第2話

ストーン殿達を振り切り随分と走ってからゆっくりと馬の足を止める。

後ろからついてきているのは騎馬のみというのは気配で確認しており、器士にかけた人員がいないことにほっと息を吐いて振り返る。


振り返り確認すると、確かに騎馬は5騎だったが、予想外いや、ある意味予想通りというべきか、1騎だけ乗馬していたのは器士ではなく従士であった、そして足りないのは戦闘開始前に釘を刺していたラクトであった……


「ラクトは何と残した?」

彼がどうしていないのか等聞くまでもなく、従士である彼を庇って自分の騎馬に乗せ逃げさせたのだろう、ならば聞くべきは彼の遺言だ


「ラクト様は…ラクト様は、斬られるのは意外に痛いものだと馬鹿にしていたが私も泣き言を言いそうだと……」


その遺言を聞いて俺達残りの器士達は顔を見合わせて笑う。

彼はいつも戦場で自分ならば斬られても笑っている自信があると言い切っていた、そんな彼だからこそ最後に遺言としてそんな言葉を残したのだろう。


「申し訳ありません自分が生き延びたせいでラクト様が……」

馬を渡されて生き残った従士は顔を伏せたままこちらに詫びる、その顔は真っ青で今にも自ら命を絶ちそうなほどだ、だからこそ俺達は彼の遺言を聞いて笑うのだ。


「そういえばあいつは斬られた俺を見て情けないと笑っていたことがありましたな」

そういったのは若い器士のコクジョウあった。

ラクトのことを慕ってはいたが、ラクトとの訓練で腕の骨を折られて弱音を吐いたところを笑われた記憶が読みがったのだろう


「まったくあいつときたらもっと残す言葉があっただろうに、娼婦のララちゃんに何か残すくらいの可愛げがあってもよかったのにのう」

そういったのはオルレアンと共に副長として団を支えてくれているリュウゲンであった。

オルレアンと共に40代である彼にとってラクトも弟子のような存在であり、そんな弟子が自分に思いを寄せている娘に対して何も言わずに死んだことに不満があるのだろう。


「お前が謝ることはない、いいかラクトは自分の意志でお前を生かしたのだだからお前がするべきことは謝ることでも自ら命を絶つことでもない、幸せになれ」


そういって馬を寄せて従士を慰めるのはセキウだ、厳つい顔をしている男だが優しい男でもある。

他の人間はあえて笑い話で流そうとしてる中で彼だけはそれだと彼の気持ちが晴れないと思って慰めたのだろう。


「セキウも言う通りラクトには何度も言い聞かせてその上でお前を生かして自分が死ぬという選択をしたんだ、そしてお前はその手を取って生き残ることを選んだのだから俺としてもお前にはこれから幸せになってほしい」

俺の言葉に涙を流しながらこちらを向くと馬から降りてこちらに近づき馬の手綱を渡してくる


「ありがとうございます、団長、俺もう戦うのが怖くて…」

震える手でこちらに伸ばす手から手綱を受け取り、彼の頭に手を置き乱暴に撫でるラクトはよくこうやってこの従士を慰めていたことを思い出しながら


「わかった退団を認める、それとこれを受け取れ」

震えている彼の手に金貨を数枚手渡す、これは今回の戦での前払いでもらった金の分配金であり、彼には受け取る権利がある金だ。

だが彼は受け取った金貨を「受け取れないと」いいこちらに押し付けようとしてくる。


「だがお前金も仕事もなくなるんだぞ?それでラクトが望んだ幸せな人生を送れるのか?次の落ち着ける場所が見つかるまでの生活費のあてもないんだろう?」

俺の言葉に彼は返事を出来ず頷くだけだ。


「いいかい、ラクトは君に幸せになってほしくて生き残らせたんだ、君が不幸に後悔しながら生きることを誰も望んでいないんだよ、だからこのお金は受け取るんだ、ただし俺達から君にすることはここまでだ、もしこの先君が生きることに困って山賊に落ちた後、俺の前に姿を見せれば何も情をかけずに殺す、わかったね?」


俺の言葉にグッと言葉を飲み込んでから金貨を受け取り、頭を下げるとそのまま近隣の村へと歩いていった。


「さぁ皆、馬車と合流しよう」

負け戦で友を一人失った、だが傭兵なんて家業をしているのだ友を失う覚悟はとっくに出来ている、生き残った俺達がすることは前を向いて進むことだ、もし俺が死んだときもそうしてほしいのだから


===


しばらく馬を走らせると前方に馬車が見えた、合流予定地は前方にある農村だったが追い付けたようだ。


俺が馬の脚を緩めると、向こうから馬に乗った部下たちが近づいてくる。

近づいてくるのは馬に乗った器士が3人護衛として2人が残っている。

だがそれ以外徒歩で歩いているはずの従士の気配は一人もいないのが気になるところだが


「従士なら途中で武器を抜いて馬車を襲おうとしたので全員

そういったのは馬車の護衛を任せたオルレアンだった。

予想していたが器士相手に略奪できると思っていたのだろうか、そこまで考えなしだっただろうか?と思っているとオルレアンが追加で理由を説明してくれた。


「逃走中別の傭兵団と進行方向が被りましてね?それで対応に4人の器士が出たところ残ったのがわし一人だったのを見て今ならと思ったのでしょうな、武器を抜いて娼婦と馬車内の物資を奪おうとしたので皆切り倒してやりましたわ」

