第148話 夜の来客

「すばらしい。間違いなく『万能薬』だ」


かまの底を見るなり、エルフ父が称賛した。


鑑定したんだね。



王妃あいつが、完治したんだ。当然だろう」


女王が、自慢気に答えた。



「放置してあったものは、たしかに、渡したぞ。


あとは、自分で保管してくれ」



「ああ。たしかに、受け取った。


いちおう、礼を言ってやる」


なんか、ひっかかる礼の言い方だった。


まあ、いいけど……。




エルフとドワーフの傲慢皇子は、もういない。


父親に、『出直して来い』って叱られたんだ。



そしたら、皇女が、きっぱりと言っていた。



『出直される必要は、ございませんわ。


わたくしどもは、間もなく帰国いたしますし。


すでに、ご挨拶を、いただいておりますので』



これってさ。


『フザけたこと言いやがって、もうんな』って意味だよね。



さすがに、父親こくおうも苦笑していた。




女王とエルフ父が、製薬談義を始めたので。


いとますることにした。



ちび皇女たちも、お許しが出たらしい。


馬車に、遊びに来ることになった。


もしかして、お泊り会だろうか?




帰り際。



エルフ父に、声を掛けられた。



「今回の製薬には、君も手を貸したと聞いたのだが。


どうだろう。我々にも、手を貸してもらえるかね?」



「我々って、エルフ王国のことだろう?


オレは、エルフ王国にも、ドワーフ王国にも関わるつもりはない。


理由を、言う必要はあるか?」



「いや。聞かなくてもわかっている。


残念だが、しかたがあるまい」



エルフ父は、すぐに、引き下がった。



きっと、このひとは、いいエルフなんだと思う。


国王なのに、ぼくとふつうに話せるから。



なにしろ、ぼくは、こういう口調だ。


でも、皇族にも貴族にも、ぼくとふつうに話せるニンゲンがいる。


そういうひとは、まあ、基本的に、いいひとだと思ってる。



女王とも、仲がよさそうだしね。







その夜。



お客さんが来た。


顔に、包帯を巻いた奴と、その仲間だ。


包帯が、月明かりを反射して、すぐにわかった。




魔導学院の講師なんだからさ。


上級ポーションで、さっさと治すだろうと思ってたんだけど。


まだ、治ってないんだろうか?



それとも、治ったのに、顔包帯にハマってしまったんだろうか?



__まあ



顔包帯にハマる気持ちは、わかるけど。




「昨日より、人数が増えているのです」


「あと、昼間の皇子たちもいるの」


ルリとヒスイは、窓際に陣取って、実況していた。




「学園長が言っていた『キナ臭い貴族』のお出ましか?」


「おそらく、そうだと思いますわ」



「でも、若すぎるんじゃない?」


「他に、黒幕がいるのかも?」



「黒幕も、来ればいいのにねー」


「いや。来ないから、黒幕なんだろ」



「シュウくん。どうするの?」


「何もしないぞ」


アネットに答えたら、ドワーフ兄が、顔をしかめた。


「ひでえな」



「どうしてひどいのだ。何もしないんだろう?」


「そうですよね」


「うん。わたしもそう思う」


ちび皇女たちが、首をかしげていた。



「すぐに、わかりますわ」


大きい皇女が、にんまりしながら言った。



__もしかして



ちょっと、性格変わった?


ぼくらのせいじゃないよね。




みんなで、見物している。


馬車の灯りは消しているからね。


むこうから、こっちは見えないと思う。





まず、ドワーフ皇子が、斧を手に近寄ってきた。


エルフ皇子も杖を構えている。



「何で、あいつらがいるんだ?」


「あんた。ほんとにわかってないの?」


公爵の娘から、問い詰められた。



「シュウくんって、けっこう、いい性格してるよねー」


「そうか?」


「褒めたんじゃないわよ!」


今度は、食いしん坊に、ツッコミを入れられた。



__わかってるよ



そのくらい。



みんな、ぼくのこと誤解してない?




「気をつけろ。奇妙な結界が張られてるらしいぞ」


エルフが、ドワーフに注意した。


「ふん。そんなもの、オレの斧で粉砕してやる!」



「そう言いながら、腰が引けてるのです」


ルリが、うれしそうに言った。




ガンッ!


キィーーーーーン!


びゅんっ!



「うわっ!」



『反射』で、斧が跳ね返った。


ドワーフは、体をらせて、かわした。



__さすが、ドワーフ



素晴らしい反射神経だった。



でも、反りすぎて、地面に後頭部を打ち付けていた。


ブリッジに失敗した小学生のようだった。



小学生の頃、体育の時間にいたんだよ。そういう子が。


すぐに、保健室に運ばれていったけど。




思わず、斧から手を離したお陰だろう。


斧だけ、後ろに飛んでいった。



「ひっ!」



エルフ皇子が、ぎりぎりでかわした。


でも、制服の袖が、切れていた。


しい……。



「スリル満点なの」


ヒスイも、楽しそうだ。かわいい。



ドワーフ皇子は、ブリッジしたまま、じっとしている。



気を失ったらしい。


あの態勢で。



__さすが、ドワーフ?



「お前も、あんなふうに寝られるのか?」


「できるわけねえだろ!」


ドワーフ兄が怒った。



「ぐぬぬ! このわたしを傷つけるとは! 焼き払ってやる!」


エルフ皇子が、キレていた。


袖が、破れただけなのにね。



「結界のこと。もう、忘れてるのです?」


ルリが、首をかしげた。かわいい。




火嵐ファイヤーストームっ!」



さすが、エルフ王国の皇子。


ゴージャスな魔法だった。




ゴオオオオーーーッ!


キィーーーーーン!


ゴオオオオーーーッ!




「「「「「「「「「「ぐわあーーーっ!」」」」」」」」」




「みんな、まとめて、火だるまになってるのです」


ルリが、クスクスと笑いだした。



「い、いや。アレは、笑いごとではないぞ」


ちび皇女の顔が、引きつっていた。


「ほ、ほんとに、燃えています!」


「あれじゃ、死んじゃうよ!」


ちび令嬢たちも、青くなっていた。




「「「「ウ、ウオーターっ!」」」」



さすが、魔導学院講師たち。


ハリ◯ッド映画のように焼かれながらも、魔法を発動した。


なんとか、火を消し止めていた。



「ま、まさか。魔法まで、ね返すのか……」


包帯が焼け焦げた講師が、震える声で言った。




「『反射結界』だ。


王国の旗艦を撃墜した『結界』と同じだぞ。


お前たち。もう少し、情報を集めたらどうだ?


何が、『いまこそ魔導王国の力を示すべき』だ。


戯言ざれごともほどほどにしろ。この未熟者が!」




「どうしよう。お母さまが来た」


「ウチのお母さまもいます」


「ウチもだよ!」


ちび皇女たちが、おろおろしだした。



__もしかして



このコたち、無断外泊だったの?



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