東国動乱期

@kagetusouya

第1話

テントの中、俺は部下と顔を合わせながら難しい顔をしてしまう

「雇い主は深追いして壊滅、当主は打たれ軍は壊滅、勝ち戦だったのを一気にひっくり返された、俺達はここから逃げ出さないといけない、幸か不幸か相手は勢いに乗って突っ込んでくるわけではないから相談の時間はわずかにあるというところか」


俺は思わず頭を抱えてしまう、雇い主に傭兵として雇われ順調に戦争を進めていたのに、戦況が傾いた瞬間これ以上成果報酬を払いたくないと俺達の傭兵団を省いて後退している敵に追撃をかけて逆撃を受けて雇い主の貴族のご当主様は首を取られ戦死、貴族子飼いの戦士達は這う這うの体で城に撤退、他の傭兵団はそれぞれの判断で戦場を離脱


「サマナは馬車に乗って資源と娼婦達を連れて先に離脱しろ、護衛として器士の半分を護衛として連れてこのまま街道を通って逃げろ、この街道は今回敵対した領主の領土とは反対側に抜けるから無事抜けられる可能性は高いだろう、従士は5人連れていけ、俺達は反対方向に向かって進み敵を引き付ける気をつけろ、負け戦では従士は暴走しがちだ、資源や娼婦を守れるようにこっちに5人特に実力者を付けるからな、指揮は副長であるオルレアンに任せるいいな?」


机を挟んで反対側にいた40代の器士であるオルレアンと財務を担当するサマナに顔を向けるとオルレアンは楽しそうにサマナは難しい顔をこちらに向ける。


「気にするなサマナ、お前が選んだ依頼は間違っていなかった、実際このまま何事もなければ完全勝利だったわけだしな、まさかご当主様があんなあほな選択をするなんて誰にも読めやしなかったさ」


俺がそう彼を慰めるとオルレアンも何度も首を縦に振り俺の言葉を肯定したあと言葉を続ける。


「さらに言うなら普段従士を10人までと制限していたところを普段の倍の20人も組む込んだのも問題だったからのう、いつもより高額の依頼を受ける必要があり依頼の選別が失敗しやすくなる土台もあったからのう、起きたことはしかたない次じゃよ次」


オルレアンがそう言いサマナの肩を叩くとやっと彼も考えを切り替えることができたのか一つ息をついて逃走プランを考え始める。


「正直今回は見通しが甘かった、抗争で従士の半分が死ぬなんて傭兵団始まって以来の大損害だ、器士に被害が出なかったことが奇跡と言えるような戦いだったからな、従士を守るために器士が無理をする必要があった、やはり人数は絞ったほうがいいな」


従士と器士では命の重さが違う、器士は戦闘能力が高く傭兵団を作る前からの付き合いだ。

対して従士は近隣の村で雇った農家の3男や4男であり、訓練期間も短いので言い方は悪いが使い捨ての駒である。


だからこそ従士はこのような状況での忠誠心に疑問が浮かぶ。

うちの傭兵団は娼婦も厳選しているし物資も豊富だ、この状況では従士が彼女達や物資に手を出そうとしても不思議はない。

故に副長であるオルレアンと腕利きをこちらの護衛に、自分についてくるのはそれ以外の5人の器士と分ける必要がある。


「全員で街道を抜けるのではいけないので?」

サマナが俺の顔を見ながらそう尋ねてくる。


「確かにその方が安全かもしれないがそうなれば馬車に対する追手も増える、ここの器士には少し因縁がある相手もいるからね、俺が馬車と別に行動すれば俺のほうに多くの器士や従士を充てるだろう、そうすれば馬車にかかる追手は減る、そもそも勝敗が決まった状態でいち傭兵団に追手を差し向ける理由をないからな」


確かにうちの傭兵団は裕福で馬車を鹵獲すればそれなりの金額になるだろうが、領地もちの貴族がわざわざ器士を差し向けるほどではさすがにない。


「ただ敵の器士の中に俺が殺した器士の関係者がいるかもしれない、そいつらは採算度外視で命令無視して馬車に突っ込んでくるかもしれない、だから彼等の目的である俺は別行動というわけだな」


