第163話 セレブの気持ち?

ぼくたちは、再び、馬車を走らせていた。


ちょっと、遅い昼食を食べながら。



今日は、赤いご飯だ。


お赤飯じゃないよ。



トマトケチャップの色だ。


【自給自足】も、【Lv80】を超えたからね。


これくらいの濃度なら、作れるんだ。



今、食べてるのは、オムライス。



実は、至高の卵を使ったメニューを考えてみたんだ。



紙も作ったし、色シャープ芯も作ったからね。


カラーで描いて、少し説明も加えて、収納してるんだ。


作ってもらえそうなメニューを。



もちろん。レシピってほどのものじゃない。


材料とか調理法なんて、くわしくはわからないから……。



でも、エルフとドワーフの女性たちが、何とかしてくれる。


けっこう楽しんでるみたいだから、頼みやすいし。



プリンも、茶碗蒸しも書いておいた。


きっと、そのうち食べられそうな気がする。







チンピラエルフ娘に案内されて、地下都市を見学した。



父親からは、ゆっくりしていくように言われたけど。


ソフィアが断ったんだ。


もちろん、ぼくらも、その方が良かった。


正直言って、めんどうなだけだから。


ぼくたちは、砂漠の街を見物したかっただけだ。


住人と交流したいわけじゃない。




見学も終わり、地下都市を出ようとした時だった。


ソフィアが、いつものように、淡々と言った。



「シュウ。わたしも『地下遺跡』が欲しいです」と。



__え?



最初は、聞き違いかと思った。


しかし。


淡白なおねだり顔を見て、そうではないと知った。



__なるほど



コレが、セレブの気持ちというやつか。



若い愛人に『ねぇ。わたし、ヨット欲しいのぉ』とか。


おねだりされてる時の。



「………………………わ、わかった」



ほかに、何て言えばいいのか。


ぼくには、わからなかった。



さすが、『ハイ・エルフ』のお姫さま。


おねだりのレベルが、違っていた。



それでも、つい、嬉しいと思ってしまう自分は。


やはり、性癖的に問題を抱えているのだろうか。




…………




「兄さまは、胡椒をかけすぎるのです」


ルリの声で、現実に引き戻された。



そうだった。



今は、オムライスを食べていたのだ。



ちなみに、ぼくは、ケチャップ派ではない。


ケチャップで、ハートマークを描くなんて、食べ物への冒涜だと思う。


ハート型のクッキーとか。チョコとかは、ぜんぜんOKだけど。


でも、型をくり抜いた後の、残りは、ちゃんと食べなきゃダメだと思う。




「ウスターソースも、かけすぎなの」


ルリのあとに、ヒスイが続いた。



最近、ふたりは、小言が多くなった。


アネットでさえ、何も言わないのに。


まあ、言っても無駄だと、思ってるのかもしれないけど。



ソフィアは、ぼくの食べ方に、まったく干渉しない。


いつも、『よきにはからえ』って感じだ。



クラリスは、びくびくしている。


自分も、何か言われないかと思ってるんだろう。


おじいちゃん子だからね。


わりと偏食みたいだし。




「まったくだぜ。もっと言ってやれよ。


こいつ、ちょっとぜいたく過ぎんだよ!


ところで、ウスターソースって何だ?」


スプーンを振り回しながら、チンピラエルフ娘が言った。



「なんで、お前がいる?」



「ケチくせえこと言うなよ。


もう、女の子同士は、なかよしなんだよ。


……そうだよな?」



「カミラ姉さまは、面白いのです。


ソフィア姉さまと違いすぎるのです」


「ぜんぜん、エルフっぽくないの」


ルリたちが、クスクス笑っていた。



エルフのくせに、チンピラだから、面白いのかな?



同じエルフでも、魔導王国に留学してた奴は、ひどかったな。


エルフ王国の皇子とか言ってたけど。


あと。ドワーフ王国の皇子もいた。


ふたりとも、性根が腐ってた。


あんなのは、エルフでもドワーフでもないよね。



__うん



あのふたつの王国とは、ぜったいに関わらないようにしよう。



もちろん、あんな連中ばっかりじゃないとは思うけど。


そもそも、ぼくのほうから、関わる理由は皆無だ。


だったら、関わらないと決めておいたほうがいい。




__そうか



あの連中と比べれば、チンピラ娘は、ずいぶん上等だ。


性格も悪くないし、何より、明るい。


冒険者たちからも、けっこう、好かれていたようだし。



__思えば



ソフィアは、『クール系のお姫さま』だし。


アネットだって、『おっとり系のお嬢さま』だ。



__なるほど



ふたりの言う通りだ。


ソフィアたちとは、ぜんぜん違うタイプだ。



言ってみれば。


『チンピラ系のお姉ちゃん』?


しかも、エルフの。



たしかに、見ていて飽きないかもしれない。


表情も、ころころと変わるし。



それなら。


『お笑い系のチンピラ』と、呼ぶべきだろうか?



そんなふうに、アレコレと、思いを巡らせていた時だった。



「おいっ!」


くだんのチンピラが、詰め寄ってきた。



「ど、どうした?」


けっこう、近いので、焦った。


だって。


口のまわりが、ケチャップだらけなんだもの。



「お前、いま。


めっちゃ、失礼なことを考えてたろ!」



怒鳴りながら、スプーンを突きつけてきた。


オムライス山盛りのスプーンを。



__もしかして



極右系ツンデレの『あーんして』だろうか?


目が血走ってるように、見えなくもないが。



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