるな。
自分とは違うって意識と異性が横にいるってだけで僕の感情は揺さぶられる。
僕はすっかりアリエルの虜になってしまった。
でも彼女は言った。
あくまでレンタル天使ですからね、勘違いして本気にならないでくださいね
って・・・そうなったら対応できなくなりますからって・・・。
僕とアリエルの間にはレンタルって商売の大きな壁が立ちはだかってるんだ。
もし僕が下心を見せたら彼女は来なくなるかもしれない。
ここはじっと我慢して、彼女に来てもらうしかないのかな。
アリエルは僕のことなんて客としてしか見ていないんだろうな。
僕にとってこの日の出来事はまるで夢のような出来事・・・だけど、なぜかもう
二度とアリエルには会えない気がした。
なんで酔っ払って彼女を呼んだりしたんだよ・・・もう気持ち戻せないじゃん。
人を好きになったら目の前の世界が変わってくる。
アリエルといる時は楽しいんだけど・・・帰っちゃうと切なくて泣けそうだ。
こんなに切ない思いするならレンタル天使なんて呼ぶんじゃなかった。
つづく。
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