ハハハと大きな声を上げて笑い、心器を持っていない手をぶんぶんと振る。

そんな様子にサマナは頭を抱えている。

結果的に従士は全滅、補充が大変になったが元よりこの戦で生き残った従士は使えないだろうと予想していた為ここで全滅しても生き残りがいても関係ないと言えば関係ない


とはいえ、サマナとしてはこれら一連の流れが自分のミスが原因だと思っているので被害が大きくなればなるほど心を痛めているのだろう。

そんな彼に追加で心労を足すのは申し訳ないのだが言わないわけにもいかない。

俺が口を開こうとするとそれよりも早く一人の少女がこちらに向かって走ってくる

「ラクト様は?ラクト様はどちらに?」


少女はこの傭兵団で雇っている娼婦であり、ほぼ専属であったララという少女だ。

彼女がラクトのことに好意を持っているのは誰の目にも明らかだったし、わざわざ仕事のモチベーションを下げることもないだろうということでララに関しては団内で他の男の相手をしなくてもよいという指示が俺の名のもとに出ていた。

ララの言葉を聞いてラクトがいないことに気づいたサマナは顔を青くしてこちらを見る。

従士だけならともかく器士まで自分が選んだ任務で失ったとなれば倒れてしまうかもしれないが仕方ない。


「ラクトは死んだよ、従士の一人を庇って自分の持つ馬を与えて、遺言は斬られたら泣くほど痛いだ」

俺の言葉にララは理解するまで時間がかかったのだろう少し経ってからその場に膝をついて泣き崩れると、サマナは青かった顔を白くして馬車にもたれかかっている。

器士は貴重だ何より長い器士達は皆俺が西で暮らしていた時からの付き合いで傭兵団を作る前からずっと一緒にいた者たちだ、当然俺にしても従士とは比べ物にならないほど悲しい、何より戦力という意味でも今後に大きく響くだろう。


「アム、悪いが一足先にハームの街に戻って娼婦の補充を頼む、オルレアンとセキウは馬車の護衛についてくれ、ララはたぶんもう駄目だろうから、正規の手順で退職金を渡してハームの街で自由にさせてあげてくれ」


俺は娼婦の取りまとめをしているアムにそう話しかける、ララはもう娼婦として働くことはできないだろう、退職金を渡せば街で唯の村娘として生きることもできるだろう。


「残った俺達はあの先の村で従士を補充する、今回は最大でも10人までと人数を制限することにする、サマナ1か月程は訓練の期間を設けるから依頼はそれ以降に受けるその間近隣の情勢と受ける依頼の選別を頼む、今回は俺が従者を増やしすぎたことが問題だからな、お前の仕事は信頼しているこれからも頼むぞ」


アムとサマナの二人は頭を下げるとアムはララを優しく抱き起して馬車に連れていき、サマナはオルレアンとセキウの二人を連れて馬車へと向かうのだった。


「さて俺達はあの農村に向かうぞ、従士を農民の3男以降から募集しよう、お行儀よくするんだぞ?」

俺の言葉に他の器士達は笑いながら続き、俺達が農村へと近づくと農村の入り口に粗末な槍を持った若い男が3人こちらに警戒するように槍を向けてくる。

さらに後方から弓を持った狩人が配置される、まだ矢を用意していないがこちらの動き次第ではいつでも射れるように準備をするだろう。


「こちらはソレイユ傭兵団だ、兵員の募集と思ってこちらの村に寄らせてもらったのだが」

俺の言葉に対する反応は2分された。

片方はこちらに対して好意的な反応を返すもの、もう片方は嫌悪感を向けるものだ。

こちらに好意的なのは恐らく農家の3男以降、家でにされてる者だろう、対してこちらに嫌悪感を向けるのは家主や長男等だろう。

農村では長男以外は嫁を貰えない家も多い次男は長男の予備として見なされることが多いし嫁が与えられることもあるが3男以降となれば家に住んで単純な労働力として最低限の食事を与えられるだけの者も多い、そんな彼等にとって生活を変えるための手段の一つが傭兵なのだが、3男以降の都合のいい労働力を傭兵として取られれば家としては大きな労働力を失うことになるのだ。

その為、農村からすれば飢饉の時ならともかく平時には傭兵団が来て募兵をされたいわけではないのだ。


「今回は10名ほどを予定している、もちろん希望者がいないのならすぐに出ていくが王国法に基づいた募集をすると約束しよう」

現在俺達のいるところは東の国と呼ばれる地域だ、この地域では傭兵の募集について国が一定のルールを設けており、農民の三男以降といった家の存続にかかわらないものは積極的に傭兵になることが推奨されている。


