第147話 図書館だぞ?
翌日。
ぼくは、いつもどおり、図書館にいた。
そして、マフユと一緒に、転移魔法の練習をしたり。
図書館の本で、勉強したりしていた。
「ただいま、戻りましたわ」
皇女が、『謁見の間』から、帰ってきた。
女王と一緒に。
わざわざ、ふたりして、『謁見の間』まで行って帰ってきたのだ。
皇女から、女王に、『親書』を渡すために。
ここで、渡せば済むことなのにね。
貴族って面倒だなって、つくづく思った。
皇女は、みんなを、テラスにあるテーブル席に集めた。
「皆さま。すでにご存知かもしれませんが……」
みんなが席につくと、皇女が話し始めた。
「……まもなく、『南』の辺境の街が、陥落するようです」
誰も、驚いている者はいなかった。
みんな、鳥便で知らせを受けていたんだろうか?
もちろん、ぼくたちも驚いてはいない。
鳥便で、知らせも受けていない。
ただ、どうでもいいだけだ。
『北側』は、この戦争に関与しないって言ってたし。
「……わたくしたち、北の貴族は、王国から離脱。
公爵領を中心とした『公国』として独立いたしました。
なお、元第一王妃が、初代の王となります。
ただいま、魔導王国女王陛下にも、『親書』を受領していただきました。
皆さま。ご承知おきくださいませ」
__なるほどね
そういうことだったんだ。
シナリオは、出発前に完成していたんだ。
第一王妃の、病の完治まで含めて。
なぜって、『親書』は、出発前に、ぼくが預かったんだから。
__うーん
ちょっと、ハメられた感じはあるかな。
「シュウくん。しかたがないよ。
シュウくんだって、直に、頼まれたら困ったでしょう?」
__たしかにそうだ
ぼくたちは、しょせん旅行者。
その立場を変えるつもりはない。
だったら、『政治』に、直接、関わるのはNGだと思う。
責任が取れないし、取るつもりもないから。
ぼくたちは、やりたいことをやるだけだ。
それが、ときには、『政治』に影響を与えるかもしれない。
でも、それは、あくまでも『結果的に』そうなっただけだ。
「わたしも、王妃が女王になる件は、聞かされてなかったからな。
そこは、信用しろよ」
わざわざ、女王が言いに来た。
たしかに、アレが全て、芝居だったとは思えない。
だから、きっと、ほんとうなんだろう。
そうなると。
女王の動きまで、計算していたってことか?
でも、女王だって、やりたいようにやっただけだ。
王妃のために、なんとしても『万能薬』を作ろうとしただけ。
そのために、ぼくの魔力を借りただけだ。
「も、もし、
皇女が、泣きそうな顔で、ぼくに言った。
「いや。騙されたわけじゃないだろう。
それに、どうせ、
お前が気にすることはない」
__そうだね
『シュウくんの好きなように、過ごしてくれればいい』
たしかに。ぼくは、好きなようにやっただけだ。
なら、結果は、自ずと見えていたんだろう。
それだけのことだ。
「で、でも……」
「これで、侯爵令嬢と食いしん坊は、連中から完全に解放されたんだろう?
それなら、文句はない。むしろ、歓迎すべきことだ」
民がどうとか。
そんなのは、ぼくには、わからない。
ぼくが実感できるのは、身近な人間の幸不幸だけだよ。
*
留学生みたいな連中なのだろうか。
午後に入ると、まず、共和国の学生が挨拶に来た。
第一王妃は、言ってみれば、入院加療中。
さらに、第一皇子は、その付き添い。
だから、第一皇女のほうに、来たんだね。
代理として、女王に謁見したのも、皇女だし。
「共和国ってよ。貴族主義の連中より、ずっと話が通じるんだぜ」
ドワーフ兄の言うとおりだと思った。
見るからに、まともな学生だったから。
たぶん、共和国は、すでに味方だったんだろうね。
学生の親しげな態度を見て、よくわかった。
帝国の留学生も、すごく礼儀正しくて、好感が持てた。
ぼくのことを知ってるのか。
こっちを見て、深く、お辞儀していた。
でも、そんなやつらばかりじゃなかった。
「挨拶をと思って、来たのだが。
どうも、場にふさわしくない
エルフの学生だった。
なぜか。エルフ&ドワーフ兄妹を、
「まったく、理解に苦しむぞ。
なぜ、『まがい者』が、ここで、のうのうとしているのか」
ドワーフの学生は、さらにひどかった。
たしかに、ふたりは、ドワーフとエルフの混血だ。
これは、ソフィアすら驚くくらい珍しい。
それを、『まがい者』と
「ちょっと、席を外すぜ」
「うん。そうするよー」
気を利かせたのだろう。
エルフ&ドワーフ兄妹が、席を立った。
「ブロック。クララ。席に戻れ」
ふたりに言った。
「えー。シュウくん。私の名前知ってたのー」
「マジで、びっくりだぜ」
ふたりして驚いていた。
「いいから、戻れ」
「お、おう…」
「うん。わかったよー」
ふたりが、座り直すのを見届けてから言った。
「ここは、図書館。本を読む場だ。
お前は、本を読みに来たのか?