俺の言葉にオルレアンは頷き、サマナはまだ難しい顔をしている、俺からすると彼等にも大概面倒を押し付けているのでそんな顔をしないでほしいのだが


「こっちも気をつけろよ、従士たちが裏切る可能性がある、もしかしたら味方殺しをすることになるかもしれないからな」


俺の言葉にオルレアンは凶悪な笑みを浮かべ、サマナはため息を吐く


「さぁ撤退戦をはじめよう、久しぶりの負け戦だこういう戦の時こそ俺達の腕の見せ所だぞ!」


俺の言葉にテント内から応!という威勢のいい声が帰って来るのだった。




===


ファスズ平原

開かれた大きな草原だ、近くには小さな森もあり鹿やイノシシなどの獲物が豊富でこの草原の所有権をかけて俺達を雇った貴族と現在この平原を所有する貴族の間での戦争が起こった、当初は俺達を雇った領主が優勢に戦争を進めていたが、先ほど会議でも話した通り費用を惜しんだ領主さまが暴走、罠にかけられて大敗そのまま敗北となった。


「さて、このまま走り抜けられればいいのだが」

馬に揺られながら隣を走る騎士であるラクトに話しかける

彼も同じように馬の上に乗りながらこちらを見ながら徒歩でついてきている従士の方を見て心配そうな顔をして

「そうなればいいのですが…」

と小さな声で答える。


「何度も言いたくないがラクトお前があの従士を気に入っているのはわかってるだが、彼を助けようとして自分の命を危険に晒すのは許さないからな、お前の代わりはいない、彼ではなれない、いいな?」

こんなことを言ってもいざその場になれば踏みとどまれるかはわからないだが、それでも言わずにはいられない

こんなところで子供のころから付き合いのある友人を失うわけにはいかないからだ。


「わかっておりますよ、大丈夫です」

俺の言葉にラクトは頷き、笑顔を向けてくる、これ以上何度言っても無駄だろうから俺は頷くだけだ。


それにいつまでも他に気を回していられる状況でもなさそうだ、俺は意識的にラクトのことを考えないようにして視線を前方に向ければ、そこには今回の戦いで敵対している領主たちの器士達が道を塞ぐように陣を張っている。


数は器士10人に従士が30人、こちらは器士5人に従士が5人なのでずいぶん数に違いがある。


「さて、これは全部倒すのは大変だから中央突破だな、全員俺の後ろについて来いよ?ついてこれないやつは置いていくぞ?」

俺は振り返り部下の器士と従士に声をかけてさらに続ける


「首はいらない、俺が正面からくるやつを叩き落とすから俺の号令に合わせて前だけ見て進め、左右には器士がついて中央に従者、遅れたものを庇う必要はないというよりさすがにこの数だと庇ったら庇った人間が死ぬから自分の事だけ考えて前だけ見て進め」


俺の言葉に従士たちは顔を青くし、器士達は神妙に頷く

その様子を確認してさらに一歩彼等に近づくと相手からも一人の器士が出てきてこちらに大きな声で問いかけてきた


「そちらにいるのはソレイユ傭兵団ソレイユ殿だろうか?私はストーン、1年前ネームイ城で貴公に息子を討たれたのだが覚えているだろうか?」


彼はそう言いながらこちらを見つめてくる、その瞳には不思議と殺意や害意というものは薄く、どちらかというと周りの器士達の方が俺に対して強い殺意や害意をもっているようにすら思える。


「覚えているよ、正確には1年半前ネームイ城の陥落時最後まで残って友軍の撤退支援をしていた器士殿だ、私が正面から挑み、そして討ち取った」

俺の言葉にさらに周囲の殺意が高まるが、ストーン殿は自分の心臓のあたりに手を当て体内から大きな槍を引き抜くとそれを振るい味方である後方の器士達が動かない用に威圧をした。


あれこそが俺達が器士と呼ばれる所以である心器、もしくは神器と呼ばれる武器

軽く鋭く折れず曲がらずそれでいてぶつけ合ったときに魔力によって巨大な衝撃を与える

それだけではなく心器が使えるものは総じて身体能力も高くなり、一定以上の練度があり心器が使えるものは使えないものが100人で掛かりでも一蹴されるそれほどの差があるのだ。


「礼を言う、貴公が討ち取ってくれたおかげで息子の遺体は傷もなく綺麗な形で帰ってきた」


強いものを討ち取るときにはどうしても複数で同時に掛かり何か所も槍で突き刺すことが多くまた戦場の狂気にあてられたものが死後にも何度も突き刺すことなども多く、遺体は誰のものか判別が出来ないほどに損壊していることは多いのだ。