また地域規模での小さな戦いは器士の実力を上げるために必要なものとして認めており、各地域で蟲毒のように子競り合いが行われている。

「そういうわけで申し訳ないが広場をお借りしたいのだがいいだろうか?」

疑問形で聞いてはいるがこれは断ることができないことであり、これを妨げるならそれ相応の理由がなくてはいけないのだ。


「……わかりました、ですが誰もいなくても文句は言わないでください?」

どうやら俺達が村の入り口で話し合いをしているうちに到着したらしい村の長はしばらく悩んでいたが拒否する理由が思いつかなかったのか、俺達は村へと入ることが許可される。

傭兵を村にいれたくない等の理由で断られる可能性もあったがここで俺達の入村を否定すれば若い者たちが反発することが予想される為にいれなくてはいけないという理由もあったようだが。


「さて、募集しようかと…言っても普段通り適当に演武をしようか」

傭兵団の募集方法は様々だが我が傭兵団ではいつも団員の器士が心器を取り出し演武をする。

傭兵団を選ぶ上で大事になるのはやはり団員の武力だろう。

強い傭兵団は稼げる、これは農村で過ごす子供が持つ感覚だ。

その為どこの傭兵団も強さをアピールして人を集めるが、普通は1人か2人心器を使えばいい方だ、だがうちの傭兵団は器士全員が心器を使える、これは異常なことであり、セールスポイントだ

特に人気があるのはダクトという団員だ、身長は150㎝ほどで傭兵団の中では小柄だが手に持つのは2メートルを超える巨大な槍だ。

そんな槍を小枝を振るうように軽々と振り回す姿は驚きで視線を奪う。


その隣では身長180㎝ほどの身長を持ちさわやかなイケメンであるシドラがこちらも2mほどの槍で演武をしている。

隣で轟轟と音を立てて槍を振るうダクトに比べてこちらは静かにただ槍による突きを行っているがほとんど音を立てていないにもかかわらずその槍の突きは美しく早い。

対照的な二人の演武を見に広場には若者たちが訪れ目を奪われている。


そんな彼等に声をかけるのは見た目は小太りで人の好さそうな笑顔を浮かべるカンワだ。

彼は器士ではないがサマナと共に傭兵団の財布を管理してくれている財務担当である。

彼は傭兵団に対して興味がありそうな人間に声をかけてさらなるセールスポイントを囁く

「うちの傭兵団に入れば心器の顕現方法を教えてあげますぜ?」

この世界では心器を使えるか使えないかで人間としての性能がかなり変わってくる。

仮に使えなくても使えるように鍛錬をするだけで周りの人間よりも1段階上の人間になれるのだ。


その為傭兵団でわざわざそんなことを教えるところはない、何故なら下克上される事を恐れるからだ。

だがうちでは教えている、何故なら何年も適切に心器に対する鍛錬をしてきた自分たちと最近鍛錬を始めた新人とでは追い付かれることがないことを知っているからだ。


強い器士がいて、さらに心器の使い方を教えてくれる、農家の三男として毎日父や兄に代わって畑を耕すだけの人生になると諦めていた彼等の欲望に火をつけるには十分な条件であった。

広場にいた若者の多くが俺に向かって歩いていく、その目は人生を変えてやろうとギラギラと欲望で燃えており、肉体は過酷な農作業で鍛えられたことで立派な体躯をしているものが多かった。


「俺達は明日の朝この村を出てハームの街に向かう、我が団に合流したいものは明日の朝、村の入り口に集まるように!」

俺の言葉に20人近い若者が応!と返事をする、ただ実際に傭兵団に合流するのは半分程度になるだろうと思っている

1日開けたのは家族と相談という名の引き留めの時間を与えるためだ。

当たり前だが労働力を取られまいと家族側も出ていこうとする息子に条件を出すだろう、または強権を発動するものや暴力を言うことを聞かせようとする者もいるかもしれない。


今までは暴力や周囲の家との軋轢を気にして動けなかったものも行き先が見つかればそれに反発ができる。

というか、その程度の反発もできないものは傭兵団では使い物にならないのだ、肝の太さは大事なのである。

俺達はそのまま広場を借り受けてテントを立てる、残念ながら酒も女も馬車で先に進んでいる為この日は娯楽らしい娯楽がなくダクトが

「酒もない、女も抱けないじゃ眠れねえよ」とぶーぶーと文句を言ったがよく眠れるように俺が稽古をつけてやったら汗を拭く余力もなく硬い寝床で朝まで眠ることができたらしい。

不眠症気味な部下を寝かせてやる俺は優しい団長だなと自画自賛し、シドラに尋ねると苦笑いを浮かべながら「そうですな」と同意を得るのだった。


そうして翌日、村から出る為に門へと向かうとそこには9名の若者の姿があり、中には殴り合いの喧嘩をして傭兵団に入ることを認めさせたものもいたのか、顔に青あざがある者もいたが、全員が傭兵団での生活に希望を見出した目をしていた。


「それじゃあ行こうか、ハーツの街へ」

馬上から彼らに声をかけると、言葉は揃ってはいないが全員が大きな声で返事を返してくるのだった。

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