違うのなら、『場にふさわしくない』のは、お前の方だ」
まず、エルフの学生に言った。
もちろん。挨拶に来たのは知ってるよ。
でも、ここは図書館なんだ。
まじめに本を読んでる者を、邪魔者扱いするなんて、言語道断だよ。
それから、ドワーフの学生にも言った。
「このふたりは、本を読んで勉強をしているんだぞ。
お前こそ、『のうのうと』突っ立てるだけじゃないか。
ここに居たいなら、さっさと、本くらい持って来い」
「なんだと! このヒューマンごときが!」
「オレたちを誰だと思ってる。
ドワーフとエルフ。両国の皇子だぞ!
貴様など、不敬罪で、首をはねてもいいのだぞ!」
ふたりして、怒鳴った。
「うるさいやつらだな。
ここは、図書館だと言ってるだろう。静かにしろ」
それから、街道で拾った皇女たちを指差した。
「あのちびっこを見てみろ。
幼いのに、静かに本を読んでいるだろう。
あれは、ここの皇女だ。立派なものだな。
で? お前らは、ホントに皇子なのか?
それこそ、『まがい物』じゃないのか?」
まあ、本を読まないと、お菓子あげないって言ったからなんだけどね。
そんなこと、言う必要ないよね。
ここで、女王が、ぽつりと言った。
「今のは、聞かなかったことにしてやる。
二度目はないぞ。王族なら、この意味くらいはわかるな?」
__そうだよね
よその国にいるのに、『不敬罪で首はねる』?
まさに、傍若無人だよ。
この国を侮辱したと受取られても、言い訳できない。
それに、ヒューマンの国に留学してるんだよ。
『ヒューマンごとき』は、言っちゃダメだよね。
「陛下まで、い、いらしたのですか。
つい、感情的になってしまいました。
も、もうしわけございませんでした」
「わたくしも、とんでもないことを言ってしまいました。
ど、どうか。今回ばかりは、ご容赦ください」
エルフとドワーフ学生が、ぺこぺこ謝っていた。
みっともないなあ。
「お前たちは、いったい何をやっているのだね」
今度は、エルフのお兄さんが現れた。
「ち、父上。なぜ、こちらに?」
お兄さんじゃなくて、お父さんだった。
エルフって、ほんとにわかんないよね。
「なぜ……? お前は、ほんとうにわからないのかね。
女王陛下が、『万能薬』の精製に成功したのだ。
見に来ないわけがないだろう」
「悪いが、一人分しかできなかった。
予備など、ないぞ」
女王が、とつぜん現れた、父親に言った。
でも、皇子ってのが、ほんとうなら、国王ってことかな?
「それは承知の上だ。
容器や、釜に残っている、ほんの一滴でいい。
見せて、いや、鑑定させてくれないか?
言うまでもないが、疑ってるわけではないぞ」
「容器? 釜?……そう言えば。
どうしたんだったかな?
おい、お前。何か知らんか?」
きゅうに、ぼくに振ってきた。
「ようやく思い出したのか?
王妃が倒れた場所に、放置されてたぞ」
「な、なんだとっ! し、しまった!
か、回収せねば!」
いきなり女王が、駆け出した。
あれから、何日、
そそっかしい、女王だな。
「シュウくん。どうして、いじわるするの?
シュウくんのことだもの。
その場で、収納しておいたんでしょ」
なぜか、アネットに叱られた。
「見てたのか?」
「見てなくてもわかるのです」
「そうなの。兄さまのやることくらい、すぐわかるの」
なぜか。ルリたちが答えた。
「いま、言おうと思ってたんだ。
なのに。女王が、最後まで聞かずに、駆け出しちゃったんだ。
オレは悪くないぞ」
開き直った。
ところが。
「き、貴様というやつはっ!
預かってるなら、さっさと、そう言え!」
あっという間に、女王が戻ってきた。
__地獄耳なの?
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