第164話 妖精

__地下遺跡か



ソフィアと約束した以上は、見つけないと。



ゴーレム馬と【コア本体】では、見つけるのが難しいと思う。


そもそも、彼らが探知しているのは、『動くモノ』だ。


いわゆる、『索敵能力』なんだから。



__情報を集めないと



ぼくは、【倉庫】から、『タライ』をふたつ取り出した。


ひとつには、『チョコチップ』と『チョコスプレー』。


もうひとつには、『オレンジジュース』を目一杯いれておいた。




「何だ、コレ?」



チンピラエルフ娘が、ぼくの前でしゃがみこんだ。


二杯目のオムライスを片手に、『タライ』をのぞき込んでいる。


ばっちり見えているが、食事代のかわりだろうか?


21世紀日本人には、半ズボンにしか見えないが。



「チョコとジュースだ」



「チョコ? チョコって何だ?」



「とっても甘くて、美味しいお菓子なのです」


ルリが、答えていた。



「へえーー。そうなのか」


そう言いながら、一気に、オムライスをき込んだ。


視線は、チョコチップに釘づけだ。



「食ってもいいか?」



「いいぞ。たくさんあるからな」


チョコチップは、いつもたくさん、補充しているからね。


もうちょっとしたら、量を減らしてもよくなる気がするけど。



「何だコレ。めっちゃ、うめえ!」


そう言って、豪快に、口に流し込んでいる。



__惜しい



目と口を閉じて、全身を停止していれば、さぞかし美少女だろうに。


サスペンドモードとかないんだろうか。


でも、それだと『仮死状態』かな?



時折、補充しながら、チンピラエルフ娘の、フードファイトを見物していた。



その時だった。



虫っぽいのが、飛んできた。


虫ではない。


怖くないから。


ぼくだって、学習するのだ。



__やはりな



チンピラエルフ娘も、使いよう。



この食いっぷりに誘われて、思わず、姿を現したのだろう。


夜の街灯に集まる、虫のように。



いや、虫じゃないけど。





チンピラエルフ娘は、『サクラ』として役に立っていた。


わらわらと、妖精たちが集まってくる。



__まさに、『食べる広告塔』?



ぼくは、もうひとつ『タライ』を取り出した。


そして、チョコチップとチョコスプレーを積み上げた。



「さあ。こっちには、凶暴なエルフはいないぞ。


ゆっくり、食べるといい」


そう言って、『タライ』を押し出した。



その時。



チンピラエルフ娘の熱い視線が、ぼくを射抜いた。



「ちっ!おめえとは、いっぺん、じっくり話をしねえとな!」



ケチャップで赤く染まっていた唇は、すでに、チョコ色に染め替えられている。



「お前の気持ちは、うれしくなくはないが。


オレには、すでに婚約者が……」



「ちげえよ!誰が、おめえなんかに、こくるかよ!」



なぜか。すごい勢いで、怒られた。



__もしかして



やんわり、断ったから?



しかし、今この時に限って、チンピラ娘は必要な人材だ。


ぼくは、収納から、1メートル四方の薄い板を取り出した。


もちろん、懐柔するためだ。



「これも食うか?」



ぼくは、その板を、エルフ娘の口元に差し出した。



「なんだ、ソレ?」


「ポテチだ。形状的な問題はあるが」



「ポテチ?」


チンピラエルフ娘が、そのままかじりついた。



『あーん』してるように見えなくもない。


1メートルほど前方で。



「うめえ!この塩味がイイ!」



すごい勢いで、パリポリ食べ始めた。


あれほど、チョコを食べたのだ。


そろそろ、しょっぱいモノが欲しくなる頃合いだ。



ぼくは、そっと手を離した。


指にしゃぶりつかれたあとで、かじられそうだったから。



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