「素晴らしい器士だった、一息でお互い10合打ち合いそこからさらに1撃を打ち込めた自分が勝った紙一重の勝負でした、そんな素晴らしい器士殿には綺麗なまま帰ってほしかった、戦場で出会った以上殺しあわないわけにはいかないのならばせめてと」


これは本心だ、戦場で生きている以上どれだけ好感を持とうと敵だ、敵は殺さなければいけない、だが戦闘が終われば好感を持った相手には敬意をもって接したい、それが俺の流儀だ


「そうか、ありがとう……残念ながら若い者にはその気持ちがわからないようで私の教育が悪くて申し訳ない」

ストーン殿はそう言いいまだこちらに強い殺意を向けてくる部下について詫びる言葉を告げた、驚いたのはまるで自分たちが間違っていると言われた相手の器士達だろう、なぜ自分たちが間違っているように言われるのか困惑している様子が見て取れる。


「いえいえ、それだけ彼が慕われていたということでしょう、私や貴方のように考えられるのがおかしいのかもしれません、それで恩に感じてくれてるなら通してくれるということはありませんよね?」


俺の言葉にストーン殿は首を左右に振り獰猛な笑みを浮かべ


「そんなつれないことを言わないでくれ、わしは今の強さを維持できるのは長くないのだ息子を殺した相手の首を取りに挑めるの等今回が最後じゃろうからな」


殺意や害意それにこちらに対する敬意と格上の相手に挑む挑戦心

実に複雑な感情を瞳に浮かべてこちらに対して心器で作った槍を向けてくるストーン殿、後ろの器士達もそれぞれの心器を作り出して殺意を込めた視線をこちらに向けてくる。


「しかたない、総員武器を持て!先ほど言ったように俺の後に続け!」

相手がこちらに挑んでくるならこちらもただで討たれるわけにはいかない、こちらの器士も心器を手に持ち従士たちもそれぞれに武器を持つ。

俺も心器を取り出すと両手にそれぞれハルバードを持ち馬を膝の動きだけで走らせる。

先頭を俺がかけると後ろから他の傭兵団の団員たちが続く


対して相手もこちらに向けて突撃してくる、ただし正面から向かってくるのは二人で一人はストーン殿、もう一人は若い器士でありこちらは強い殺意を瞳に宿しながら向かってくる。

残り8人の器士は4人ずつに分かれて左右へ、挟み込んでくるつもりだろう、ならばこちらは足を止めるわけにはいかない。


左手に持ったハルバードを勢いよく若い器士へと投げると相手は虚を突かれたのか対応が遅れ受け止めるがそのまま馬から落下する

本来であれば従士に首を取らせるのだが今はその余裕がない、何より部下が落馬したにもかかわらずストーン殿は気にせずに突っ込んできている油断はできない。


ストーン殿は槍を俺はハルバードを構えたまま衝突する!

心器に重さはない、がぶつかった際に魔力が爆発しお互いの武器を持つ腕に強い負担をかけるさらに2度すれ違うまでに攻撃を行う、お互いに追加でもう一撃を合わせようとしたところで限界が来たのは俺でもストーン殿でもなくストーン殿の馬であった。

騎手二人が発生させた衝撃をもろに受けストーン殿の馬の脚は止まりその場に倒れこみそうになるが倒れこめば騎手であるストーン殿は無防備を晒すことになる、賢き馬は倒れこむのではなく後ろ足で立ち上がることで俺の槍に対して自分の体を曝け出しさらに背中に乗った騎手を振り落とそうとする。

振り落とされれば大けがはするかもしれないが命は助かるそう考えての献身的な彼の行動だが、俺の前では無駄になった。


「すまない、お前の献身無駄にさせてもらうぞ…」

俺はそのままハルバードの斧部分で馬の胴体ごと上に乗ったストーン殿を切り裂く

切り裂かれ二つに分かれた彼と目が合うが彼は満足そうに笑いそのまま地面に叩きつけられる。

俺は一瞬だけ黙祷をしてからそのまま振り返らずに一気に走り抜ける、後方では足が止まり殺される従士の声が聞こえてくるが構うことなくついてきたものと共に安全圏まで逃げ切るのだった。

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