第1話 原作者より詳しい女オタク(2)

 ヒロインレース系のラブコメを読む上で大切なのは感情移入することではない。

 誰と結ばれるか、その伏線を探ること。


 作者が意識をしてか、無意識下か。

 それはまぁ諸説ある。

 考察厨の考察に「そこまで作者考えてないだろ」と対立する輩の言っていることも決して間違っているわけではなくて、事実として作者がそこまで考えたいないこともある。ゴールを決めていれば無意識でも伏線とは生まれるもので、多分緻密に計算されて生まれた伏線よりもそうやって突発的に生じた伏線の方が伏線としての鮮度は高い。

 伏線という言い方だとなんだか堅苦しいかな。

 フラグって表現をしておこう。


 とにかく私に求められることは三つ。


 一宮志乃と主人公とのフラグを立てまくる。

 そして勝ちヒロインである二瓶彩澄にへいあずみの負けフラグを立てまくる。

 あとは本来の負けヒロインが棚ぼた的に勝ちヒロインへ昇格しないよう、適度に負けフラグを与えておく。


 そうすれば一宮志乃が主人公と結ばれるしかなくなる。というわけだ。


 我ながら非常に完璧な作戦だと思う。

 不安があるとすればフラグの熟知なわけだが、私は生粋のオタクだ。

 そのあたりはしっかりと知識としてある。

 抜かりない。

 てかその知識があるからこの世界にやってきたんじゃないかって思ってる。


 「とはいえ、友人Aであることは変わりないし。違和感のある振る舞いだけはしないようにしよう……」


 違和感から一宮志乃に距離を置かれる。

 数ある中の展開でそれが一番怖い。

 取り返しのつかない失敗と言ったっていい。

 そのレベル。


 だからそこを回避する。


 当面の最低限の目標が決まった。


◆◇◆◇◆◇


 家から学校に行く。

 正直この世界に転移してきて一番の不安はここだった。


 だって考えて見てほしい。アニメでもラノベでも、登校中の描写は多少あるが事細かな経路なんて知らない。

 迷うかもと本気で思っていた。


 が、それは杞憂に終わった。


 ピンポーンと鳴るインターホン。


 扉を開けると私の目の前にいるのは謎の少女。

 見慣れた制服を着ているし、青色のリボンをつけているので同じ学校の同級生というのはわかる。というかこの絶妙なモブ顔……どこかで見たような。


 あっ! あっ! あっ!


 思い出した。


 「友人Bじゃん!」

 「え〜、おはようの前に酷くない?」


 黒髪ですらっとした体型。どこか特筆するような特徴はなく。言わばまさにアニメに登場しがちな女子生徒モブキャラ。〇えカノの加〇恵をさらにモブ化したようなキャラクター。

 というか実際、彼女はアニメのエンディングクレジットで『友人B』という表記がなされていたし。例えばじゃなくて、マジでモブキャラ。


 ここはアニメの世界でありながらもアニメの世界ではない。

 モブキャラだって意志を持つ。

 そりゃそうだよなぁ、とこの世界に強く感心した。

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