第162話 地下都市


「ひゃほうーーっ!


すげえな、この馬車。


飛空艇より、早いんじゃねえか?」



馬車の二階で、チンピラエルフ娘が、はしゃいでいた。



結局。いっしょに、街までいくことになったんだ。


ふだん、彼女が暮らしている街に。


いちおう、送りがてら…だね。







まもなく、大きな城壁が見えてきた。


チンピラエルフ娘の街らしい。




「ここには、でっけえ遺跡が在るんだよ。


それを街として、利用してるってわけさ」


チンピラエルフ娘が、自慢した。



チンピラがいるので、顔パスだった。


でも、入街税は、しっかり全員分、取られた。


砂漠で街を維持するのは、大変だろうから、理解はできる。



街に足を踏み入れるなり、思わず、立ち止まってしまった。




__なんだこれ?




眼の前には、整地された地面が、延々と広がっている。


建物もほとんどなく、地下鉄の入口がいくつかあるだけだった。


もちろん、たとえだよ。


地下鉄なんて、あるわけないんだから。



でも、地下鉄の入口みたいな感じなんだ。


要するに、地下への階段があって、その上を石の壁と屋根で囲っている。



「地下に街があるのですよ。シュウ。本で読みました」


ソフィアが、教えてくれた。



__へえ



そんなことまで、本に載っていたの?


いったい、どんな本なんだろう?


ぼくも、読んでおけばよかった。




階段を降ていくと、横に伸びる廊下に、突き当たった。


廊下を右に進むと、また、下に降りる階段が、現れた。


これを何度か、繰り返したら、急に、視界が開けた。




「わあっ!」


「広いのです!」


「ほんとに、地下に街があるんだね!」




そこには、広大な空間があった。


そして、小さな石造りの家が、その空間をびっしりと埋めている。



ただ、中心部には、高層の建物も、いくつか並んでいた。


そのうちのひとつが、冒険者ギルドだった。



さすがに、人工太陽のようなものはないらしい。


街は、まさに、夜の街だった。


太陽の光がない暮らしなんて、不健康そうだけど。


砂漠の太陽じゃ。むしろ、ないほうがマシかもしれない。


そう考えると、地下都市は、やっぱり、オアシスなんだろう。





「おう。カミラじゃねえか。


サンドワームの話を聞いて、飛び出していったって聞いたぜ。


ずいぶんと、早いお帰りじゃねえか」


「カミラかよ。また、ずいぶんと別嬪べっぴんさんを連れてんだな」


「カミラ。お帰りー。で、どうだった?」



冒険者ギルドに行くと、あっという間に、冒険者に囲まれた。



__もしかして



人気者?



「それがよ。急に気配が消えちまったんだよ。


不思議なこともあるもんだぜ。


帰りは、こいつらの馬車に乗せてもらったんだ。


こいつら旅行者で、砂漠を見に来たんだとよ」



まとめて答えていた。



「砂漠なんか見て、どうすんの?」


「それにしても、カミラ以上の美人がいたとはな。驚きだぜ」


「おおかた、どっかへ行っちまったんだろう。


まあ。そのほうが、オレらも助かるけどよ」


「馬車だと? ララクーダに、馬車引かせてんのか?」




ここでまた、ソフィアの解説が入った。


「シュウ。砂漠では、ウマではなく、ララクーダを使うのです。


おでこにコブのある生き物だそうですよ。本で読みましたが」



__おでこにコブ?



背中じゃなくて?


ソレ。


ただ、どっかに、ぶつけただけじゃないの?




「よそからくれば、砂漠だって面白えんだよ。


それに、アタシ以上の美人なんて、いくらでもいんだろ。


サンドワームはよ。どっかいったような気配じゃねえんだ。


ほんとに、いっしゅんで消えちまったんだよ。


いや。ララクーダじゃねえんだよ。


こいつ。ゴーレムのウマを従魔テイムしてやがるんだ」



ひとりずつ、律儀に、答えていた。



__もしかすると



聖徳太子も、こんな感じで会話してたんだろうか?


『チンピラ聖徳太子エルフ娘』?


ちょっと長いけど。




「カミラが戻ったと聞いたんだがね……」



そんな声が聞こえたら、冒険者が、ささっと道を開けた。


金髪碧眼のイケメンエルフだった。



「父ちゃん、今、帰ったぜ!


こいつらに、馬車で送ってもらったんだ!」



どうやら、父親らしい。


お兄さんにしか見えないけど。




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