第148話 夜の来客
「すばらしい。間違いなく『万能薬』だ」
鑑定したんだね。
「
女王が、自慢気に答えた。
「放置してあったものは、たしかに、渡したぞ。
あとは、自分で保管してくれ」
「ああ。たしかに、受け取った。
いちおう、礼を言ってやる」
なんか、ひっかかる礼の言い方だった。
まあ、いいけど……。
エルフとドワーフの傲慢皇子は、もういない。
父親に、『出直して来い』って叱られたんだ。
そしたら、皇女が、きっぱりと言っていた。
『出直される必要は、ございませんわ。
わたくしどもは、間もなく帰国いたしますし。
すでに、ご丁寧なご挨拶を、いただいておりますので』
これってさ。
『フザけたこと言いやがって、もう
さすがに、
女王とエルフ父が、製薬談義を始めたので。
お
ちび皇女たちも、お許しが出たらしい。
馬車に、遊びに来ることになった。
もしかして、お泊り会だろうか?
帰り際。
エルフ父に、声を掛けられた。
「今回の製薬には、君も手を貸したと聞いたのだが。
どうだろう。我々にも、手を貸してもらえるかね?」
「我々って、エルフ王国のことだろう?
オレは、エルフ王国にも、ドワーフ王国にも関わるつもりはない。
理由を、言う必要はあるか?」
「いや。聞かなくてもわかっている。
残念だが、しかたがあるまい」
エルフ父は、すぐに、引き下がった。
きっと、このひとは、いいエルフなんだと思う。
国王なのに、ぼくとふつうに話せるから。
なにしろ、ぼくは、こういう口調だ。
でも、皇族にも貴族にも、ぼくとふつうに話せるニンゲンがいる。
そういうひとは、まあ、基本的に、いいひとだと思ってる。
女王とも、仲がよさそうだしね。
*
その夜。
お客さんが来た。
顔に、包帯を巻いた奴と、その仲間だ。
包帯が、月明かりを反射して、すぐにわかった。
魔導学院の講師なんだからさ。
上級ポーションで、さっさと治すだろうと思ってたんだけど。
まだ、治ってないんだろうか?
それとも、治ったのに、顔包帯にハマってしまったんだろうか?
__まあ
顔包帯にハマる気持ちは、わかるけど。
「昨日より、人数が増えているのです」
「あと、昼間の皇子たちもいるの」
ルリとヒスイは、窓際に陣取って、実況していた。
「学園長が言っていた『キナ臭い貴族』のお出ましか?」
「おそらく、そうだと思いますわ」
「でも、若すぎるんじゃない?」
「他に、黒幕がいるのかも?」
「黒幕も、来ればいいのにねー」
「いや。来ないから、黒幕なんだろ」
「シュウくん。どうするの?」
「何もしないぞ」
アネットに答えたら、ドワーフ兄が、顔をしかめた。
「ひでえな」
「どうしてひどいのだ。何もしないんだろう?」
「そうですよね」
「うん。わたしもそう思う」
ちび皇女たちが、首をかしげていた。
「すぐに、わかりますわ」
大きい皇女が、にんまりしながら言った。
__もしかして
ちょっと、性格変わった?
ぼくらのせいじゃないよね。
みんなで、見物している。
馬車の灯りは消しているからね。
むこうから、こっちは見えないと思う。
まず、ドワーフ皇子が、斧を手に近寄ってきた。
エルフ皇子も杖を構えている。
「何で、あいつらがいるんだ?」
「あんた。ほんとにわかってないの?」
公爵の娘から、問い詰められた。
「シュウくんって、けっこう、いい性格してるよねー」
「そうか?」
「褒めたんじゃないわよ!」
今度は、食いしん坊に、ツッコミを入れられた。
__わかってるよ
そのくらい。
みんな、ぼくのこと誤解してない?
「気をつけろ。奇妙な結界が張られてるらしいぞ」
エルフが、ドワーフに注意した。
「ふん。そんなもの、オレの斧で粉砕してやる!」
「そう言いながら、腰が引けてるのです」
ルリが、うれしそうに言った。
ガンッ!
キィーーーーーン!
びゅんっ!
「うわっ!」
『反射』で、斧が跳ね返った。
ドワーフは、体を
__さすが、ドワーフ
素晴らしい反射神経だった。
でも、反りすぎて、地面に後頭部を打ち付けていた。
ブリッジに失敗した小学生のようだった。
小学生の頃、体育の時間にいたんだよ。そういう子が。
すぐに、保健室に運ばれていったけど。
思わず、斧から手を離したお陰だろう。
斧だけ、後ろに飛んでいった。
「ひっ!」
エルフ皇子が、ぎりぎりで
でも、制服の袖が、切れていた。
「スリル満点なの」
ヒスイも、楽しそうだ。かわいい。
ドワーフ皇子は、ブリッジしたまま、じっとしている。
気を失ったらしい。
あの態勢で。
__さすが、ドワーフ?
「お前も、あんなふうに寝られるのか?」
「できるわけねえだろ!」
ドワーフ兄が怒った。
「ぐぬぬ! このわたしを傷つけるとは! 焼き払ってやる!」
エルフ皇子が、キレていた。
袖が、破れただけなのにね。
「結界のこと。もう、忘れてるのです?」
ルリが、首をかしげた。かわいい。
「
さすが、エルフ王国の皇子。
ゴージャスな魔法だった。
ゴオオオオーーーッ!
キィーーーーーン!
ゴオオオオーーーッ!
「「「「「「「「「「ぐわあーーーっ!」」」」」」」」」
「みんな、まとめて、火だるまになってるのです」
ルリが、クスクスと笑いだした。
「い、いや。アレは、笑いごとではないぞ」
ちび皇女の顔が、引きつっていた。
「ほ、ほんとに、燃えています!」
「あれじゃ、死んじゃうよ!」
ちび令嬢たちも、青くなっていた。
「「「「ウ、ウオーターっ!」」」」
さすが、魔導学院講師たち。
ハリ◯ッド映画のように焼かれながらも、魔法を発動した。
なんとか、火を消し止めていた。
「ま、まさか。魔法まで、
包帯が焼け焦げた講師が、震える声で言った。
「『反射結界』だ。
王国の旗艦を撃墜した『結界』と同じだぞ。
お前たち。もう少し、情報を集めたらどうだ?
何が、『いまこそ魔導王国の力を示すべき』だ。
「どうしよう。お母さまが来た」
「ウチのお母さまもいます」
「ウチもだよ!」
ちび皇女たちが、おろおろしだした。
__もしかして
このコたち、無断外泊だったの?
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